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大賢者の弟  作者: 山宗士心
第1幕 大賢者の弟
3/58

きっかけは、

 リリーの父親である東方伯は、娘が嫁入りする時、自分の部下を娘と共に送り出した。

 生活面や仕事面でリリーを補佐するためだが、少々過保護な人選だった。

 特に先の戦争でも多くの戦果をあげた領内一の戦士を警護につけると言い出した時には、家臣からの批判が相次いだ。

 結局、戦争が終わり平和になったんだから戦力が減っても大丈夫、ダメなら自分が付いて行くと言う東方伯が押し切り、リリーの警護として家族と共に王都へやってきた。

 現在その戦士、ジークフリートは、王都で働く兵士達に訓練をつけて給料を得ている。

 一流の戦士が四六時中守っていなければならないほど、リリーの身辺に不安はなかったのだ。


 その戦士の妻マルテは、出産経験のある母として、リリーの育児を助けている。

 若い頃に男児を2人育てているマルテは、男爵家家中では大きな経験者だった。


 アリーの時は助言と手助けを行った。赤子のアリーは母親とそれ以外を区別出来ていたようで、母を探してよく泣いていた。その頃に妊娠していなかったマルテは、乳母として助けられないのを残念に思っていた。

 しかし今回はリリーと同時期に妊娠し、先に女児を出産している。

 今度は乳母としてリリーの助けになれる、とマルテは張り切っていた。


「ゲオルグ様、娘のマルグリットです。マリーと呼んで仲良くして下さいね」


 膨よかな体にマルグリットを抱え、ベッドで横になっているゲオルグに挨拶させるマルテ。

 新生児2人は眠っているのに、2人の初対面にマルテは満足気だ。


 男爵家に産まれた男の子は、ゲオルグ・フリーグ、と名付けられた。

 王国設立初期の英雄の名で、その英雄に肖って名付けられることの多い名前である。


「産まれて数日経ちましたがゲオルグはあまり泣かず、手もかからない子です。付きっ切りでなくても大丈夫ですよ」


 リリーはアリーを抱っこしたながら、やんわりとマルテに注意する。

 乳母をするため男爵邸に住み込む、とマルテが言い、産まれたばかりのマルグリットを連れて自宅を出て来てしまったからだ。


「旦那も息子達2人も、自分のことは自分で出来ます。アリー様のためにも、私はここにいた方がいいと思います」


 ゲオルグの横にマルグリットを寝かせながら、リリーの言葉に笑顔で返す。


 マルテはアリーのことを心配していた。

 ゲオルグが産まれて以来、アリーが母親から離れようとしない、とメイド長のアンナから相談を受けたからだ。

 マルテは、次男を出産した時の長男の反応で、同じようなことを経験していた。アリーの気持ちを理解出来たマルテは、すぐに屋敷にやって来た。


「今のアリー様にとって、リリー様の代わりはいません。しかしゲオルグ様には、私がリリー様の代わりとしてお役に立てることがあります。少なくともアリー様の気持ちが落ち着くまでは、ここに居させて下さい」


 今まで世話になって来た年長者の言葉にリリーは納得し、アリーの頭を優しく撫でた。

 アリーは母親をじっと見ていた。


 その日からマルテは娘と一緒に屋敷に入った。

 旦那や息子達の文句を聞き流しながら、充実した子育ての日々を送っている。


 そんな子育ての中で、マルテに心配事が出来た。


 ゲオルグが本当に泣かない子だったからだ。

 食事が欲しい時や排泄の時など、自分の生理現象に必要な時は大きな声で泣くが、それ以外では反応が薄い子だった。

 アリーや自分の子達と比較しても泣かない。アリーは自分の父親にすら驚いて泣いて、慣れるまで時間がかかっていたというのに。


 よく泣いたアリーは元気な子になった。泣かないゲオルグは、将来大人しい子になってしまうのではないか。

 無駄に泣く子も疲れるが、泣かない子も心配になるマルテだった。




 泣かない以外は大きな心配事もなく、ゲオルグは生後3ヶ月を迎えた。

 マルグリットの方はよく発熱し、ニコルの診察を受けていた。


 ゲオルグは病気もせず丈夫だったが、反応が薄いのは相変わらず。

 マルグリットは対称的に、元気な時は、人の顔を見てよく笑う子だった。


 泣かない、笑わない、反応の薄さに家中のものが慣れて来た頃、ゲオルグが泣き、笑顔を見せるようになった。


 きっかけは、魔法。


 ゲオルグの目の前で魔法を見せると笑顔になり、魔法を止めると泣き顔になる。

 その反応の落差が面白いと人気になり、手が空いている人が交代で魔法を見せていた。


 その中でも、特に魔法を行使していたのがアリーだった。


 最初は火の玉や土の塊など、現象の出現や物質の移動を見せるだけだった。毎日毎日魔法を使い続け、ゲオルグに見せるために考えた。アリーはどんどん器用になり、炎を動物の形にしたり土で人形を作ったりするようになった。


 見守るマルテも感心する出来栄えである。


 その頃からか、アリーの意識は母親から離れていった。

 リリーの自由な時間が増えて、ゲオルグの面倒を見る時間が増えた。

 魔法以外の反応は相変わらず。


 マルテも時間が増えゆっくり出来る、そのはずだったが、新しくやりたい事が出来た。


 旦那と共に戦場に立っていたマルテも優秀な魔法使いであり、アリーの知らない魔法技術を持っている。


 アリーはマルテの技術を見て覚え、毎日ゲオルグに新しい魔法を見せている。

評価して下さった方、ありがとうございます。

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