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大賢者の弟  作者: 山宗士心
第2幕 フリーエン傭兵団
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副団長の日常

 4月末日、村建設の大部分を担っていたヴルツェルフリーグ家の建設部隊が村を離れて行った。


 傭兵団員達は1か月以上共同生活していた建設部隊が帰郷することを寂しく思ったが、団員達のそんな気持ちは見送りに行くことで軽く吹き飛んだ。


 運んで来た建設物資を村で降ろしたとは言え複数人が乗り込んでいる馬車が、馬車とは思えない程の速さで街道を走り去って行ったからだ。恐らく馬車を牽いている馬が一番驚いている事だろう。


 これがドワーフ族の重力魔法かと、それを目撃したリカルドは唖然とした。


 重力魔法の言霊は最近男爵家が使い始めた物で、傭兵団の中でも参謀のアヒムは覚える事が出来た。村関係者以外へ広める事は数年間禁止されているが、その意味も理解出来る。移動速度が高まり、物資や人の輸送が簡単になる。これほど戦争に有利な事は無いだろう。リカルドは重力魔法が広まった未来を想像し、1人身震いする思いだった。




 村建設が一段落したころから傭兵団員にも各自個別の仕事を割り振られた。

 山林を管理する者には飛行魔法を習得した数人が選ばれた。

 村と王都を定期的に往復する輸送部隊には、重力魔法が使えるアヒムの他、読み書き計算が得意な団員達が選出された。


 残った物達は村の警備兼農作業。警備と言っても村人は傭兵団ばかりで規律は整っている。国境も遠いので他国から攻撃される心配もない。夜間の盗賊等を警戒して数人が寝ずの番をする程度しか警備の仕事は無かった。

 リカルドはヴァルターが作った鍬を手に畑を耕し、植物の種を蒔いて水路から運んで来た水を撒いている。リカルドもヴァルターも幼いころから農業を手伝い暮らしてきたため苦も無く熟していたが、数人の団員には不慣れな仕事だった。声には出さないが不満に思っている団員も居るだろう。

 しかし他に仕事は無い。衣食住を提供してもらっている対価は労働で返さなければならない。畑の収穫を経験してその喜びを体感したら不満も無くなるだろうと考え、リカルドは団員達を励ましながら今日も畑を耕していた。




 建設部隊が離れて数日後、男爵から号令がかかった。

 曰く、第一王子が村に来るから宿の従業員と警護役を振り分ける、と。

 宿は建設済みだが未だ利用する者が居ない為誰も管理していなかったが、男爵家に仕えるマルテが臨時の女将となり、数人の団員達と共に掃除から始まりベットメイキング、料理の準備を行った。


「これなら農作業をしている方が良かった」


 村に外部の人がやって来て宿が稼働し始めた時、農作業を離れて宿で働くことを選んだ団員が愚痴を溢した。


 男爵の話を詳しく聞かなかった団員は、王子とその後衛数人を相手にすると考えていた。しかし王都の造船所や船着場から多数の人が宿にやって来た為、宿で働く団員達はてんてこ舞いになってしまった。自分のペースで作業が出来る農業と違って、客の要望に応える必要がある宿の仕事に参っている。農業も植物の要望に応える必要があるんだが、団員はまだそこまで農業の事を理解出来ていなかった。


 王子達が村を離れても、宿は完全に無人とはならなかった。村の水路と池を使って舟の耐久試験を行う造船所の職員が残っていたからだ。宿屋の団員達も少しずつ仕事に慣れてきてはいたが、少しずつ不満が溜まっているようで、リカルドはその愚痴を聞くことを夕食後の日課としていた。




 愚痴の量が日に日に増え、そろそろ団員達の不満を解消させる何かを考えないとなと思っていたリカルドは、王都で食料を買って帰って来た輸送部隊から嬉しい情報を耳にした。


 武闘大会が開催されることに伴い、北の国からの入国が解禁される。


 それを聞いたリカルドはこれで団員達の不満を解消できると思った。

 自ら国境の街まで家族を迎えに行こうとした団長を抑えて、宿での仕事に不満を感じている団員を選んで行かせようと考えていた。


 しかし、その計画は失敗した。


 団長は自分が行けないのならと、移動速度を優先して飛行魔法が使える団員を選んだ。宿で働いている団員もコツコツ練習しているようだが、まだまだ自在に飛び回れるほどではない。飛行魔法が得意な団員は山林での仕事に回されていた。山林の団員は団長からの指示を断らず、国境の街に向かって飛んで行った。


 どの団員も家族と早く会いたがっている。断らないのも仕方ないが、やはりこの世界は魔法の力がものを言う。リカルドは宿の団員と酒を呑みかわしながら、もっと魔法を練習しようと励ますことしか出来なかった。

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