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大賢者の弟  作者: 山宗士心
第1幕 大賢者の弟
26/58

魔力検査の日

「ゲオルグさん、お久しぶりです。お元気でしたか?」


 順番待ちをしているゲオルグさんに声を掛けました。


 今日は魔力検査の日です。

 お城に沢山の人がやって来ます。ゲオルグさんもその1人です。


 あの誘拐事件から数日が経っています。

 僕はあれ以来部屋に引きこもっていました。今日は久しぶりに部屋の外に出ます。外と言ってもお城の中ですけどね。


 妹からはこっ酷く怒られましたが、父と母には何も言われませんでした。両親の考えていることが僕には分かりません。


 魔力検査で僕は1番になります。今は出来ることをやって、両親に認めてもらうことが大事だと思います。


 今日の僕にとって最大の敵はゲオルグさんです。

 姉のアレクサンドラさんは歴代1位の記録保持者です。きっとゲオルグさんも同等の力を持っていることでしょう。


「これはプフラオメ王子様、ご機嫌麗しゅうございますです」


 なんか気持ちの悪い挨拶をゲオルグさんにされました。どこで覚えたんでしょうか。


「ゲオルグさん、普通に話していただいて構いませんよ」


「そうは言われましても王子様相手に不敬な言葉遣いをしてしまいましては我が男爵家の未来が危うくなってしまいますのです」


 一気に話して誤魔化そうとしてませんか?そんなことしても言葉遣いが気になります。


「気持ちは伝わりますが、やっぱり言葉遣いが変ですよ。後で教えるので、僕とは普段通り話しませんか?」


「そう?じゃあ止めるわ。流石に一夜漬けじゃ無理だったか」


 一夜とか二夜とか関係なく、先生がダメだと思います。


「僕の順番は最後なんですけど、ゲオルグさんは何番ですか?」


 他の受検者の様子を見たいので最後にしてもらいました。魔力の測定試験で好成績を出した人の技能試験は、特に見ておきたいですね。


「6番だから、直ぐだね」


「マルグリットさんはどうしたんですか?」


 確かマルグリットさんも同い年な筈です。


「マルグリットは緊張してたからちょっと散歩に行かせた。昨日の夜からガチガチだったんだよ」


 しばらく2人で検査の様子を見ながらお喋りをしました。先に検査を受けた人達は、平均的と言ったところでしょうか。

 順番が来てゲオルグさんが呼ばれました。どんな結果になるか楽しみです。




 変ですね。何度測定しても結果がゼロになってしまいます。装置の故障ですか?

 アレクサンドラさんの測定時も装置が故障したと聞きます。そういう家系なんでしょうか。


「最後に回されちゃった」


 ゲオルグさんが落胆した様子です。割と早い順番から1番最後ですからね、暇を持て余してしまいます。

 一緒に他の人の検査を観ましょう。きっと楽しいですよ。




 測定試験でなかなかの好成績を残す人が数人いましたね。

 技能試験での演出も見事でした。マルグリットさんもその1人です。ですが僕も負けられません。


 集中して、測定装置に手をかざします。


 ふぅっ、はっ。


 おおお、なかなかいい数値が出ました。

 アレクサンドラさんには及びませんが、今日1番の数値です。やりましたよ。

 ゲオルグさんとマルグリットさんが拍手で迎えてくれました。次は再びゲオルグさんです、頑張って下さい。




 やはりゼロですか。検査員が色々な道具を持ち出して来ましたが、どれもゼロです。

 総魔研の人達が集まって話をしています。

 僕もそろそろ技能試験の会場へ行かなければなりませんが、どうなるか気になります。


「協議の結果、ゲオルグ・フリーグの検査結果は、魔力なし、とします」


 検査員の1人が告げました。衝撃です。稀に魔法を使えない人族が産まれると聞いてましたが、まさかゲオルグさんが。


 ゲオルグさんは納得した様子です。知っていたんでしょうか。

 まあそうですよね。家族皆優秀な魔導師です。自分が魔法を使えないなんて早々に気づくでしょう。


 ゲオルグさんが近寄って来ました。なんて声を掛けたらいいか分かりません。


「王子、次の検査に行かないと失格になるよ」


 そうでした、これで検査は終わりではないのです。次の検査を乗り切れば評価が変わるかもしれません。

 ゲオルグさんはどうやって魔法を使うのでしょう?




 技能試験担当の皆様、すみません、お待たせしました。

 先に試験を行なっていた人達は誰もいません。残るは僕とゲオルグさんだけのようですね。

 フリーグ男爵を含め、大人の人が何人か見物しています。あ、妹も居ますね。手を振っておきましょう。


 では、行きます。


 僕が使える魔法は、火、土、風。僕は火魔法を発動。

 標的と僕の間に大きな火球を出現させる。


 紅蓮に渦巻く火球を、動く標的の1つへ発射。標的に触れて爆発する。


 爆発した火球は3つの小さな火球に分かれ、残りの標的に襲い掛かる。


 上下左右にフラフラ動く標的へ、寸分違わず衝突し炎上。

 見事1つの魔法で4つの標的を破壊した。


 上手くいきました。

 村から出るときにアレクサンドラさんが使った、巨大な火球を見本にしたのは内緒です。


 見物者からも拍手が起こっています。ありがとうございます。




 ゲオルグさんの検査がなかなか始まりません。何やら揉めているようです。

 どうやらゲオルグさんが試験に魔導具を持ち込みたいと主張しているようです。ですが試験官は持ち込み不可だと拒否しています。


「ゲオルグさんで最後なんですから、見るだけ見てもいいじゃないですか」


 試験官に訴えてみます。僕はゲオルグさんがどんな魔法を使うのか楽しみにしていたんですよ。


「魔導具の使用は禁止です。魔導具を使えば獣人だって魔法は使えるんです。自分の実力を示すのが試験の本分ですから、魔導具を使うと失格になりますよ」


 試験官は規則厳守のようです。うーん、なんとかなりませんか?


「そいつは魔力なしの無能だから魔導具に頼るしかねえんだよ」


 誰ですか、ゲオルグさんを悪くいうのは。

 見物人から1人近づいてきました。バンブス兄さん、シュバイン公爵が失脚した事への仕返しですか?


「そんな言い方はないと思います。この試験は芸術点が付くはずです。魔導具を使ってどういう魔法を見せるのか、それを見てから判断してもいいじゃないですか」


「はん、どうせ失格になるんだから見る必要なんかねえだろ。魔力がねえ奴はどうやったって無能なんだよ」


「あれ?僕の測定試験の結果は見ましたか?魔力量で判断するなら僕の方が上ですけど。僕より無能な兄さん、僕の友達を悪く言うのは許しませんよ」


 兄さんと話をしていると、嫌な感情がお腹の底から湧いて来ます。こんな感情は生まれて初めてです。


「ふ、そんな数値もう関係ねえんだよ。囮にされた奴と、魔力がねえ無能。どちらも要らねえ奴だ、お似合いだな」


「関係ないってどういう事ですか。囮ってなんですか。言いたいことがあるならハッキリ言ったらどうですか」


「知らねえ方が幸せなことってあるんだぞ」


 僕はもう止まりませんよ。これ以上何か言うなら実力で排除します。


「あ、僕はもう失格でいいです。技能試験は棄権します。プフラオメ王子行きましょう」


 ゲオルグさんが僕の手を引っ張って歩き出しました。僕は引っ張られながらも兄さんを睨みつけます。

 勝ち誇ったような兄さんの顔を見て、嫌な感情が涙になって溢れて来ました。




 しばらく歩いて人気が無くなったところで、ゲオルグさんは歩くのを止めました。

 その頃には大粒の涙がボトボトと僕の目から落ちていました。


「僕の為に怒ってくれてありがとう。試験は残念だけど仕方ない。それよりも王子に友達と言われて嬉しかったよ、ありがとう」


 無能だなんて酷いことを言われたのに、ゲオルグさんは笑顔でした。


「ゲオルグさんは無能じゃないです。あんな強い人達にも恐れず冷静に立ち向かえる人が、無能なわけないです」


 バスコさんやドーラさんに立ち向かった姿を思い出していました。僕には出来ません。


「今は魔法が使えないから仕方ないけど、いつか評価させて見せるよ」


「そうだ、僕が王様になってこの国を変えます。魔力が少ない人でも評価される国に変えてみせます」


「ははは、ありがとう。期待してるよ」


 僕は決意しました。立派な王様になります。


「せっかく色々考えたのに、試験で魔導具を使えないとは知らなかった」


 ゲオルグさんが5つの小さな魔導具を取り出して弄んでいます。どうやって使うのか僕も気になります。


「そうだ、その魔法を見せて下さい。記録には残りませんが、僕がしっかりと覚えておきます。そしていつかゲオルグさんが優秀な人だって皆に伝えます」


 今度は僕がゲオルグさんの手を引っ張って歩き出します。

 裏庭に行きましょう。兵士さんにお願いして誰も来ないようにしてもらって。楽しみですね。


 途中で妹に見つかりました。ゲオルグさんと繋がってない方の手に飛びついて来ます。大丈夫、除け者にはしないよ。


 あ、男爵とマルグリットさん、いいところに。ちょっと手を貸して欲しいのですが。


 もう大丈夫です。取り乱してすみませんでした。これから裏庭でゲオルグさんの魔法実演会をやります。見回りの兵士さんに人払いをお願いしたいのですが、協力していただけませんか?


 見物人は僕、妹、マルグリットさん、男爵の4人。試験会場でやるより見物人は少ないですが、ゲオルグさんよろしくお願いします。


 ゲオルグさんの魔法は素晴らしかったです。

 5つの魔導具を用いて5種の魔法を順番に使い、小さな魔導具に収められるとは思えないほど大きな魔法になりました。魔法の相性を利用して魔法を育てる、と言う発想が新しいと思います。


 4人からゲオルグさんに大きな拍手を送ります。

 これを見たら、僕の友達を無能なんて言えない筈です。




 この年の魔力検査の記録にはこう書かれています。

 ゲオルグ・フリーグは魔法が使えない。


 でも僕の記憶には、ゲオルグさんの素晴らしい魔法が刻み込まれています。

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