フリーエン傭兵団
「本日はストラオス王国国立劇場に足を運んでいただき、誠にありがとうございます。私は当劇場の支配人、ヴァイスと申します」
舞台上に登場し、いつも通りの口調で支配人と名乗ったその男は、相変わらず白い仮面で顔を隠しているが、衣装は戦いから帰って来た兵士のように薄汚れていて、舞台には不釣り合いの剣を腰に差している。
前回まで開催されてた舞台での突飛な登場を期待していた観客達は少しがっかりとした様子で、舞台上の支配人を見上げていた。
「本日の演目は『大賢者の弟』の第2幕で御座います。第1幕では大賢者の弟の誕生から魔力検査に至る6年間をご覧いただきましたが、今回は彼が学校に入学するまで、6歳から10歳までの4年間のお話です」
支配人は落胆している観客の事は関係ないと、淡々と話を続けて行った。
「王都で御暮しの皆様はこの劇場で行われる舞台を楽しみにして頂けているかと思いますが、この劇場が完成するまでの王都の娯楽と言えば、誕生祭の屋台、魔力検査の結果、そして武闘大会でした。その武闘大会が本格的に開催され始めたのはこの頃からです。この大会の優勝者名簿にゲオルグ・フリーグの名は刻まれていませんが、一時期アレクサンドラ・フリーグが毎年参加して優勝を掻っ攫っていたのは、王都に住む皆様なら良くご存じでしょう」
「そして彼らの父親であるフリーグ男爵も精力的に活動を続け、王都の近くに新たな村を作り、新たな人材を雇い、与えられた領地を発展させていきました。その男爵の活躍を支えた人物にフリーエン傭兵団の皆さんが居ます。そうです、第1幕でも少しだけ登場しましたあの傭兵団です」
「世代交代を重ねた後も傭兵団の名を残していますが、彼らは今や男爵家のお抱え兵となっています。有名な男爵家の飛行輸送隊、そして飛行戦隊の一翼を担っているのは彼らです。彼らは元々他国の人間でしたが、男爵家に拾われた後にこのストラオス王国に根付き、名声を得て行きました」
「今回の第2幕では彼らの視点から男爵家を見つめ、男爵が、大賢者が、大賢者の弟がどのように暮らしていたのか、それを紐解いて行きたいと思います」
「就学前の子供が繰り広げた歴史書には書かれていない物語、『大賢者の弟』第2幕、始まります」
話を終えて一礼した支配人に対して客席から拍手が送られる。万雷の拍手を受けて支配人は突然剣を抜き、舞踊のように剣の型を繰り広げた。
支配人の剣舞を見せながらゆっくりと会場の灯りが落ちて行く。
完全に暗くなると同時に開演の合図が鳴り、幕が開ける。いつの間にか支配人の姿は見えなくなっていた。




