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大賢者の弟  作者: 山宗士心
第1幕 大賢者の弟
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大賢者の弟

初投稿です。

「本日はストラオス王国国立劇場に足を運んでいただき、誠にありがとうございます。私は当劇場の支配人、ヴァイスと申します」


 舞台上に登場し、支配人と名乗ったその男は、真っ黒な衣装に身を包まれていた。服装と同様に頭髪も黒だが、その下方には白の仮面が装着され、顔を隠している。舞台幕の色調と光の加減により、仮面が浮いているように見えて、奇妙な光景が演出されていた。


 観客は支配人の奇抜な登場に対し、歓声を持って迎えている。支配人が語り部として現れる時の姿が、この劇場における演出の一つとなっており、観客も楽しんでいる様子だった。


 歓声がおさまるのを待って、支配人が話し始める。


「本日の演目は『大賢者の弟』の第一幕で御座います。主人公の名はゲオルグ・フリーグ。かの有名な大賢者アレクサンドラ・フリーグの弟でありながら彼は魔法が使えませんでした。しかし彼を良く知る人物は、大賢者に大きな影響を与えた人物だと評します。そんな彼はどのようにして世に現れ、どのように大賢者と関わっていたのか。それを知るために、大賢者の業績を紹介しながら、彼の誕生から魔力検査に至る6年間をご覧いただきます」


 仮面が微動だにせず、朗々と語っている。声を張り上げずとも場内全体に声が届いていて、劇場の音響設計がしっかりしていることを物語っている。

 一般的に声を遠くに届ける方法として風魔法を利用する事があるが、少なからず周囲に風の流れが出来てしまう。今の立ち位置で支配人が魔法を使うと、後方の幕が揺れ、ミステリアスな雰囲気が壊れる可能性があるので使用していないのだろう。


「当時の王国は隣国と長らく争っていたブラウ川流域戦に勝利し、また第一王子が生誕された事も重なって隣国と終戦、国内に久方ぶりの平和が訪れた時代でした」


「そして終戦後の翌年、大賢者が生まれ落ちます。大賢者の両親も高名な魔導師。父は戦後の恩賞によってブラウ川上流に領地を獲得する程活躍した男爵。母も自ら戦場に立ち、流域戦を勝利に導く端緒となったキュステ防衛戦を守り抜いた東方伯の娘。2人の魔導師は戦場で恋に落ち結婚することになるのですが、その話はまた別の機会に致しましょう」


「御両親にお話を伺いますと、大賢者は生後間もなくから魔法の才能を発揮していたようです。男爵家周囲では有名な子だったようですが、まだ世に名前は出ていません。公的に名が広がるキッカケになったのは、全国民が6歳時に受ける魔力検査。魔力測定では測定史上最大の数値を叩き出し、実技試験では4元素魔法を使って見せました」


「大賢者検査前の最大記録は、その前年に検査を受けた第1王子でした。その王子の記録も数年ぶりに値を塗り替えたと当時話題になりました。しかし大賢者は、王子の記録を軽々飛び越えて行きました」


「多くの6歳児は最も覚えやすい火魔法を使い、才能ある者は土魔法が使えるでしょう。第1王子はその2種に加え、僅かですが風を起こすことも出来たと聞きます。しかし大賢者は、4種のうち最も難しいとされる水魔法も披露しました」


「魔力検査で一躍有名になった大賢者は、それから毎年、国民に更なる話題を提供することになります。そしてあまり知られていませんが、魔力検査の前年、前々年にも王都の一部で話題になった出来事があり、それらにも大賢者が関与していると噂されています。子供の頃から型破りな大賢者です、我々の知らない業績が他にも有るかもしれません」


「長々と大賢者について語ってきましたが、今回の主役は大賢者の弟。周囲に魔法が溢れている環境で、魔法が使えない大賢者の弟がどう過ごしていたのか、周囲の人はどのように接していたのか」


「残念ながら当時はまだ戦争の影響もあり、魔法が使えない人間は戦力にならないという理由で低く見られていました。昔から魔法が使えない人は一定数います。そういった人も平和な時代では芸術などによって名を残していますが、戦争中においては無能という評価になってしまいました。この評価が覆るのは戦後からどれくらいかかるのでしょう」


「戦争と平和の狭間に産まれ、無能と評された人間の話。力を持たない人の成長を、皆で見守って行きましょう。『大賢者の弟』第1幕、始まります」


 支配人に対して客席から拍手が送られる。満席の会場から鳴る音は場内に響き渡り、観客や出演者の気持ちを高めてくれる。


 支配人が一礼し、ふっと姿を消す。場内が完全に暗転する。

 ゆっくりと小さくなる拍手。

 完全に鳴り止むのを待って開演の合図が鳴り、幕が開ける。


今後もよろしくお願いします。

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