vs, ……え? Round.8
「翔べ! 日向マドカ!」
「ふぇ?」
シノブンの警告で、意識が戦況へと返る。
ヘリウムバーニアを噴射したジュンが、床スレスレを滑るかのように突撃を仕掛けて来た!
「危なッ!」
間一髪の急上昇が間に合う!
さっきまで居た場所に、レーザー手刀の青い弧が刻まれた!
「クックックッ……いいぞ。もっと戦い合え! 互いに持てる死力を尽くせ!」
皮肉な対決を嘲け笑うジャイーヴァ!
「こ……このヤロウ!」
ボクは呪詛に唇を噛んだ!
「セーラー服美少女が宙を舞い、アツき異能バトルを展開する……クックックッ……萌える! 最ッッッ高に萌える!」
「こぉぉぉんのヤロォォォーーッ?」
呪詛が別な意味合いになったよ……。
サブイボ混じりに……。
獲物を仕止め損なったジュンが、自我損失の瞳で滞空するボクを見定めた!
軽く膝を折った屈伸体制で、ブリッツスカートの裾に仄かな青を点す!
「また来る!」
そう身構えた瞬間、不意を突いた奇襲が彼女の行動を阻害した!
空を裂くかのように鋭く投げ放たれた苦無!
戦闘マシンと化したジュンは油断無く察知し、レーザー手刀で弾くと同時に跳躍で襲撃者との距離を取る。
シノブンだ!
彼女は両手持ちの苦無を眼前に構え、牽制にジュンを睨み据える!
「日向マドカ、加勢する!」
「シノブン? ダメだよ!」
「……貴様には借りがあるからな」
乾いた微笑を口元に携えた。
恰も〈戦士〉としての非情を覚悟したかのように。
……え? あれ?
殺る気じゃないだろうな?
「胡蝶流奥義・幻影乱舞」
凄みすら感受させる低い抑揚!
そして、シノブンの体がプリズム的な光彩を帯びて分身する!
一人が二人──二人が四人────最終的に八人のシノブンが出現した!
ようやく〝忍者〟の肩書、面目躍如!
「参る!」
息つく暇も与えずに、次々と一撃離脱を繰り出すシノブン軍団!
文字通り、四方八方から!
故意か偶然か〈モスマン〉の飛行能力とは相性がいい戦法ではある。
しかし、現状のジュンも、対等の戦闘技能で対応できた!
ヘリウムバーニアの小出し噴射で軌道から外れ、回避しきれない攻撃はレーザー手刀で弾き逸らす!
宇宙忍者vs戦闘マシンの戦いは、まさに別次元!
迂闊に常人が介入できない程の高速展開だ!
うん、じゃなくて──!
「はい、そこまで!」
「うひゃああーーーーッ?」
背後からGを鷲掴みにした。
うん、シノブンの。
「苦も無く本体を見破るなーーッ!」
「こっぽおッ?」
腰の入った掌底でブッ飛ばされたよ。
ってか怒気る理由、そっち?
「うう、痛ててて!」
「どどどどういうつもりだッ! 日向マドカッ?」
「シノブン、手出し無用」
「何?」
「ジュンの相手は、ボクがするよ」
「し……しかし?」
「いいから! 借りを返すっていうなら御願い!」
必死な懇願に拒否する!
と、その時──「宜しいじゃありませんか? 本人がやりたいようにやらせて差し上げれば」──穏やかな口調でラムスが引き取ってくれた。
「ラムス? 解っているのか? 日向マドカは、防戦一方なのだぞ! それでは、やられるのも時間の問題──」
「やられませんわよ?」
「え?」
「あの方が、やられるわけがあるはずないじゃありませんか……絶対に」
毅然とした瞳で、ボクを見据える。
「……ラムス」
交わす視線に確かめ合う信頼。
家族として……友達として、育んできた絆。
感傷的な温もりが込み上げて来る──とか思った直後!
「例えブラックホールのド真ん中へ叩き落とそうとも、光速ロケットエンジンに括り付けて外宇宙銀河へ投棄しようとも、あの方は死にませんわよ。諺に『馬鹿は死ななきゃ治らない』とございますが、マドカ様は『死んでも絶対に治らない馬鹿』──逆説的に解釈するならば〝絶対死なないおバカ者〟という事ですもの」
「どういう強引な解釈だァァァーーーーッ!」
ボクは絶叫で猛抗議!
まさかの猛毒吐きやがった!
この局面で!
だけど、まぁ……正直、助かったのは事実だ。
そりゃシノブンが加勢してくれりゃ、戦力的には頼もしいよ?
だけど……そうしたらジュンかシノブン、どっちかが傷付くじゃん?
そんなん、ボクはイヤだもん。
ダメージから復活したジュンが、無感情に起き上がる。
段々〈殺人アンドロイド〉にも見えてきたな……。
そして、再び繰り広げられる近接戦!
ボクにとっては命懸けの組手だ!
「ねえ! ジュン! ホントに忘れちゃったの? ボクの事!」
寂しくなる心情をグッと堪え、いまだけは強さに転化する!
泣いている場合じゃない!
そんなん後だ!
やるだけやってからだ!
ナメんなよ! ジャイーヴァ!
いまどきの女子は、泣いて終わるほどヤワじゃないからな!
「思い出せよ! いろいろ楽しかったじゃん! 学校とか! マドナとか!」
一瞬──ほんの一瞬だけ、ピクリと反応した。
僅かな時間差を置いて連撃再開したけれども。
畳み込むなら、いまだ!
直感が、そう告げる!
「初めて出会った時、揉んだろ! それからは毎日のように揉んだ仲じゃん! 登校した時に揉んだ! 昼休みに揉んだ! 帰り道でも揉んだし、休日一緒に街ブラした時だって揉ん──うわっと!」
攻撃の鋭さが増した!
何故だろう?
何故かしら?
「まったく、いい加減……思い出せーーッ!」
痺れを切らせて、思いっきり揉んだ!
ってか、寧ろ握った!
「痛たたたたたーーーーッ?」
さすがのジュンも、堪らず悲鳴を上げ──って、あれ?
「痛いわーーッ! このおバカ者ーーーーッ!」
「おぶんッ!」
久々にパモカハリセンが、ボクの顔面へとフルスイング!
場外ホームランとばかりに、ジャイーヴァの足下まで吹っ飛び転がる!
「かた……かた……形が崩れたら、どうしてくれるのよ! このおバカ!」
身を捩った寄せ乳で、大事を庇っていた。
その紅潮が〝恥じらい〟か〝怒気〟かは知らんけど。
「バ……バカな!」
驚愕隠せぬジャイーヴァ!
わなわなと震えて現実を拒否する!
「こ……こんな事で……こんなバカな展開で、我が洗脳が解けるだとーーッ?」
「当たり前だろ」と、ボクは起き上がり、この愚か者へと敗因を告げた。「まさか洗脳刺客って事で『戦え! イ ● サー1』みたいな感涙的展開でも期待したか?」
「ひ……日向嬢ッ?」
「なるワケないだろーーッ! この作品は無責任小説『vs, SJK』だぞーーーーッッッ!」
「そんなアホな理由でーーーーッ?」
驚愕頻りの悪魔面へと、怒り心頭の鉄拳を叩き込む!
叩き込む! 叩き込むッ! 叩き込むッッ!
叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込むッ!
「ムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネェェェーーーーッ!」
「にッ! らッ! さッ! わッ! さッ! んッ?」
血飛沫を噴いて、吹っ飛び沈む下衆宇宙人!
ボクは二指敬礼を払って、感慨無き哀悼を手向ける。
「ムネヲークレ(さよならだ)」
「……何処の国の言葉ですか」
ラムスが呆れてツッコんだ。
「うっさいなぁ? ウーソン王国だよぅ?」
「ずいぶんと懐かしい伏線ですわね……ソノム・ネクレー様?」
冷ややかさが二割増し。
うん、その節はゴメン。




