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大賢者の弟  作者: 山宗士心
第2幕 フリーエン傭兵団
31/58

団長の希望

 “土葬”と呼ばれるフリーグ男爵と王都の冒険者ギルドで初めて会ったヴァルターは、腰が低い男だなと感じた。


 ギルドマスターにペコペコ頭を下げるだけではなく、余所者で平民の自分達にも丁寧な話し方で接して来る。貴族としては珍しいタイプの人間だ。“土葬”として知れ渡っている人柄が間違っていたのか、余程人手が欲しくて苛烈な性格を押し殺しているのか、どちらか判断がつかない。

 ヴァルターは警戒するに越したことは無いなと思い、男爵を完全には信用しないことにした。


 男爵との話し合いは主にギルドマスターが主導した。ヴァルターは時折ギルドマスターから投げかけられる質問に、事前の打ち合わせ通り答えた。男爵からの問いにはギルドマスターが間に入り、ヴァルターがハイかイイエで答えられる質問に作り替えることで無駄な会話を省いていた。男爵はそのことを気にした様子も無く、終始愛想の良いままで話を続けた。


 ある程度話の内容が纏まった所で、家族と相談して来ると言って男爵は帰ってしまった。小走りにギルドを出て行った男爵の様子を見たギルドマスターは、男爵家の司令塔に判断を仰ぎに行ったんだと言っていた。司令塔とは恐らく妻である“暴風”の事だろう。なるほど、男爵家で注意すべき人は“暴風”なんだ、とヴァルターは男爵家内の序列を入れ替えた。




 暫くして戻って来た男爵は、傭兵団を受け入れる、と表明した。しかし、受け入れに安堵したヴァルター達の横で、男爵はギルドマスターに対して相談を始めた。信頼できる複数の冒険者をギルドマスターの自腹で貸してほしいという内容だった。ヴァルターが男爵を信用しきっていないのと同じで、向こうも傭兵団の事を完全には信用していないということだ。

 ヴァルター達に裏切る意志が無い事を事前に確認しているギルドマスターは、なるべく自腹を切りたくないとどんどん値切っている。あまり男爵側の要求を拒否していると自分達とギルドマスターの繋がりを勘繰られるのではないか、とヴァルターが心配になるほどの値切り方だった。


 最終的に冒険者を雇うという話は無くなり、今夜男爵家で行う宴会費をギルドマスターが持つ事で話は纏まった。ギルドマスターは何日も複数の冒険者を雇うよりは少なくて済んだと安堵していたが、ギルドマスターに隠れて口角を上げた男爵をヴァルターは見逃さなかった。




 男爵とギルドマスターの間で話が決着すると、ヴァルター達は男爵邸へと招かれた。このまま家族に紹介し、宴会の後に一泊して、早速明日、村へ同行しろというのだ。ギルドマスターも一緒に男爵邸へ行くと言われては断れない。せめてアヒムだけでも医者を探しに行かせようかと考えたが、ギルドマスターの目が光っている間はそんな余裕が無かった。翌朝、出発前の僅かな時間にヴァルター達は賭ける事にした。


 男爵邸に着いたヴァルター達はセンスの良い調度品が並べられた応接室に通された。フカフカのソファーに腰掛け、恐らく家族を描いたのであろう大きな絵画を見上げたヴァルター達は、男爵家の羽振りの良さを実感した。


 応接室で雑談をしていると、小さな子供が入室して来た。父親譲りの黒髪短髪で、やや茶色目がかった瞳を持つ利発そうな男の子。ギルドマスターとも臆せず会話する少年は男爵家長男のゲオルグだと名乗った。男爵家を継ぐ可能性がある子供に嫌われるのは後々宜しくないと考えたヴァルターは、席を立って丁寧に自己紹介を返した。


 ヴァルター達との挨拶が終わると、男爵は息子に先程冒険者ギルドで行われた会話の内容を話し始めた。ギルドマスターから宴会費用を勝ち取ったと男爵が自慢げに話しているのを眺めていると、応接室の扉が大きな音を立てて開き、人族の女性がずかずかと入って来た。


「後でとか言わずに速く酒を持ってこいよ」


 此処に誰が居ようと気にしないと言った様子の女性は、開口一番酒を要求した。すらりと長い脚と服からはみ出さんばかりの豊満な胸。闇に溶け込んでしまいそうな綺麗な髪質と端正な顔立ち。黙っていれば皆が振り返るほどの美人だとヴァルターは目を奪われた。


「なんで俺がドーラに酒を奢らにゃならんのだ」


 ギルドマスターが女性の名を呼んだことで、ヴァルターは気づいた。その名前は聞いたことが有るが、“暴風”の名じゃない。“暴風”のライバルで、もっと危険な存在の名だが、ヴァルター達にとって希望を繋ぐ名前でもあった。


「な、なあ。あれって“雷帝”のドーラか?」


 動揺したヴァルターは貴族の後継者に対する丁寧な言葉遣いを忘れ、ゲオルグに自分の考えが正しいかどうか確認した。視線の先でギルドマスターを腐している女性の情報をいち早く得なければ。今後の対応を間違えないためにも。


「そうですよ、ドーラさんは国外でも有名なんですか?」


 ヴァルターは知っている限りの情報をゲオルグに伝えて、本当に自分の知っているドーラかと確認を取った。幼いゲオルグはその情報をよく解っていないようだったが、10樽分の酒を一晩で飲み干したという話を伝えると、それは本当でしょうねと笑っていた。


 “雷帝”の実力は北の国にも知れ渡っている。この国に留まらず各国を渡り歩き、何かしらの騒動を巻き起こすからだ。そして“雷帝”が常に2人の仲間と一緒に居ると言う情報もヴァルターは把握していた。


「もしかしてシビルとバスコもいるのか?」


「はい、シビルさんに村でやってもらいたいことがあるから雇ったんです。3人とも村にしばらく滞在しますよ」


 エルフ族のシビルが居る。その返答を聞いたヴァルターは目頭が熱くなるのを感じた。


「よかった。この話に乗ってよかった。これで隊員達を助ける事が出来る」


 ヴァルターはエルフ族の解毒薬を手に入れられる可能性がある事を、心の底から喜んだ。

 貧しい傭兵団に参加してくれた団員達を縁もゆかりも無い土地で死なせずに済む。

 いつのまにか両目から大粒の涙を流して喜んでいるヴァルターを、男爵家の長男は不思議そうに眺めていた。

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