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大賢者の弟  作者: 山宗士心
第1幕 大賢者の弟
27/58

終幕

 幕が下り、暗かった場内にポツポツと明かりが灯っていく。


 観客の拍手に導かれ、支配人がゆっくりと壇上に現れた。仮面姿は相変わらずだ。


「長時間の観劇、ありがとうございます」


 支配人が一礼し、観客に謝意を述べる。


「大賢者の弟、ゲオルグの6年間は皆様にどう映ったでしょうか。当時を知る者たちの記憶を元に構成しましたので、物語は断片的になり伝わり辛いところがあったかもしれません」


 支配人がもう一度礼をし、今度は謝罪を伝える。


「しかし、ゲオルグが幼少期から魔法以外の才能を発揮し、姉の業績の手助けをしてきたことはお伝えできたかと思います」


「ゲオルグの最大の武器は考える力です。魔法を使いたい、どうやったら使えるようになるのかと日々考えていました」


「毎日図書館に通って魔法関係の書物を読み漁りました」


「魔法が持つ色の概念を調べ、人々が簡単に魔法を修得出来るキッカケを作りました」


「言霊から詠唱魔法が広がり、魔力量の大小に関わらず、皆が一定の魔法を使えるようになりました」


 支配人が1つ1つを思い返すように話していく。


「アレクサンドラが大賢者ならば、ゲオルグは研究者だと私は思います。大賢者の魔力を利用して実験を繰り返していたのではないか、とすら思ってしまいます」


 そんなバカな、といった様子で大袈裟な身振りをつける支配人。


「しかし、そんな努力も実らず、魔力検査は散々たる結果で終わりました。ゲオルグは魔導具を使ってどんな魔法を見せようと思っていたのでしょうか。検査記録を紐解いても、出て来る情報は魔法が使えないという1文のみ」


「皆様は気になりませんか?実はその魔導具を用意しています。その時の魔法を再現し、皆様にお見せしようと思います」


 観客がザワザワと蠢き出す。


「安全面には配慮していますが、室内ですので危険と感じる方もいらっしゃるでしょう。少々お時間を設けますので、身の危険に敏感な方は退場して下さい。本日はご観劇していただき、誠にありがとうございました」


 支配人の礼と挨拶に続いて、観客が次々と席を立つ。


 4割ほど残っただろうか、席を立つ人が居なくなったのを見計らって支配人が話し出す。


「残られた皆様、よろしいですね。では、始めます」


 もう一度観客に念押しして、1つの魔導具を取り出す。その黒光りしている魔導具は、親指と人差し指で作る丸より小さな球形。支配人はそれを宙に投げる。


「水は命の源。全ての生命に水は不可欠な存在」


 魔導具は空中に留まり魔法を発動。魔導具を中心に水流が渦巻き、片手に収まる程の水球と成る。


「水の力を得て、草木は成長する」


 支配人は同じ大きさの、しかし青々と輝く魔導具を取り出し、水球へと放り投げる。

 水球とぶつかった青い魔導具は、水を吸収。水の力を得た魔導具から蔦状の植物が伸びていき、複雑に絡み合う

 最終的に球形となったそれは、先程の水球よりも大きくなっている。水が無くなった最初の魔導具は、床に転がっていた。


「草木を元にして、火は盛んに燃え上がる」


 支配人は三度魔導具を取り出し、木球に向かって投げる。

 真っ赤に煌めく魔導具は、木球に当たった瞬間燃え上がり、植物を飲み込んでいく。

 木球よりも大きくなった火球は、青い魔導具を吐き出した。


「燃焼によって生まれた灰は、いずれ土に還る」


 黄色く閃く魔導具が、火球の内部に取り込まれる。

 火球の内側から徐々に土塊が成長。火は霧散し、土球が出現する。床にある魔導具は3つになった。


「土の内部で育った物は、金属となって掘り起こされる」


 真っ白に耀く魔導具が、土球にめり込んでいく。

 魔道具と接触した土の部分が徐々に金属へと置きかわり、最終的に鋼色の金球が完成した。


「冷えた金属の表面には水が生まれる。5つの魔法は輪廻する」


 床に落ちていた4つの魔導具の1つ、黒い魔導具が金球に引かれ、浮かび上がっていく。

 金球と魔導具が接触したところから水が流れ出し、金属は錆びて水に飲み込まれる。最初よりも大きな水球が生まれた。


 それからは順番に、床に転がっている魔導具が浮いては空中の魔導具と入れ替わる。それに習って木球、火球、土球、金球、水球が形成されては消えていく。出現と消失を繰り返していく中で、大きさだけは徐々に膨れて行った。


 最初の水球と比べて何倍も大きくなったところで、支配人は魔導具の1つを回収する。


 連鎖を断ち切られた魔導具は、しばらくその球形を維持していたが、次第に崩れ落ちて最終的に魔法は消えてしまった。


 全ての魔導具を回収し終えた支配人が喋り出す。


「どうでしたか?次々と魔法が入れ替わって綺麗でしたね。因みにこの魔導具による魔法は、攻撃目的ではありません。魔法間の繋がりを見せるために考えられたようです」


「普通の魔導具は1回魔法を発動させると、再度魔法を込め直す必要があります。しかしこの魔導具は、1つ前の魔導具の力を吸収して魔法を使ってます。5つ揃っていれば永久に動き続けます。ただしどんどん大きくなるので危険な代物ですが」


 支配人がちょっと戯けて危険性を指摘する。


「これを見て皆様はどう思われますか?取るに足らない物と思われるでしょうか。子供のお遊戯だと思われるでしょうか。私はこの魔法を見て、魔法界の新たな時代を感じました」


「この理論を理解すれば、多くの人が多様な魔法を使える未来が来るでしょう。火魔法が使えたら、4つの魔法に発展するのですから」


 観客からパラパラと拍手が起こっている。支配人の考えを理解した人が何人か居たようだ。


「さてお話はこれくらいに致しましょう。次回、第二幕は、6歳の魔力検査後から10歳の入学までの約5年間のお話です。しばらくは第一幕を上演致しますので、第二幕の開始日まで暫しお待ち下さい。本日は長い間お付き合い下さいまして、ありがとうございます」


 支配人が仮面を取りながら最後に深く礼をする。俯いた姿勢で顔はよく見えない。壇上は徐々に暗くなっていき、支配人の姿は闇へと消えて行った。


 6割に減った会場からは、万雷の拍手がいつまでも鳴り響いた。

一旦この話は休載します。

ここまでご覧になって下さった方、ありがとうございました。


1日置いて別の物語を投稿して行きます。

よければそちらも、宜しくお願いします。

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