裏切りの心配
僕の所為でまた捕まってしまいました。
扉を無警戒に開けてしまってすみません。
罠にかかってすみません。
皆さん、逃げて下さい。
大声で叫んでいると、誘拐犯の女性に黙っているよう言われました。
女性は笑顔でしたが、迫力があって怖いです。
女性が近くの椅子に座って喋って、子供達と会話しています。
そうです。僕はこの国の王子。大事件に巻きこんでしまいました。
すみません。黙っていろと言われたのに、我慢出来ずに小さく声が漏れてしまいました。
そうです。僕は約束を破りました。
使用人のミハウは良い人でした。長い間一緒に居たので、信用していました。
ちょっと城の外を見てみたかったんです。こんなことになるなんて想像もしてませんでした。
すみません。
楽しかったミハウとの思い出。いつのまにか目から涙が溢れて前が見えなくなり、大声で叫んでいました。
すみません。
男の子が僕以上の声を出して、僕を擁護してくれました。
ありがとうございます。
驚きと嬉しさで涙が乾いていきました。
男の子が席に着いて女性と会話が始まりました。
自己紹介から始めるようです。女性はドーラさんですか。
あ、はい、僕はプフラオメです、よろしくお願いします。
男の子はブラックさんと言うそうです。
ドーラさんとブラックさんが淡々と会話しています。
え。僕にエルフの血が流れているんですか?そんな話は母から聞いていません。
そんなぁ。数代も前ならエルフの草木魔法は使えないでしょうか。残念です。
ドーラさんから、混血は悪いことじゃないと励まされました。僕もそう思います。
気落ちしているとでも思われたのでしょうか。ありがとうございます。ドーラさんは意外と良い人みたいです。
しょ、処刑ですか。なんで急にそんな話になるんですか。
やめてください。僕が捕まったのと、母と妹は関係ないじゃないですか。
もし処刑するなら僕だけにしてください。母と妹は助けてください。
魔法の話?なんですか急に。
そうですね、兄と比べたことはありませんが、魔法の先生には褒められています。
ははは、自分で言うのは照れますね。
え、僕が国王に?そんなわけないでしょ、兄が2人も居るんですから。
もし2人を上回るほどの魔導師に成長できたら、ですか。
なるほど、兄達に使えている人にとって僕は驚異だと言うことは分かりました。
照れますね。
ドーラさんに依頼したのはシュバイン公爵でしたか。
あの人は会う度に睨んでくるので苦手でしたが、こういう裏があったんですね。
あの人の計画に利用されたと思うと腹が立ちます。
エルフのシビルさんが家に入ってきました。
何やらここに近づく集団がいるそうです。兵士では無いようですが、盗賊でしょうか。
皆が急に動き出しました。
ホワイトさんが地下へ向かい、獣人のバスコさんと共に出てきました。
僕の捕縛をシビルさんが解いてくれました。
レッドさんがブラックさんの剣に魔法を込めています。
あの剣は魔法剣でしたか。生きて帰れたら僕にも使わせてください。
「王子、これからアンタはシビルと共に王都に帰れ。アンタの生存を報告するのが第1だ。王都にいる男爵にひと通り話してある。この計画書を持って男爵邸に行けば色々話が進むようになってる。本当に爵位なんてもらって良いのかって言うくらいバカな奴だが、やる時はやる奴だ。裏切りの心配はしなくていいぞ」
計画書は公爵達の目を盗んで持ち出したそうです。瞬時に別の紙を燃やして偽装するなんて凄いです。
ドーラさんは簡単なマジックだって言ってました。僕にも使える魔法でしょうか。
「私とバスコは攻撃してくるであろう集団を迎え撃つ。子供達は地下でじっとしてくれていると助かる」
子供達の安全を心配してくれているんでしょうか。やはりドーラさんは良い人です。
男爵邸の場所はシビルさんが知っているそうです。僕はただ付いていくだけですね。大丈夫です、余計なことはしません。
「それってフリーグ男爵?」
レッドさんが割り込んできました。知り合いなんでしょうか。
「そうだが、知り合いか?」
「私の父。私が王子を抱いて飛んで行った方が絶対速いから、私が行く」
あらら、お父様ですか。こんなことってあるんですね。
「本当に親子か?アイツの出身地、嫁の名前、嫁の実家は何処だ?」
「ヴルツェル、リーゼロッテ、東方伯領のキュステ。こんなことやってる暇ないでしょ。私は裏切ったりしない。ゲオルグとクロエは置いていくから信用してよ」
ブラックさんとホワイトさんを指差し、興奮して言うレッドさん。
ブラックさんが頭を抱えています。
「それが本名か」
「そうです、嘘をついてすみません。信用していなかったもので。僕はゲオルグ・フリーグ。あっちが姉のアレクサンドラ・フリーグ。こっちはクロエ、友達です」
友達と呼ばれたホワイトさん、いやクロエさんが嬉しそうです。
羨ましい。僕には友人がいません。
「そうか。ゲオルグはアイツに似てる。アレクサンドラもリリーに似ているな。私は2人をよく知っている。その似てる感じを信じてやろう」
父親に似ていると言われたゲオルグさんも嬉しそうです。
僕は父に似ているでしょうか。
「じゃあこの計画書は王子に託す。確実に渡せよ」
はい。任せて下さい。
皆で家の外に出ました。
アレクサンドラさんに掴まるよう促されます。
妹以外の女の子に抱きつくのは初めてです。恥ずかしい、緊張します。
飛び出す前に囮を用意して、方角を確認するそうです。
アレクサンドラさんが何やら呟いています。緊張しているためか聞き取れません。
「花火」
最後の言葉は聞き取れました。
最後の言葉と共に馬鹿でかい火球が出現、上空に放たれます。
その大きさに驚いて言葉が出ない僕に、行くよと短く告げてアレクサンドラさんは飛び上がる。
先行していた火球に追いつき、一緒に上昇。
火球がすぐそこにあるのに熱くない。風魔法で熱を遮断しているんでしょうか。
かなりの高度で停止。僕は火球に見惚れていました。
アレクサンドラさんが、王都見つけたと言うのが聞こえました。火球の爆発後に出発するそうです。
僕には王都は見えません。足元に何人も人がいるのは見えました。
爆発します、伏せてください。聞こえる距離じゃないのに、下の人達に向けてつい叫んでしまいました。
火球は一旦縮んだかと思うと、爆音爆風と共に弾け飛ぶ。
火球は小さな火の玉に分かれ、四方八方に散らばって行きます。
僕達は爆風の勢いも味方につけ、王都に向かって飛行を開始しました。
僕達に気付いた下の人達から火の玉が飛来してきましたが、僕達の速度に合わせられていません。
攻撃されても速度は一向に衰えず、飛行は続きます。
飛んでいる間ずっと、僕は眼を閉じてアレクサンドラさんに掴まっているだけでした。