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大賢者の弟  作者: 山宗士心
第2幕 フリーエン傭兵団
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団長の後悔

 フリーグ男爵家が入植者を募集しているという情報を得たヴァルターは、すぐさま冒険者ギルドへ向かい、入植に応募する旨を伝えた。


 上手く行けば暫くの生活費を考えなくてもいい。村の建設を手伝う事にはなるだろうが、肉体労働はお手の物だ。交渉次第では出来高によって給料を貰う事も出来るだろう。


 最悪入植を拒否されたとしても、男爵と交渉する為に王都の男爵邸まで自然と足を運ぶことになるだろう。王都に入る事が出来れば、医者を探すことが出来る。せめて団員の治療だけでもとヴァルターは考えていた。




 国境の街の冒険者ギルドで入植応募に関する手続きを終えて待つこと1日、冒険者ギルドから連絡が来た。

 代表者が王都の冒険者ギルドまで来るように、という内容であった。

 ヴァルターは歓喜した。これで誰にも怪しまれることなく王都に入ることが出来る。なぜ冒険者ギルドに呼ばれたのかという事は深く考えもせず、ヴァルターは直ぐに支度をして王都へ向かう事にした。


 3日後、ヴァルターは副団長のリカルドと参謀のアヒムを連れて王都に到着した。飛行魔法が使えるアヒムは医者を探して薬を貰ったら直ぐに団員の元へ駆けつける為だ。リカルドには残していく団員達の指揮を頼みたかったが、ヴァルターを心配して護衛をすると譲らなかった。


 冒険者ギルドに入り受付で要件を伝えると、すぐに奥へと案内された。ずんずんと奥に進み、階段を上がって招かれた部屋はギルドマスターの執務室だった。


 突然現れた大物に驚きを隠せず立ち尽くしてしまった3人に、ここまで案内してくれた受付の女性が挨拶をするよう促し、3人は漸く驚愕の呪縛から解放された。


「お前達の事は少し調べた。傭兵団と名乗っているが北の国では大した実績も無く、何でも屋として名が知られているらしいな。その何でも屋がこの国に何をしに来た?」


 話をふられたヴァルターは内心焦っていた。ギルドに呼ばれたのは詰問の為か。ギルドマスター直々に対面するとは余程重要な案件と向こうが捉えている証拠だ。


 この国のギルドマスターの実績は他国まで轟いており、ヴァルター達の耳にも当然入っていた。

 ドワーフ族直伝の金属魔法を得意とし、獣人族の戦士とも素手で互角に渡り合えるほどの力を持つ。たった一人で巨大なドラゴン族を討伐した噂話は、本人を目の前にすると噂では無い事を確信出来る。それほどの威厳と風格がこのギルドマスターにはあるとヴァルターは思えた。

 この怪物相手に下手な返しは出来ない。なるべく嘘をつかないようにと心がけ、ヴァルターは慎重に口を動かした。


「2月末日に国境を通過したのは検問の書類で確認している。魔物の討伐依頼だそうだな。討伐は出来たのか?」


「いえ、どうやら依頼主に騙されていたようでして、魔物は居ませんでした。そのかわりに謎の集団から襲撃を受け、祖国へ逃げ帰るところを国境封鎖により立ち往生していたのです」


 襲撃者の情報は余すことなく伝えた。ヴァルターが得ている情報ではその集団は既に近衛兵に捕まっている。恐らくギルドマスターにも詳細な情報は伝わっているのだろう。自分達は騙された被害者であるという点を不自然にならないように強調しながら、ヴァルターは話を終えた。


「なるほど。お前達があの村に関わっていた事はよく理解出来た。お前達を襲った集団はその後村を襲撃し、返り討ちにあって捕まっている。しかしその前に別の部隊から火球で攻撃されたと、村に居た者から報告を受けている。正直に答えろ。火球を放ったのはお前達だな」


 ギルドマスターの本気の目を見てしまったヴァルターは、自然と首を縦に動かしてしまった。


「あの村で王子誘拐事件に関わったが、お前達は依頼主が誰かも知らないし、何処へ逃げたかも知らない。只利用され、犯人に仕立て上げられそうになった所を逃げ果せた。そういう事だな」


 今度はしっかりと意識して首肯する。本当に王子誘拐事件の事は知らなかった。ヴァルターはせめて罪を軽くしようと無駄に抵抗することを止めていた。


「そんなに悲観することはない。既に王家には報告してあるが、こちらに任せるという言質を得ている。王子を攫った張本人でもなく、計画を考えた首謀者でもない。王家は逃げ出した奴らを探すことに手いっぱいで、お前らを捕らえておくほどの人手も牢屋もないんだ。それよりも俺はお前達の食い扶持が無くなり賊に身を落とす事を心配している。金が無いから、村の入植に募集して来たんだろ?」


 全てを見透かされているようでヴァルターは気が滅入った。何も考えずに美味しい情報に飛びついた自分が嫌になる。


「これから男爵を呼ぶから上手く話しを合わせろ。魔物の討伐依頼で入国した、依頼の詳しい内容は守秘義務があって言えない。そう口裏を合わせろ。悪いようにはしないさ。男爵は村で働く人員が欲しい、俺は面倒な賊に頭を悩ませなくて良くなって更に男爵に恩を売れる、お前達は安定した生活を得られる、皆幸せになれる計画だ」


 ギルドマスターは笑顔で今後の展望を傭兵団に提示する。が、急に声の調子を変えて、ただし、と付け加えた。


「お前達が今後自由気儘な傭兵団に戻ることは叶わないだろう。この話を断ったとしても王家からはお前達に監視が付くだろう。他国へ行っても冒険者ギルドがお前達の動向を注視する。この国に留まっている間に賊になりそうならその前に潰す」


 分かっている。この提案は受け入れるしかない。ギルドマスターの威圧にビビッてそう判断したわけでもなく、村で過ごす事への利点も考慮している。国へ残して来た子供達に安定した生活を送らせてやりたい。皆その考えは同じなはず。ヴァルターは未来を見据えてギルドマスターの話に乗った。


「ああ、そうだ。もう1つ伝えておかなければならないことが有った。王子誘拐事件には巻き込まれた子供達が3人居たんだが、その子供達はこれからお前達が世話になる男爵家の関係者だ。男爵家と言っても他国者には分からんと思うから分かりやすく言うと、“土葬”と“暴風”の関係者だ。王家は人手の問題でお前達を赦したが、男爵家はどうかな。黙っておいてやるから、くれぐれも悪さをするなよ」


 ギルドマスターの口から悪名高き“土砂降り”夫婦の名が出た事にヴァルター達は竦み上がった。男爵家に逆らってはいけない。一瞬で3人にそう思わせるほど、戦争での男爵夫婦の活躍は他国に知れ渡っていた。

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