傭兵団の団長
俺の名はヴァルター、50人以上の部下を持つフリーエン傭兵団の団長だ。
俺たちは依頼があれば魔物を狩り、商人を襲い、国関係無く戦争に参加する武闘派の傭兵。
今回は、とある村を攻め滅ぼすという依頼が来た。
隣国からの依頼で、使者を寄越してきた。
依頼人の名前を伏せるのはよくあることだ、気にするな。
物騒な依頼だが、言うことを聞かない領民を処分してしまおうと考える領主はいる。
前金を充分頂いた。
特に断る理由は無い。我々はいつも汚い仕事で飯を食っている。
依頼人にはすぐに出発し、近日中に襲いかかると伝えてくれ。
なんだ、決行日はまだ決まっていないのか。わかった、連絡があるまで待機しておく。
使者はすぐに帰った。まあ居心地は良くないだろう。
後をつけるよう部下に指示する。
ついでに村の様子も探ってくれ。
2人の部下が出立した。幸運を祈る。
数日が過ぎ、再び使者がやって来た。日取りが決まったようだ。
村までの移動を考えると、それほど余裕のある日程ではない。
村の偵察に行った部下からの情報は得た。使者の後をつけさせた部下はまだ戻ってないが、仕方ない。出発の準備を急げ。
総勢40人、4台の馬車で移動する。残りは女子供とともに拠点で待機だ。
先ずは南の国境へ向かう。
何度か野営を行い、国境の街に到着。
街の真ん中に巨大な城壁と門がある。門を境に南北で国の所属が分かれる街だ。
国境を挟んだ両国、今は戦争状態ではないため出入国手続きも厳重にしていない。積荷を詳しく調べれば調べるほど、商人がめんどくさがって行き来しなくなる。
手続きの書類には魔物の討伐依頼と記載する。
すんなり通った。
使者に言われた通り記載したから当然だ。
こんなところまで手を回せるなんて、依頼主の力の大きさがよくわかる。
国境の町を抜けて南へ進む。俺たちの進路を阻む物は何も無い。
国境を抜けて3日目の朝、標的の村が何とか目視出来る距離まで来た。
大きな街道から少し脇に逸れて作られた村だ。
平地にあって見通しが良すぎるが、近隣の街からは離れている。
援軍が来るまでには終わらせられるだろうか。
使者からの合図はまだか。ふう、少し休憩をしよう。
副官3名は集合だ。
戦闘中はいつも通り10人1組。村の東西南北に分かれて行動、俺が指揮する組が北側だ。
ずるくないだろう。北側が1番逃げやすとかそんな理由で選んだんじゃない。
南側でもいいぞ。でもそうだな、ここは公平にクジで決めよう。
よし、俺の組が南だな。そうなる気はしてた。なあ、移動が大変だから北組の馬車を貸してくれないか?
では使者からの合図が来て1時間後に四方から攻め込む。戦い方は任せるが、出来るだけ目立たず行動、顔を隠して盗賊風にしろ。
そしてこれもいつも通りだ。標的の命は惜しむな、自分達の命は惜しめ。解散。
副官3名が自分の組に所属する団員を集める。これから細々とした作戦会議が始まる。
俺も集合をかける。取り敢えず、これからまた移動することを謝罪しないと。
使者が来て、去って行った。慌ただしいことだ。
こちらもすぐに移動だ。
村の東側を迂回して南下。
途中で東担当の組と別れる。
よし、この辺りでいいだろう。予定時刻まで待機だ。
戦闘前はいつも緊張する。あ、すまない、飲ませてもらうよ。
水筒に入った水で緊張を流し込む。よし、大丈夫だ。
時刻を過ぎたな、よし静かに突撃だ。
村までもう少し。
その時、村から馬鹿でかい火球が上空に打ち上がった。
みんな見惚れて足が止まっている。2つ目の朝日が昇ったようだ。
火球を見ていた部下の1人が、人影が見えると言っている。どこだ、俺には見えない。
上空に上がった火球はそれからどうなるんだ。そのまま真下の村に落ちるんじゃないか。部下が次々に喋り出す。
嘘のような突然の出来事に緊張感が緩んでいる。これは良くない。みんな、気を引き締めろ。
爆発します、伏せて下さい。一瞬、そんな声が聞こえた。
これまでに聞いたことのない爆発音が聴覚を奪う。
上空の火球が爆発によって細かく分かれ、四方八方に飛び散って行く。
飛び散る直前、俺も人影を見た。それは俺たちの上空を通過し、南へ飛んで行こうとする。
空だ、逃すな。出来る限り大声で叫び、出来る限り素早く火球を人影に放つ。
俺の他に2人魔法を放ったがもう遅かった。人影は有り得ない速度で見えなくなった。
くそ、あの火球は誰かを逃すための細工か。急がないと援軍が来る。お前達止まるな、急ぐぞ。
こちらの動きはバレているだろう、ならばこちらも静かに行動する必要はない。
走りながら火球を形成し、村へ放り込む。燃えてしまえ。
しかし火球は村に着弾することなく、下方から打ち上げられた水球によって迎撃される。向こうに優秀な魔導師がいるな。
足を止めて部下と息を合わせる。合計10個の火球が作られ、同時に発車する。同時だが狙いはバラバラだ、これは撃ち落とせまい。
そんなバカな。全部消されただと。敵の魔導師は10個の水球を同時に操作出来るのか。
くそ、遠距離ではダメだ、もっと接近するぞ。
向こうまだ防衛しかしていない、他の組への対処も必要だ、まだこちらが有利だ。
部下を鼓舞し、村の南門まで到達。走ってきた勢いそのままに、門へ体当たりだ。うおおおお。
ドンッ。
気付いたら俺は仰向けに倒れていた。何がどうなった。
部下に起こされ村を見ると、青々とした植物が村を囲み、天へと背を伸ばしていた。
俺が門へ体当たりする直前に、地面から生えてきた。俺は下から伸びてきた植物に跳ね飛ばされたらしい。
他の部下が植物に斬りかかっているが歯が立たない。燃えずらいようで火魔法も効いていない。
これじゃあ村に入れない、くそ、どうなってんだ。
どうするかと考えていると伝令が来た。あいつは西側を担当した組の奴だ。
「上空の火球発生後に北側の組が何者かによって攻撃されました。襲撃により4名が負傷、なんとか逃げ出し我々西組と合流しています。馬車の返却と今後の指示を求む、だそうです」
南に変わっててよかったあああ。
「わかった、こちらもこれ以上は攻め込めない、撤退だ。我々は東側の組と合流して移動、西は北と共に別行動とする。再合流地点は国境一歩手前の村だ。まずは馬車まで速やかに撤退」
走りながら部下の1人に、東側への伝令を指示する。東と別れた所が合流地点だ。
よし、全員馬車に乗り込んだな、出発だ。
西の伝令に北の馬車を返して別れる。ついでに我々の組の予備の傷薬と金を西に分け、誰も殺すなと厳命する。
予定地点で、問題なく東側とも合流出来た。
東は北が何者かに背後から襲われているのに気付いて助けに行こうとしたが、北が西に逃げていったため東は少し南へ陣取り隠れていた、と。
方角がいっぱい出て来て混乱する。まあ無事でよかった。
襲撃者はどうした?そのまま村を攻撃している?そうか、わかった。
ああ、我々の知らないところで何かが蠢いていることが良くわかったぞ。
我々はきっと利用されたんだ。
拠点に無事帰れたら引越しの準備だ、急げ。
我々はフリーエン傭兵団。逃げ足の速さでどんな戦いも生き抜いて来た。