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大賢者の弟  作者: 山宗士心
第1幕 大賢者の弟
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エルフの講義

「一言に草木と言っても色々な種類があり、それを理解しなければならない。草木は草本と木本に分類される。草本は生活様式によって、一年草と多年草に分けられる。これは魔力で成長させた時の成長速度や丈夫さに影響が出る違いだ。木本の方では葉の形状によって針葉樹と広葉樹に、また落葉の有無によって常緑樹と落葉樹に分けられる。これらは木の葉を武器とする時に違いが出る。1番武器として使いやすいのは落葉針葉樹だ」


 淡々と声は続く。


「草木魔法を使い熟すためには、このような種類による特性を覚え、土地による植生で使い分けなければならない。我々エルフは幼少期よりこれらを学び、理解することで魔法を修得していくのだ。聞いているか、アンナ」


 欠伸を噛み殺して、何とかアンナは返事をする。

 隣で船を漕ぎ始めるアリーを揺すりながら、自分も寝ないように太腿を抓った。美味しいお昼ご飯の後は、優しい眠気が襲ってくる。


 アンナ達はグリューンの町を訪れている。喋っているのは東方伯領から来たエルフのマチュー。彼の講義はまだ始まったばかりだ。


 グリューンは王都から北東、キュステから北にある。王国の東を流れるブラウ川の上流域に有り、川によって削られた峡谷に町が作られている。


 ブラウ川中流域の盆地には大きな農場を持つ街があり、さらに下流、河口部には流域最大の街キュステがある。


 この辺りの主要産業は林業で、材木や木炭、山で採れた山菜、動物などを下流の街で販売し、生活している。


 ブラウ川流域戦の勝利後、フリーグ家は、グリューンとその周囲に点在する村を含めた地域、ブラウ川上流域の領主となり、叙爵した。

 元々ある伯爵が上流から中流にかけてを領地としていたが、戦時に敵国へ寝返ったため所領を剥奪。勝利に貢献した者に分配されることになった。

 因みにブラウ川の水利権は上流を治めるフリーグ男爵家に、ではなく最大の功労者であった東方伯が所有している。


 アンナは、寂しい町だな、と感じていた。


 人が少ない。

 前領主が大きな範囲でこの地域を管理していた頃は、上手く仕事を与え、人の移動を調節していたようだ。

 しかし小領主が個別に管理するようになってはそうは行かない。各々自分達の利益が欲しい。そのためには人口を増やして経済を活発にしなければ。

 結果、働き手の多くは中流域の街へ移っているようだ。


 男爵も傍観していたわけではない。

 領主となって数年間は税を取らなかった。今も国内では税が軽い方だ。

 産業を新たに起こそうとしたが、上手く定着しなかった。

 古くからある温泉を整備して湯治客を呼び込もうとしたが、町までの険しい道程がそれを阻む。帰りは川を下って行けるのだが。


 戦時に徴兵されていた人々が町に帰ってきても、仕事が無ければ生活出来ない。

 毎年新たな子供は生まれており、生活基盤が有るには有るが、多くを養える程では無い。周囲の村も同様である。


 もう現状維持でもいいか、と男爵が半ば諦めていたところに、今回の話が来た。

 東方伯に頭を下げるのは癪だが、娘の為にを大義名分に行動し、伯爵領からマチューを呼ぶことに成功した。


 旅費と滞在費以外は無料で手配した東方伯からは、娘への甘さが感じられる。いや、男爵領は何れアリーかゲオルグが継ぐのだから、孫に甘いのかもしれない。


 そして今、マチューから草木魔法についての講義が行われている。


 講義を聞いているのは、アリー、ゲオルグ、マルグリット、クロエ、監視役のアンナとマルテである。

 他に男爵とリリー、ジークフリートも来ており、3人は町内での会合に出席している。


 大人数になったのは、男爵が浮いた依頼料を使って初の家族旅行にすると言い出したからだ。


 その話を聞いたリリーがアンナやマルテ家族も誘い、クロエはアリーに無理矢理連れて来られた。


 クロエを見たゲオルグの反応は凄かった。魔法以外には余り反応しないゲオルグが、興奮してクロエの頭をわしゃわしゃと撫で回した。

 逃げ出すクロエを追い掛けるゲオルグ。それはマルテに注意されるまで続く。ゲオルグが落ち着いた後もしばらくクロエは警戒していた。

 王都でも獣人族は居るし、見た事はあるでしょうにとアンナは思う。クロエみたいな可愛い獣人族は居ないとゲオルグに力説された。確かに王都で働く獣人は男女問わず筋骨隆々だ。クロエも成長したらああなるのだろうか。


 マルテ家族にはマルグリットの他に長男次男がいるが、2人は仕事を休めなかった。参加していたら大赤字になるところだったと男爵は内心ほっとしている。因みにクロエの分はデニスが支払い、代わりに知識を持ち帰る約束になっている。


「例えば、この本に描かれているナスだが、これが実るのは草か?木か?」


 マチューは何処からか艶々としたナスが描かれている図鑑を取り出した。


「草です。一年草だと思います。寒くなると枯れるので」


 クロエが元気に発言する。ヴルツェルでクロエも育てているんだろう。


「そうだな、ヴルツェルでは枯れるだろう。他に意見は無いか」


 ゲオルグが手を上げて答える。


「年中暖かい地域で育てると成長を続けて木になる、と本で読みました」


 図書館通いを続けるゲオルグは魔法関係の書物を読みきり、今は色々な分野に手を出しているようだ。知識量では子供達の中で1番だろう。

 隣で机に突っ伏しているアリーを見ながらアンナは思う。もう起こすのは諦めた。

 マルグリットもその本を読んだようで頷いている。


「ゲオルグが正解だな。ナスは環境によって成長の仕方を変える植物だ。クロエも間違いでは無いが半分正解だな。暖かい環境を維持できるならヴルツェルでも1年中育つぞ」


 どうやって暖かくするんだろうと首を傾げるクロエに、温室というものがあってねと説明するゲオルグ。


 2人は仲良くなれたようだ。

 初対面時にゲオルグが興奮してクロエを撫で回した時にはどうなるかと思ったが。


「まあそんな感じで、草木魔法を使うには兎に角知識だ。しかし本を読んで得る知識だけではなく、身を持って知る知識、経験も大切だ。ということで講義はこれくらいにして外に出よう。畑を様子を見て、男爵からの依頼も考えなければならないしな」


 マチューが講義を終えるや否や、やった、外だ、と言ってアリーが飛び出して行った。

 いつから起きていたんだろう。残された人々は苦笑している。

 男爵達と合流する前にアリーを探しに行かないとな、とアンナは立ち上がって大きく伸びをした。

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