少女の想い
集落で暮らしていた時の私の仕事は、大人の人達が働いている間に子供達の面倒を見る事でした。
私の父を含め大人の男の人達の多くは長期間お仕事で集落を離れます。
母は大人の女の人達と一緒に集落近くの森に入って木の実などの採集をしたり、野生動物や魔物を狩ったりしています。まだ生まれて間もない子の母親は集落に残ります。母達は収穫が無くても日が落ちる前に帰って来るので寂しくは無いのです。
両親が仕事で居ない子供達は集落の一角に集まり、皆で日中を過ごします。私の役目は子供達が集落の外に出ないように見張り、怪我をしないように見守って、お昼ご飯を一緒に食べる事でした。
私も子供でしたが、子供達の中では一番年上でしたのでその役目を任されていました。皆良い子でしたので日々苦労することは少なかったですが、急に体調を崩す子が出た時はどうしたらいいか分からず泣き崩れてしまったこともありました。
いつも通り子供達と仲良く遊んでいると、父と共に仕事に行った男の人が独りで村に帰ってきました。何が起きたのか詳しい事は教えてもらえませんでしたが、悲しそうな顔をした母から、お父さんはいつもより帰って来るのが遅くなるのよ、と言われました。お母さんが居るから寂しくないよと母に抱きついたら、何故だか母は泣いていました。
子供達の多くは父親の事は聞かされていないようで、普段と変わらない日々を過ごしていました。
暖かくなって外で遊ぶのが気持ちよくなってきたある日、集落に残っている人達を束ねるウラさんが皆を集め、集落を畳んで移動することを宣言しました。
久しぶりの引っ越しです。毎年、暖かくなってくると北の山に移動し、寒くなって来ると南の森に移動していました。今年は北の山へ移動せずに父達が帰って来るのを待つんだと思っていました。母が言うには更に南に行くそうです。南のストラオス王国という国へのお引越しでした。
大人達が荷物を片付け馬車へと運ぶ邪魔にならないよう、私は子供達を集めました。引っ越しに慣れていなくて混乱している子供も居ました。私ももっと小さい頃は自分の家が分解されていく姿を見て泣いたことを覚えています。
翌朝、完全に住居を撤去した私達は、馬車に揺られて南に向かいました。私はあまり馬車が好きではありません。長く馬車に揺られていると気持ちが悪くなってしまうのです。でも、ずっと母に甘えられるので本当は馬車旅が好きでした。
初めて入ったストラオス王国には見た事無い物がいっぱいありました。大きな家、綺麗な服、美味しい食べ物、いっぱい驚きました。私は集落で使っていた小さなお家も好きでしたが、服と食べ物にはとても興味を持ったことを覚えています。
ストラオス王国の王都にも連れて行って貰いました。まともに歩けないほど沢山居る人に驚き、高く聳えるお城や教会を見上げて首が疲れました。食べ物屋のお店がいっぱい並んでいて、全部食べようとしたら父に怒られ、男爵家のオススメだと言うハンバーガーとフライドポテトで我慢しました。美味しかったです。母に買って帰りたかったのですが、日持ちしないからダメだと言われ、フライドポテトに使われていたケチャップだけ買ってもらいました。
観戦した武闘大会は凄い熱気でした。私は魔導師の部の決勝戦と、アリー先生の魔法演武が面白かったです。私は火魔法と土魔法が使え、風魔法を練習中です。父が集落に滞在している間は良く魔法を教えてもらっていましたが、ここしばらくはあまり練習できませんでした。
でも、この武闘大会が終われば、私達が新しく暮らす村の人達が子供達に魔法を教えてくれることになっています。私は父に教えてもらおうと思っていたのですが、どうやら村に引っ越ししても父は忙しいようです。
仕方ないので皆と一緒に魔法を習っています。アリー先生とマリー先生とマルテ先生が子供達に魔法を教えています。マリー先生は私と1歳しか変わらないのに色々な魔法を使えました。
アリー先生の弟で、ゲオルグ様という方が居ます。父からも母からも、未来の男爵家当主だから様付けで呼びなさいと言われています。
でも、ゲオルグ様と呼ぶと、ゲオルグ様は少し寂しそうな顔をします。こっそりゲオルグ先生と呼ぶと、とても嬉しそうにします。もの凄く分かり易い方です。
私は他に人が居ない時は、ゲオルグ先生と声を掛けるようにしています。何かを教わっていれば先生とも呼びやすいのですが、ご自身のお仕事が忙しいようで村に居ないことも多いのが残念です。
魔法の他に、体操して、走って、剣の稽古をして、勉強をして。集落で子供達の世話をしていた時より、とても忙しい生活になりました。でも、私が1人になる自由な時間も増えました。母や父と触れ合う時間も。
私は夕食までの自由時間は出来るだけ温室で過ごしています。エステル先生の邪魔にならないよう、こっそり薬草の事を勉強しているのです。
いつか子供達が体調を崩した時、今度こそ私が助けてあげられるように。




