vs, ボクらのファイナルバトル Round.6
「勝手に話を進めるな! 私は、まだ『やる』とは言ってないぞ!」
「頑張って下さいませ ♪ 」
「貴様ァァァーーッ?」
強かなメイドベガは、しれっと何処吹く風で流していた。
この勝負、ラムスの勝ち。
『胡蝶宮シノブ、タダでとは言わない。取引には対価が必用。ちゃんとアナタへの報酬は用意してある』
「ふざけるな! 取って付けた安っぽい懐柔で、この胡蝶流忍軍次期党首・胡蝶宮シノブが請けると思うか!」
『アナタへの報酬として『人間形態への変身プログラム』を完成させておいた』
「慎んで御請します!」
あ、折れた。
いとも簡単に。
こんなチョロさで大丈夫か?
胡蝶流忍軍?
『では、胡蝶宮シノブ……そして、ラムス。アナタ達にコレを譲渡しておく』
何処からともなくロボットが現れた。
とは言っても〈アンドロイド〉とか〈人型ロボット〉みたいな高等な物じゃない。
よく博物館とかイベント会場とかで見掛ける〈案内ロボット〉みたいなヤツ。
ボク達の腰辺りまでの身長で、プラスチック的な素材……ってか、スベスベとした光沢からしてセラミックだな。コイツ。
角柱ボディのみで頭も手足も無いけれど、ボディ前部には黒色のクリア板が一体成型にテカっている。おそらくココにカメラアイやら各種センサー類等が内蔵されているのだろう。その形状から連想される通り、移動は底部内蔵の車輪による走行。
そいつは滑るようにして、シノブンとラムスの前へとやって来た。
すると、背面収納されていたマジックアームを伸ばし、二人へとアイテムを手渡す。
パモカだ。緑色と紫色の。
暗黙のイメージカラーってワケじゃないだろうけど、ラムスは緑を、シノブンは紫を受け取った。
「胡蝶宮シノブ、そのパモカには〈疑似変身アプリ〉をインストールしておいた。日向マドカのように自身のみで変身できるワケではないけれど、そのアプリを起動する事で〈ベムゲノム〉を沈静化させる事が可能」
「これで……私も猫カフェデビューが!」
どんだけ行きたかったんだよ、猫カフェ?
あんなん、そんなにいいもんじゃないぞ?
うるさいし、臭いし、落ち着かないし。
行くなら『怪獣酒場』か『妖怪茶屋』の方がいいぞ?
一方、ラムスはラムスで舞い上がっていた。
「ああ、念願のパモカ ♪ 私のパモカ ♪ 」
大切そうに抱き締めたり、頭上に翳してクルクルと小躍りしたり……感情が忙しいヤツだな?
ってか、こんなラムス初めて見たよ。
「うん? まさか持ってなかったの?」
「持っているワケあるはずがないじゃありませんか」
ややこしい日本語だな? どっちだよ?
「私の故郷・ジェルダは、文明レベルの低い原始的な惑星。パモカは疎か、銀邦通貨すら流通しておりませんわ」
「銀邦?」
『銀河連邦の事』クルロリの声が解説を挟む。『地球は宇宙基準意識レベルが低い為、まだまだ〝二次選抜候補〟だけど、この宇宙には高度知性体種族による協同治安機構〈銀河連邦〉が発足されている』
「ああ〝ウルト ● マンA〟が遥かに越えて来たり、宇 ● 刑事の本部〝バー ● 星〟が所属してたりするヤツ?」
『それは知らない』
はい、淡白スルー頂きました!
と、ボクはラムスへの矛盾を抱く。
「あれ? キミってば、パモカ機能熟知してたじゃん? カメラアプリとか?」
「それは垂涎の想いで、日々『月刊パモカ』の情報をチェックしていたからですわ。いつか入手する日を夢見て ♪ 」
何だ『月刊パモカ』って……。
ってか、やっぱ宇宙共通のマストアイテムだったんか!
売ってたんか! コレ!
「そんなに欲しいなら、さっさと買えば良かったじゃんか?」
「こんな高価な物、そうそう買えませんわよ!」
何だ、高いのか。
じゃあ、これからは大事にしよう。
もう『遊 ● 王ごっこ』をするのは、やめよう。
シール剥がしのスクレーバー扱いにするのも、やめよう。
「地球基準の価値観で換算すれば、コレ一枚で都庁ぐらいは買えますのよ?」
「何ィィィーーーーッ!」
面食らった!
ビックラこいた!
掌返しに、マイパモカを磨く!
ハァーハァーと息を吐き掛け、ディスプレイを袖でキュッキュッと磨──え、ジュン? キミも?
次第に、青い惑星は大きくなってきていた。
別離は近い。
ボク達は草木萌える丘へと降ろされた。
街から離れた雑木林の中だ。
歩いて四〇分程度の場所になる。
ちなみに、モエル本体は衛星軌道上で待機中。
お馴染みの〈プリテンドフォーム〉だけが、ボク達と共に降り立った。
涼しく澄んだ星空が示すように、すっかり深夜だ。
当然、周囲に人の気配は無い。
民家ですら、遠目に疎ら。
寧ろ、田畑の方が多い。農作物が地平と広がっている。
それを確認した上でだろうけど、着陸した母艦は〈グリフィンシステム〉を解除した。
「改めて見るとデカいね」
「そうね。なまじい樹々とかの比較対照があるだけに、余計そう感じるのかもしれないけれど」
プリズム明滅を息吹く宮殿を仰ぎ、ボクとジュンは軽い感嘆を交わす。
『日向マドカ、星河ジュン……此処で、お別れとなる』
宮殿が別離を告げた。
その荘厳な巨体に反して、奏でる声量は至って普通。
まるで彼女が傍にいるようだった──いつもみたいに。
「ねえ? その前に、ひとついいかな?」
『何? 日向マドカ?』
「キミの名前は?」
『別に〝クルロリ〟でいい』
「それってば、ボクが勝手に付けた呼び名じゃん。本名じゃないじゃん」
『これはこれで気に入っている』
「そっか」
ちょっと嬉しくも誇らしい。名付け親として。
そして、ボクは前向きな結論へと辿り着く。
「じゃあ、また会おうね?」
「マドカ?」
「マドカ様?」
「日向マドカ?」
「マドカちゃん?」
怪訝そうな顔を向けるみんなへ、ボクは明るい笑顔で応える。
「大丈夫。すぐに会えるよ」
「どうして断言できるのよ?」
「だって、まだ一緒にマドナ行ってないもん」
ボクの主張を聞いて、宮殿が『クスッ』と笑った。
あ、クルロリが感情見せたの初めてじゃん。
見れないのが惜しい。
きっとカワイイんだろうなぁ……この娘の笑顔って。
『日向マドカ』
「ん? 何さ?」
『……また』
「うん、またね ♪ 」
三〇分ぐらいだろうか……。
或いは、一〇分も経っていないもしれない…………。
ボク達は満天の星空を見上げ続ける。
巨大宮殿は旅立った。
けれども、その姿を見送る事は叶わなかった。
〈グリフィンシステム〉の透明化によって、人知れず去ったからだ。
不用意に目撃されない為の配慮らしい。
けれど、気配で分かる。
此処には、もういない。
爽やかな薫風が桜を運び、鋤き撫でられた草花が足下で踊る。
それが心のスイッチを入れ、ボクは呟いた。
「……行っちゃったね」
寂しくないと言えば嘘になるけど、それよりも誇らしさの方が勝っていた。
うん、誇らしい。
何が……かは知らないけど。
「あ!」と、ジュンが唐突に思い出す。
「どしたのさ?」
「あの娘の正体……訊くの忘れちゃった」
「確かに……何者だったのでしょうね?」
「うむ……あれほどの情報に精通していた以上、只者ではないはずだが」
「はぇ? クルロリちゃんって〈ベガ〉じゃなかったの?」
「もう……そんな事?」ボクは腰に両手を当て、明るい笑顔で断言した。「友達だよ? それ以外ないじゃん?」
みんなは暫く戸惑っていたけれど──やがて微笑みが重なる。
それがボク達の真実だった。




