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大賢者の弟  作者: 山宗士心
第1幕 大賢者の弟
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気を練ること

 ドーラの仲間である獣人族の戦士バスコは、捕獲した子供達を見張っていた。

 と言っても騒ぎ疲れたのか子供達は眠っている。


 捕獲騒動から一夜明けて早朝、依頼主から指定された村に着いたドーラ達は馬車を降り、御者に指示された空家に入った。


 ドーラともう1人の仲間のエルフは、子供達を縛り直し、村とその周囲を調べに出て行った。バスコは調査等に向いていないため留守番だ。


 近くにあった椅子に座り、堅い床で寝転がっている子供達を見下ろす。楽しかったな、とバスコは昨日の戦闘を振り返った。


 3人が待機していた家に、王子を抱えた2人がやって来た。その子を受け取って期日まで隠すことが今回の依頼だった。


 だがゆっくりと王子を受け取る暇もなく、今度は少女がやって来る。飛行しながら入って来た少女はそのまま家内を飛び回り、上空から石の雨を降らせて来た。

 その全てはドーラによって迎撃されたが、時折器用に水球や火玉を混ぜて来るのが厭らしい。


 少女が注意を引くなか、別の少年がこっそり侵入。王子を抱えた方を鞘で殴りつけようとする。

 あと一歩の所まで近づいたところをバスコが対応し、そのまま暫く戦った。


 子供にしては動きが良い。まだ力が弱く受け止められない攻撃は、素早く躱すか受け流す。相打ち覚悟で振り抜いてくる度胸もある。動き回ってこちらの左足を執拗に狙って来るのも厭らしい。

 少年の匠な反応を見ているうちにバスコは楽しくなってきた。こうしたらどうする、こっちから行くとどう出る、あえて子供が対応できるように手加減をする。側から見ると、それは師匠と弟子のようだった。


 いつのまにか少女が捕縛され、獣人の子が捕まっていた。周りが見えないくらい楽しんでしまった。

 獣人の子の捕獲に動揺した少年の剣を弾き飛ばして、こちらも終了。男子は大人しく確保された。


 楽しいひと時だった。

 戦争が終わって歯応えのある人間との戦闘は少なくなった。魔物との戦いとは違う対人戦の緊張感がバスコは好きだった。


 バスコは馬車内でドーラに、子供達を売らずに育てよう、と提案してみた。この子の将来を見たい、売ってしまうのは勿体無いとバスコは思う。ドーラも魔法を使っていた少女を気に入っているのではないかとバスコは感じている。


「この子らをどうするかは依頼完了後に依頼主と相談してからだ。良くないところを見られたからな。でも悪いようにはしないつもりだ」


 やはりドーラも気に入っているようだ。優秀な魔導師と戦うことが、ドーラは昔から好きだった。


 物思いに耽っていると、少年がもぞもぞと動き、声を出そうとしている。他の3人はまだ寝ている。他の子が起きるから大声出すなよと忠告し、猿履を外してやる。


「おはようございます、良い天気ですね。便所に行きたいんですが」


「今は俺1人なんだ。他の者が帰って来るまで我慢してくれ。それから今は雨が降っている。悪い天気で残念だったな」


 馬車に乗っている時は交代で排泄させたが、今は見張りを離れることは出来ない。


「そうですか、雨音が聞こえないので晴れているかと思いました。まあ雨が良いか悪いかは人によりますよね、農家さんは喜ぶでしょうし」


「ここは地下室だから雨音は聞こえないな。農家のことは知らないが、俺は雨は嫌いだ」


「濡れると色々面倒ですからね。獣人族のお兄さんは、えっと、僕はブラックと言います、お兄さんのお名前を聞いてもいいですか?」


「俺はバスコだ」


「バスコさんに質問してもいいですか?」


「これからどうなるかは俺も知らないから答えられないぞ」


「いえ、その話ではなくてですね。僕らを縛っているこの植物はなんですか?図書館の図鑑でも見たことないし、ちょっと動いてるのが気持ち悪いです」


「それは仲間のエルフが長年かけて作り上げた魔植物だ。俺も詳しくは知らないが、魔力を栄養に生きているらしい。そいつに縛られると魔力を吸収されて魔法が使えなくなるんだとよ」


「凄い発明ですね。一緒に居たあのエルフの方ですか?別の方ですか?僕は植物にも興味があるんで、一度お会いしたいですね」


 仲間が褒められるのは悪い気がしない。


「俺たちは昔から3人で1組だ。見回りから帰って来たら話を聞くように言ってやるよ」


「ありがとうございます。因みにこの植物って僕でも育てられそうですか?」


「さあどうだろうなぁ。草木魔法で成長させていたからな。俺や姉御は出来ない。ブラックたち3人が増えたから、昨夜は一晩中魔法を使って大変そうだったぞ」


「ははは、すみません。エルフの方にお会いしたら真っ先に謝罪します」


「それがいいかもな」


 バスコは昨夜の馬車内を思い出していた。よく考えるとにやけながら魔法を使っていた気がする。寧ろ喜んで育てていたのかもしれない。


「もう1つ質問なんですけど。バスコさんは僕が鞘に入った剣で殴りかかった時、素手で受けましたよね」


「そうだな」


「途中で剣を抜いてからも素手で受けていました。僕の剣、切れ味は悪いですが、全く斬れない訳ではありません。なのにバスコさんに傷1つ付けられなかったのは、魔法ですか?」


 バスコは近くに置いてある剣を見る。質素な剣だが柄頭に青い鉱石が収まっている。確かにスパッと鋭利に斬れる剣ではない。が、割傷や挫創、先端を利用した刺創は与えられるだろう。


「傷を負わなかった理由は3つある。ブラックの筋力不足が1つ。刃の当て方が下手なのが1つ。斬れない剣で練習しているとそうなる。そして俺が秘技の硬化を使っていたのが1つだ」


「秘技というのは、魔法とは違うんですか?」


「獣人族内では魔法とは異なると言われている。我々は火も土も風も水も、魔法と呼ばれるものは扱えない。秘技で肉体を強化して戦うのが獣人だ」


「秘技は獣人皆が使えるんですか?この子が秘技を使っているところを見たことが無いです」


 バスコは捕縛されている獣人の子を見る。


「秘技が使えるようになるのはそれなりに厳しい訓練がある。訓練を受けていないのか、気を練るのが下手なのか、使えない理由はいろいろある」


「僕はすべての生物に魔法を使う為の魔力が宿っていると考えているのですが、秘技も魔力を使っているのでは?」


「詳しくは知らないが、我々は、気、と読んでいる。気を練ることで秘技を発動させるんだ」


「気、ですか。僕は魔力だと思うんですけど。ちょっと僕の実験に付き合ってもらえませんか?」


「何をする気だ」


「僕を縛ってる植物をバスコさんに巻いて、秘技が発動するか調べたいんですけど」


「そうやって縛りを解いて、魔法で攻撃しようという考えだろ」


「いえいえ、そんなことは考えていません。純粋な興味です。バスコさんも興味ありませんか?」


「興味なくはないが、今は出来ない」


「ではこの子、獣人ですから魔法は使えません。すべての拘束を解くのは不安でしょうから、両足の拘束だけ解いてください。それで実験しましょうよ」


 熱く語るブラックの言葉にバスコの心が揺れる。魔法が使えない子供の獣人に何か出来るとは思わないが。少し考えた後、バスコはブラック達に近づく。暇を持て余したバスコは実験してみることにした。


 獣人の両足を縛っていた植物を解いて、自分の左手に巻き付ける。獣人の子はまだ寝ている。

 巻き付けた植物に変化はない。相変わらずウネウネと動いている。


 秘技発動、硬化。


 されない。


 もう一度発動。


 しない。


 今度は気を練ってみる。


 右手に収束されようとした気が集まらない。左手に流れていっているのを感じる。


 植物に、吸収されている。


 バスコの口から、おお、と声が溢れた。魔力だ。実験成功だ。我々獣人も魔法を使えるのだろうか。


 左手を注視していた目線をブラック達に向ける。

 ブラックも喜んでいる。


 あれ、獣人の子がいない。


 気づくと獣人の子は、ブラックの剣を握っていた。後ろ手に縛ったはずの両手もいつのまにか解かれている。


 バスコは獣人の子に飛びかかるが、もう遅い。


「呪縛」


 獣人の子の言葉に応じて、ブラックの懐から植物が何本も伸び、バスコを拘束する。


 振り解こうとするが満足に抵抗できない。左手の植物も反応したのか生き生きとしている。


 頭から爪先まで植物に包まれたバスコは最早何も出来ず、床に倒れて動かなくなった。

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