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大賢者の弟  作者: 山宗士心
第2幕 フリーエン傭兵団
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副団長の過去

 フリーエン傭兵団の副団長を務めるリカルドは幼い頃、虐められっ子だった。


 リカルドが育った村には獣人族と人族が一緒に住んでいたが、リカルドの同世代で遊び相手になる獣人族の子共はいなかった。人族の子供達は多くいたが、その中には魔法が使えないリカルドを虐める子供もいた。虐める子供を追い払うのは、決まってリカルドより少し年上の女の子だった。


「獣人族なんだからもっと秘技を練習しなよ。そうしたら虐めっ子なんて返り討ちに出来るでしょ」


 リカルドを助けた後、女の子はいつも同じことを言っていた。


 力をつけろ、迎え撃て。


 リカルドは虐められるよりも、その言葉を聞く方が嫌だった。

 何故自分は皆と同じ魔法を使えないのか。どうして一人で皆と違う訓練をしないといけないのか。幼いリカルドはそれが理解出来なかった。


「秘技じゃなくて、僕にも魔法を教えてよ」


 女の子に助けられた後、リカルドは決まって同じ言葉を返していた。魔法を覚えたい。皆と一緒に。女の子と一緒に。

 女の子はごめんねと言い、毎回リカルドの頭を優しく撫でてくれた。




 リカルドは少し成長した子供の頃、ヴァルターの事が嫌いだった。


 リカルドをいつも助けてくれる女の子とヴァルターがいつも仲良くしていたからだ。虐めっ子よりも、秘技を押し付けてくる父親よりも、リカルドはヴァルターの事が嫌いだった。


 嫌われていることに気付いていないヴァルターはリカルドに優しく接していた。祖父同士が従兄弟の為に産まれた時から親戚付き合いが有り、末っ子だったヴァルターは年下のリカルドを弟のように可愛がった。リカルドは恋のライバルに優しくされるのが嫌いだった。


 だがヴァルターと一緒に居るといつも女の子が話しかけてくれるから、出来るだけヴァルターと一緒に居ようと努力した。


 リカルドが1人の時は勿論、ヴァルターと2人でいる時も虐められることがあった。

 ヴァルターはまともに魔法が使えない、と罵られていた。土魔法や風魔法を習得した人族の子供達が、いつまでたっても火魔法しか使えないヴァルターを馬鹿にしていた。


 何度か悪口を聞き流していたが、ヴァルターはある日特大の火球を出現させて、そこまで言うならこの魔法を防いでみろと、虐めっ子に向かって投げつけた。慌てた大人達が何とかヴァルターの火球を防いだが、腰を抜かして逃げ惑っていた虐めっ子を見てリカルドは少し気持ちが晴れた思いがした。


 その後、なぜかリカルドも一緒に村の大人達から叱られた。


「俺は獣人族の血が入っていることを誇りに思っている。教えてもらえるのなら秘技を習いたいとも思っている。俺の血を馬鹿にするやつは誰であろうと許さない」


 大人達に囲まれて怒られている中、ヴァルターは村中に聞こえるほどの声でそう叫んだ。

 リカルドは少しだけ、ヴァルターの事を嫌わなくなった。




 リカルドは成人したがまだ子供らしさが残る頃、村を出る事になった。


 ヴァルターと、その友達のアヒムと、リカルドの3人で村を出た。ヴァルターとアヒムが村を出る理由は、兄弟が多くて村に残っていても仕事が無いため。リカルドは何時まで経ってもからかってくる虐めっ子から離れる為に。いや、特に理由も無く、何となくいつも通りにヴァルターと一緒に行動することを決めていた。


 そのころにはリカルドも秘技を習得し、虐めっ子には負けない体と技を持っていたが、ついに反撃をすることなく村を去った。


 もうリカルドに、


「獣人族なんだからもっと秘技を練習しなよ。そうしたら虐めっ子なんて返り討ちに出来るでしょ」


 そう声を掛けてくれる女の子は村から居なくなっていた。




 村を出た3人は先ずは冒険者として登録し、必死に依頼を熟した。魔物を狩り、商人の荷を運び、貴族を護衛した。依頼を熟してお金を貯めながら、少しずつ仲間を増やしていった。同じような境遇で旅立った新人冒険者、戦争に負けて逃げ出してきた兵士、売られていた農奴。仲間になりたがった人物は手当たり次第引き込んだ。優秀で頭角を現してきた仲間はそのうち自立していったが、今でもたまに連絡を取っている。


 傭兵団として大きな組織を作って活動が安定してきた頃、団長が嫁を迎えた。


 その女性はもう昔のようにリカルドの頭を撫でることはしないが、昔と変わらぬ優しさでリカルドに接してくれた。

 ここまで特に目標も無く働いていたリカルドだったが、その女性を悲しませないためにも、団長や傭兵団を護って行こうと心に決めたのだった。


 その後、リカルドも結婚し、もうすぐ子供が産まれる。他の団員達も家族を増やし、いつのまにか傭兵団は家族合わせて100人を超える大所帯へと成長していた。


 傭兵団にはリカルドを含めて4人の獣人族の戦士が居て、それぞれに家族を作り、子を生した。しかし、4人とも獣人の中でも種が異なり、独自の秘技を使い護っていた。


 リカルドは子供の頃を思い出していた。自分1人で特訓をする寂しさを。皆が使える魔法が使えない悲しさを。産まれてくる子供にはそんなを思いをさせたくないとの思いを秘めていた。そんなある日、リカルドに衝撃が走った。


 人族の女の子が秘技を使い、獣人族の成人男性を投げ飛ばした。


 正確には最後の投げの部分は風魔法を使っていたみたいだが、それでも人族が秘技を駆使して獣人族と攻防を繰り広げたのには変わりない。


 人族が秘技を使えるのなら、獣人族も魔法を使えるのではないか。リカルドは熱くなった目頭を隠すことも出来ずに立ち尽くしていた。

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