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大賢者の弟  作者: 山宗士心
第1幕 大賢者の弟
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雷帝のドーラ

「貴様が“雷帝”のドーラか。ふふ、少々薹が立っているが良い女じゃないか。どうだ、この儂の専属にならないか?」


 屈強な男に護られた豚が何か言ってる。公爵とか呼ばれていたがあれは豚だ。本能のままに全身を舐め回すように見て来る。わざわざ指定された宿屋に来たのに、会って早々それか。視線を胸元で止めるな、気持ち悪い。


「またまた御冗談を。私より若くて綺麗な女性を沢山抱え込んでいるのでしょう。そこに私が入っても邪魔になるだけですわ。それよりも仕事の話をしましょう」


 笑顔笑顔。どんな豚でも依頼人には気を配らなければ。早く進行しろ、仲介人。


「では仲介役の私の方から仕事内容を説明させて頂きます。内容は、第3王子であるプフラオメ王子を誘拐すること。誘拐する段取りは依頼主様より用意されますので、貴女には3月の頭から中旬まで行方不明の状況を作り出して頂きたい」


 可笑しな仕事ね。


「王子はもう6歳でしたね。3月9日の魔力検査に出席させないことが目的ですか?」


「余計な詮索はするでない。貴様は言われた仕事を熟せばいいんだ」


 豚が声を荒げる。何を考えているのやら。


「誘拐する段取りというのはもう決まっていますか?」


 年が明けてもう1ヶ月は過ぎている。魔力検査の日はもうすぐ。


「最近王子は市井に興味を持ち、少数のお供を連れて散策しています。そのお供にこちらの手の者を送り込んでいます。すでに何回か手の者を連れて街に出ており、少しずつ信頼を得ている状況です」


 手の込んだことで。そこまでやっているなら、自分達で最後までやればいい。


「貴女方に依頼するのは、万が一計画が失敗した時への配慮です。情報漏洩には気をつけて下さい」


 そちらもね。私達だけを犯人扱いしてトカゲの尻尾切り、なんて許さないから。


「3月の頭に、こちらの共を連れて王子が街へ出る機会を作ります。日取りはまだ決まっていないので、その日まで王都で待機して下さい。滞在費はこちらで」


 仲介人が硬貨の入った袋を渡して来た。結構入っているから前金代わりだろうか。


「誘拐は派手にやるのかこっそりとやるのか。誘拐後は何処に連れて行くのか。こちらから身代金の要求等していいのか。解放する手筈は。抵抗したら、殺していいのか」


 確認しておきたい事を一通り聞く。

 こちらに目を通して下さいと、1枚の紙を渡してくる。

 要約すると、誘拐はこっそりと。誘拐後は指定された村へ馬車移動。門兵も手の者。解放時も手の者が迎えに行く。絶対に殺すな。

 いちいちと指示が細かい。


 こちらで処分するので返却を、と言われたので火魔法を発動させ燃やす。


 思いのほか大きな炎が出た。イライラしてたからかな。


「勝手なことをされては困ります」


 燃えて灰になった紙を見ながら仲介人が言う。そんなに言うなら紙を渡してくるなよな。


「そうだ、勝手な真似はするな。特に身代金要求何てするなよ。これは第3王子勢力を蹴落とす計画なんだ。いいか、隠しているが第3妃はエルフの血を引いている。人族の王国に亜人の血が入ってくる何てあり得ない。これは人族至上主義の宣伝として大々的に発表するんだ」


 豚が勝手にベラベラと喋り出した。それ以上は、と護衛に窘められている。王族何てどうでもいいんだけど、これだけは言わせてもらおう。


「それは、私の仲間に、エルフや獣人がいると知っての、発言ですか?」


 一言一言、言葉に力を込めて言ってやる。両手に魔力もこめる。さっきの火魔法よりデカい魔力。いいか、これは脅しだぞ。


 護衛は素早く反応して、剣を抜く動作に入っている。おいおい、この距離では私の攻撃の方が速いぞ。


「ドーラ様落ち着いて下さい。そういう建前で犯行を行う、という事ですので。建前です。そうですよね、公爵様」


 この場で戦闘が行われないように仲介人も必死だ。私はどちらでも良いぞ、気に入らない仕事はやらなくても生きていけるんだからな。豚の言葉を聞くまで魔力を抑える気はない。


「そ、そうだ、建前だ。我々の勢力を高めるためだ。私の考えでの発言ではないが、気を悪くしたのなら謝る。すまなかった」


 嫌々ながらでも謝罪を聞いたので、溜めた魔力を霧散する。護衛も戦闘態勢を解いた。


 ふう、もう豚の顔を見続けるのはキツいから部屋を出よう。


「仲介人、私達は狸福の宿屋に泊まっている。指示が有ればそちらに。今日は気分が悪いのでこれで失礼します」


 公爵、護衛、仲介人に挨拶して部屋を出る。


 金を突き返し依頼を放棄しても良かったが、詳しく計画を聞きすぎた。簡単に始末されるつもりはないが、逃げ惑うのも面倒。とりあえず受けて、後で考えよう。


 ふう、イライラする。


 酒を飲みたい。


 まだ昼過ぎだが今日は呑んでも許されるよね。


 宿屋の従業員に聞いてみる。ここの食堂で酒は飲めますか?


「申し訳ありません、ここの食堂での飲酒は夕刻からの3時間だけとなっています。昼から呑めて酒種も多い酒場が近所にあります。そちらをご利用ください」


 泊まり客への配慮かな。私が泊まってる宿屋では夜中でも呑めたけどね。頼めば料理も作ってくれるから良い宿屋だよ。静かに寝たい客には、悪い宿屋かもしれないけど。


 酒場の場所を聞いて、宿屋を出る。空は曇りなく澄んでいる。酒を飲んで私の心も洗い流そう。




「いらっしゃいませ」


 酒場に入ると、店員に元気良く声をかけられた。半分くらいは席が埋まっているな。皆昼間から酒を飲んで、あの卓では集団で騒いでる。


 私も呑んで騒ぐのは嫌いじゃないが、今日は1人だし、カウンター席の隅でゆっくり飲もう。


 店員に案内されて席の間を抜け、騒いでいる集団の近くを通る。私も早く飲みたい。


「あれ、ドーラじゃないか」


 集団の中の1人が近寄ってくる。げ、なんでお前がいるんだ。


「俺だよ俺、覚えてないか」


 覚えてるよ。会いたくなかったよ。ああ、店員さん、ツレじゃないです、カウンター席で。


「皆ごめん。俺ちょっとあっちに行くわ」


 酒を持ってついてくるな。隣の席に座るな。奥さんに言い付けるって言われてるぞ。いつの間に結婚したんだお前。あ、こいつと同じ酒で。料理はオススメのつまみを2、3品。


「まあまあ、いいじゃないか。久しぶりの再会に乾杯」


 乾杯。良くないけど。つまみ来たけど、どうやって食べるんだ。莢を押すと、中身が飛び出て、口で受けると。お、上手いなこれ。


「上手いだろ。最近俺の領地で収穫出来るようになったんだ。茹でて塩ふっただけなのに酒に良く合うんだよ。そっちは俺の実家から送られた肉とチーズ」


 うるさいな、ゆっくり食べさせろ。え、彼にはお世話になってますって?ご主人、気を使わなくていいんですよ。この人はクズですから。


「ヒドイ言いようだな。まあ昔はそうだったかもしれないけど、今は結婚して、子も出来て、領地経営もしっかりしている大人だから」


 未婚で定職に就てない私に対しての当てつけか、こら。うるさいぞ外野、立候補するな。ご主人もですか。すみません、私は自由が好きなんです。


「俺もこうなるまで色々あったんだよ。久しぶりに会ったんだから愚痴聞いてくれよ。頼むよ」


 なんで久しぶり会うと愚痴を聞くんだ。理論が狂ってるぞ酔っ払い。ええい、甘えてくるんじゃない。だいたい、こんな美人とタダで一緒に酒が呑めるなんて思うなよ。


「いいよいいよ、今日は奢るから付き合ってくれよ。昔よく戦った仲じゃないか」


 お、言ったな。私は“雷帝”の異名の前は“蟒蛇”だったんだぞ。この酒場の酒樽を空っぽにしてやる。ご主人、とりあえず1番高い酒を頼む。


 あ、店員さんすみません。あっちの席に移動するんで、料理を運んで下さい。ありがとうございます。


 おらあ、お前たち。今日はこいつの奢りだ。飲み明かすぞ、おー。


 ははは、嫌なことを忘れられるいい酒場だなぁ。

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