大きな炸裂音
「ドーラ、北側からの攻撃が激しい。そろそろ村を覆っている植物がもたない」
シビルはそう言いながらゆっくり歩いてくる。特に焦っている様子が見えないのは度胸が据わっているのか、これが地なのか。
先程、村の南側から放たれた火球はドーラが水魔法で処理した。
敵も多少は工夫して魔法を使って来たが、ドーラの相手ではない。
子供から歓声を貰っても、自慢できるほどのことはしていないと思っている。
北側の新手が楽しめる相手であることを、ドーラは期待していた。
「北側に戦力を集中しているのか。何人ぐらい居た?」
ドーラはワクワクしているのを隠そうとしない。
「100人くらい。飛び越えようと数人が飛行して来たけど叩き落した。その後は分散せずに近づいてう、至近距離から火魔法を撃ってる」
それは好都合、とドーラはほくそ笑む。
「包囲が緩いなら逃げませんか」
ゲオルグがドーラに発言する。
「私達がここで逃げても公爵達は捕まらない。王子に計画書を持って行かせたが、あの紙に犯人の名前が書いてある訳ではないしな。ここで関係者を捕まえないと、知らんと言われて終わりだぞ」
ゲオルグも納得する。
その時、大きな炸裂音が響き渡り、村を覆う植物の一角が弾け飛んだ。
「あの植物はシビルが作った魔植物だ。火で炙ると膨張、破裂して反撃する。これで何人かは行動不能だろう。バスコ、そろそろ行くよ」
バスコは気を練り、秘技を発動する。
「私とバスコで攻撃する。シビルは子供達の護衛と行動不能者の捕縛。なるべく手加減するが、死にそうな奴が居たら手当しておいてくれ」
シビルから種子が入った袋を受け取ったドーラは、バスコを連れて走り出す。
破裂した一角からは敵が侵入しようとしていた。
「私達はこっちに」
シビルが子供2人を呼び寄せ、飛行魔法で屋根の上に飛び乗る。
「飛行して来た人を捕縛せずにはたき落としたのはどうしてですか?」
ゲオルグがシビルに質問する。
「村を覆ってる植物はしなやかで攻撃するのに便利、だけど曲がらないから捕縛には向かない。植物から植物を生やすことは出来ない。地面から別の植物を伸ばしてくる時間が無かった、から」
屋根から地面に何かの種子を蒔きながらシビルは返答する。
蒔き終わるとドーラとバスコが見える位置まで移動した。
「あの植物は竹ですよね。ここら辺では見たことないですけど」
「そうだよ、別の国で見つけた。面白い性質を持ってたからちょっと手を加えた。話はこれまで。しばらく静かにしてて、植物の操作に集中したいから」
シビルは魔法の準備をする。
ドーラ達の戦闘は、もう始まっていた。
バスコを敵集団に突っ込ませ、ドーラは少し離れたところから雷撃を撃ち込む。
バスコの側面から斬りつけようとする者を牽制し、バスコを避けて前進しようとする奴に一撃を喰らわせる。
倒れた敵の下へドーラは種子を飛ばす。
風魔法で運ばれた種子は標的近くの地面に落ちる。
落ちたところを見計らって、シビルが草木魔法を使い、倒れた敵を捕縛する。
バスコは横や後ろの敵を気にせず、正面から斬り込んで来る敵を相手する。
よく訓練されているが、人族の戦闘員が1人や2人くらいではバスコを抑えられない。仲間に当たらないようにと、遠距離から魔法を放って来ないのもバスコを有利にしている。
援護の無い前衛はバスコの圧力に負け、ジリジリと後退し折角開けた侵入口を塞いでしまう。
侵入口までバスコが前進し、村への侵入を完全に封じ込めたその時、そことは別の場所で植物が弾け飛んだ。
敵は最初の侵入口を囮にして、別の場所を攻撃、新たな侵入口が作っていた。
最初の侵入口をバスコに任せ、新たな侵入口にドーラが向かう。
侵入して来た敵は10人程か。ゆっくりと周囲を警戒しながら入って来た。
「バカめ」
ドーラは素早く地面に魔力を送り、土魔法を発動させる。
ドーラの魔力によって地面が盛り上がり、侵入者集団の四方を取り囲む。同時に侵入口も土で塞いでよく固めておく。
素早く散っていれば捕まらなかっただろうに、一網打尽だ。ドーラによって送り込まれた種子によって全員捕縛される。
捕縛を確認し、改めて侵入口を固めた後、ドーラはバスコの方へ向かおうとする。
「ドーラさん、上」
遠くから聞こえたゲオルグの声に反応して、ドーラは横に飛ぶ。
ドーラの上空から風の刃が降り注ぐ。可視化出来るほど濃縮された風は、地面が抉れる程の威力を持つ。それが多数襲って来た。
不意をつかれたドーラは反撃出来ず、地面を転がりながら回避に集中する。全ての刃を交わしきった頃には、侵入口から随分と離されてしまった。
風の刃を放って来た者達が上空から降り立つ。
迎撃を巧く回避して、植物を飛び越えて来た者が居たようだ。
3人降りて来たが、1人は捕縛された者達を助けに行った。1人は侵入口の土壁を破壊しに。最後の1人がドーラと対峙する。
「これで形勢逆転。バカはお前だったな。大人しく降参したらどうだ」
声をかけられたドーラは胸を張って答える。
「私達は大事な依頼を受けている。この程度で諦めることは出来ない」
「ふん、どうなってもお前達の運命は決まっているがな」
そう言いながら風の刃を放ってくる。
ドーラも雷撃を使って応戦。正面から放たれた魔法を避ける必要はない、と風使いに示す。
「流石は“雷帝”か。ではこれならどうだ」
ドーラと風使いの間に無数の刃が出現する。先程上空から降り注いだ数より多そうだ。
「自慢の雷ではこの数を相手出来まい」
出来なくは無いが真面目に相手をするのも面倒。ドーラは無視して自分の正面に土壁を出現させる。
風魔法は移動速度が速いが、途中で曲げることが難しい。直線進路だけ防げば十分だ。
「雷はどうした。そんな土壁では俺の魔法を防げないぞ」
よく喋る奴だ。ドーラは土壁に魔力を送り続ける。
「まあいいか。“雷帝”の名も今日で終わりだ。死ね」
無数の刃が土壁に向かって移動を開始。
移動開始から瞬時に最高速度へ達し、速度を威力に変えて土壁へ衝突する。
1発、2発と攻撃を受けた土壁はボロボロと小さなカケラを落としていく。
壁から逃げないようにと、壁の横や上を通過させて牽制する。
土壁に当たる数が多くなり、落ちるカケラが大きくなると、地面との接触によって土埃が舞う。
土埃が広がり、ドーラの周囲を包み込む。
もはや土壁は目視出来なくなり、ドガドガと刃が壁にぶつかる衝突音と、ガラガラと崩れ落ちるカケラの落下音が聞こえてくる。
風の刃はまだまだ飛来する。
「“雷帝”も呆気なかったな。これで俺も昇進、危険な現場とはおさらばだ」
まだ攻撃の途中だが風使いは勝利を確信する。
土埃は止まない。音もまだまだ鳴り続けている。




