vs, ……え? Round.7
「クックックッ……全宇宙の美少女を〈ベガ〉へと変え、その〈ベガ〉をはべらかす──それこそが、我が悲願!」
捨てちまえ!
そんな気色悪い悲願!
「その野望を易々と諦めろなどと……何様のつもりだ!」
常識人だよ。
少なくとも、オマエに比べたら。
「この艦とて、そうだ! 元来は一人乗り仕様だった飛行円盤を、ここまで拡張改造したのは何故だと思っている! それも独りでコツコツと! 総ては〈ベガ〉を囲う為だ!」
いや、知らないよ。
妄想モデラーの魔改造製作後記なんか知りたくもないよ。
「男子禁制女人歓迎! この艦こそは、我が聖域! 宇宙漂う花園なのだ!」
うら若き乙女には生き地獄だよ。
セクハラ監獄だよ、それ。
「そ……そのような理由で? そんな低俗な性癖に利用されるとは……!」
唇を噛むシノブン。
が、このド変態グレイは、更なる追い打ちを勝ち誇った!
「ギブ&テイクだ! わざわざキサマに花形ベム〈モスマン〉のベムゲノムを与えたのは、我が片腕とする為だったのだからな!」
「な……何ッ? では、私が〈ベガ〉へと新生した元凶も……ッ?」
「私だよ!」
何を懐かしの〝にしおかす ● こ〟みたいなフレーズ言い出してんだ。この変態グレイ。
「では、自分自身で、私の〈ベガゲノム〉を生み出しておきながら、その改修を餌にしていたというのか!」
「その通りなのだ!」
……某〝天才バカの親父〟か、オマエは。
「自作自演ではないか!」
「そうですけど? 自作自演ですけど何か?」
悪びれる様子もなく、挑発的に首を傾げる。
グレイがコクン──略して〝グレコクン〟……って、言わないよ!
クルコクンみたいに可愛くもないし!
「その恩を忘れて裏切るとは……恥を知れ!」
オマエだよ、変態。
ってか、価値観相違も甚だしいな。
だけどコレってば、クルロリみたいに『宇宙人だから地球常識が判らない』ってヤツじゃない。
コイツが〝自己中な変態〟だからだ。根本的に。
「……胡蝶忍軍次期党首〝胡蝶宮シノブ〟ともあろう者が、何という愚かしい道化だ!」
悄然と膝を着くシノブン。
戦士としてのプライドを知っているだけに、その様が痛々しい。
……うん、決めたぞ!
「さて、物は相談だが──君達、我が片腕になる気はないかね? 今回の件に於ける君達の能力を、私は高く評価する。容貌的にも申し分ない。我が側近になるというなら、今回の無礼は水に流そうじゃないか」
「冗談は存在だけにして頂けます?」
「クックックッ……ラムス嬢、いいのかね? 我が勢力が本気を出せば、こんな辺境の惑星などひとたまりもないぞなもしぃぃぃーーッ?」
問答無用に踏み込み、ボクは渾身任せの鉄拳一発!
顔面を殴り抜かれたジャイーヴァは、そのまま後方の機械壁へと吹っ飛んだ!
そして、ガラガラと崩れ落ちる機材類に呑まれ沈む!
「他の〈ベム〉ならともかく、やっぱ〈グレイ〉はステゴロに非力だね」
「相変わらず、躊躇ありませんわね」
呆れた脱力にツッコむラムス。
「だって、コイツってばムカつくんだもん」
「まあ、御気持ちは分からなくもないですけれど。地球を盾に取られて脅されたのでは……」
「ああ、そっちじゃないそっちじゃない」
「はい?」
「これはシノブンの分だよ」
快活サムズアップを、当人へと向ける。
シノブンは、暫し戸惑いの表情を返し──やがて困惑に瞳を逸らした。
と、その直後!
「クックックッ……それでこそ、日向マドカ嬢だな」
不意に聞こえるジャイーヴァの含み笑い。
当然、瓦礫の山からだ。
「元気があってヨロしーーい!」
機材の重石を跳ね退け、爆噴復活しやがった。
校長先生みたいな賛辞を雄叫んで。
「前言撤回。案外タフだったね」
「クックックッ……残念だったな? 我が体質の秘密を解き明かさぬ限り、キミ達に勝機は無いのだよ!」
今度は〝南斗の聖帝〟みたいな事を言い出した。
「さて、本当は不本意だが……こちらも切り札を出させてもらおうか」
「ふぇ? 切り札?」
「万ヶ一、このような事態に陥った事を想定して、日向嬢への対策を準備させてもらったのだよ」
自信満々に誇示して、細長い指をパチンと鳴らす。
それを合図と感知したか、部屋の奥から硬い足音が木霊して来た。
「ふぅん? ボクに宛がう用心棒……ってトコ?」
「如何にも」
余裕ぶって構えながらも、ボクの内心はドキドキバクバク。
また面倒なのが増えそうだ。
こういう〝対 ● ● 用として生まれた悪の戦士〟って、粘着気質なヤツが多いモン。
彼の〝ハカ ● ダー〟といい〝バイオハンター・シ ● バ〟といい〝シャドー ● ーン〟といい。
ってか、もしくは〈ブラックマドカ〉とかじゃないだろうな?
ボクを黒塗りしたようなヤツ。
玩具メーカーが『限定モデル』とかそれらしい希少価値感を銘打って、ただの色替え商法で楽に稼ぐヤツ。
そんな黙想に脱線していると、やがて暗がりから刺客の容貌が浮かび上がってきた。
その姿を視認して、ボクは驚愕に固まる!
「……え? ジュン!」
「ジュ……ジュン? どうしたってのさ!」
攻撃を捌きながら、ボクは必死に呼び掛ける!
手刀! 回し蹴り! 裏拳!
流れるかのような矢継ぎ早に繰り出される攻撃!
拮抗した攻防は、はたして両者〝PHW着用〟のせいだろうか?
一撃一撃のキレが鋭い!
普段は文芸派のクセに!
おまけに各攻撃がレーザーコーティングを帯びている!
「危なッ! 危ないって!」
こんな仕様〈PHW〉には無かったはずだぞ!
少なくとも、ボクが聞いている範囲では!
そんなもんだから、完全鋼質化を発現していても油断はできない!
仮に〈エムセル〉が硬度勝ちしても、打ち付けたジュンの四肢が砕骨してしまう怖れもある。
従って、回避の一点張りだ!
「クックックッ……さすがの日向嬢も、相手が星河嬢では手が出せんか?」
姦計の立役者が、腹立たしく含み笑う。
「この卑怯者! ボクのジュンに、いったい何したのさ!」
「君達も、よく知ってるはずだが? 我々〈宇宙人〉と呼ばれる種が、拉致した地球人を記憶操作する事象を……」
「スルメ!」
「うん?」
「いや、違った……アブったのか!」
「アブ?」
通じない。
そりゃそうか。
「つまり、星河様をアブダクションによって洗脳した……と?」
平然と傍観に徹しているラムスが、解り易い要約で会話を進展させる。
「ハーッハッハッ! その通りだ、ラムス嬢! 彼女を浚ったのは、まさにこのため! 如何に日向嬢が予測不能の無鉄砲とはいえ、相手が星河嬢では手も足も出せまい! これ程うってつけの狩人はいないからな!」
ああ、何だ。
コイツってば〈コンダクター能力〉の事は知らないんだ?
うん、じゃあ黙っていよう。
メンドだし。
「このレーザーコーディングもオマエの仕業か! うわっと?」
青光りの手刀を避ける!
「いいや? それは星河嬢のパモカアプリだ」
「こんなモン、パモカに無いよ! うひゃう?」
今度はハイキックを避けた!
仰け反り体勢の顎先を、電光の如き軌跡が凪ぎ過ぎる!
「どうやら自作アプリのようだね。いつかは君の隣に並び立って戦うつもりだったのかもしれないが……クックックッ……皮肉なもの──」
「ブフゥゥゥーーーーッ♡ 」
「──日向嬢ォォォーーーーッ?」
鼻血噴いた!
あまりの健気さに悩殺された!
やっぱ大好きだ! ジュン!
「なるほど……確かに合理的なやり方ですわね。品性的には下劣極まりありませんが。けれども、少々〝我が家のバカ大将〟を侮っていますわね?」
「何?」
不敵なまでのラムスの平然さに、ジャイーヴァが怪訝の色を返す。
ってか、オイ? 毒舌メイド?
キミ、いま何つった?
「確かに星河様相手では不利である事は必至──ですが、足は出さなくとも手は出しますわよ? あの方は……」
しれっと余裕をカマす。
「クックックッ……何をバカな。私は、過去の戦闘データから日向嬢の弱点を割り出したのだ。彼女は絶対に星河嬢を攻撃出来ない!」
「ええ、でしょうね」
「それとも、何かね? 私の動揺を誘う心理戦のつもりかね?」
「いいえ? ですが、あの方は必ず手を出しますわ。それが確実と解っていますから、私、加勢致しませんの」
いや、しれっと「致しませんの」じゃないよ。
加勢しろよ。そこは。
ボクは回避の一呼吸に、ジャイーヴァへと叫び訊う!
「じゃあ、現状のジュンは!」
「クックックッ……察しの通りだよ、日向嬢。完全に、私の〝操り人形〟だ。もはや君の事すら認識していないだろう」
「ありがとぉぉぉーーう ♡ 」
背後から回り込んで、思いっきり両手揉みした!
憧れのFを!
「ぎゃん!」
迅速のフランケンシュタイナーで吹っ飛ばされたよ……。
ってか、いまの対応早くないかッ?
「……何を考えているのだね? 君は?」
呆れたかのような困惑を持て余すジャイーヴァ。
ボクはガバッと復活して熱弁!
「だって、それなら記憶に残らないじゃん! 揉み放題じゃん!」
「……いや、それは違うんじゃないかな? うん、違うなぁ?」
何だよぅ? ド変態グレイ?
オマエの性癖だって、コッチ側だろ!
「ですから、言った通りでございましょう? 必ず手は出す……と」
自らの的中を優越するラムス。
行動パターンを熟知されていた家族にしてみれば、何だか誇らしくもあり腹立たしくもあり……。




