vs, ……え? Round.6
凄まじい加速度が機体をイジメる!
空飛ぶドリル軽バンは、一条の白き尾を靡かせながら宇宙駆ける矢と化した!
「ぎゃん!」
あまりにも荒れ狂うGに、ボクはシートへと沈められる!
上下左右から重圧が掛かり、とてもじゃないけど中腰すら無理!
四方八方からの攻撃を避けているせいだ!
その暴れ馬ぶりは、宛らドリフト走行のカースタント!
宇宙空間でのドッグファイトは、息つく隙も無いぐらい目まぐるしかった!
敵円盤が機体前面部から照射する電撃状の光線を、クルロリは巧みな操縦技能で紙一重に回避し続ける!
時に滑るような横推移で機体脇へと流し、時には上昇で車体の下へと通過させた!
無論、ただ回避しているだけではない!
その直後には、反撃で確実に撃墜していた!
ドリルが回転するとエネルギー奔流が纏わり踊り、それは先端に集束されて青白い電撃型光線と敵機を貫いた!
或いは即事性が求められると、追加速にドリル特攻でブチ抜く!
彼女自身が示したように、この軽バンは一騎当千の如き高い戦闘能力を発揮した。
「そだ! モエルは?」
ふと思い出して、その安否を追い求めると……ああ、大暴れしてんな〈ジャイアントわたし〉!
『マドカちゃんの邪魔はさせない!』
「さすがの円盤軍団も翻弄されていますわね。どうやら、人型特有の殴る蹴る攻撃がトリッキーに機能しているようですわ」
「……だね。おまけに〈エムセル〉を凌ぐ硬度だもん。多少の攻撃じゃビクともしないよ。あの鋼鉄巨人の前には、小型円盤なんて蚊蜻蛉だわ」
単身でも平気そうなので、コチラはコチラの応戦状況に集中する事とした。
星々の瞬きが散りばめられた宇宙空間に、幾つもの爆発が咲き乱れる!
「敵さん、大丈夫かね? ちゃんと脱出してる?」
「この期に及んでもアマいな、貴様は。古来より戦場では〝殺る〟か〝殺られる〟か……だ。下手な情けは、命取りになるぞ」
戦闘慣れしたシノブンから嗜められた。
「だって、誰かが死ぬなんてイヤだもん」
ボクの懸念を聞き拾い、クルロリが補足する。
「日向マドカ、心配無用。相手はAI搭載の無人機。よって、死亡者は出ない」
「あ、そうなん? んじゃ、いいや! クルロリ、や~~っておしまい!」
「……日向マドカ、どうした? 何か悪い物を拾い食いした?」
ラムスと同じリアクションで天丼するなよぅ。
いい加減『アラホラサッサ!』と返せよぅ。
それはそうと、このドリル軽バンは意外と善戦。
クルロリの自負も納得のハイスペックが立証されていた。
けれども、一向に進展は見えない。
何せ敵宮殿から兵隊蟻のように涌いて出るから、その敵機数は減る様子が窺えなかったのだ。
「このままでは進展が望み薄。よって、強行策に打って出る」
「ふぇ? 強行策?」
またもや、そこはかとなくイヤな予感。
こうした宣言時のクルロリは、大概トンデモ行動を起こしてくれる。
「このまま最速で、敵母艦へと特攻する。敵艦内突入後、その勢いのまま〈ベガ〉を攪乱。アナタ達は別行動で〈ジャイーヴァ〉を探し出して欲しい」
やっぱりだ!
「自ら囮となる揚動作戦というワケか」
戦士然と、シノブンが受け入れる。
が、ボクにはそんな心構えは無い!
当然、狼狽ながらに抗議した!
「ちょっと待て、クルロリ! そんな危険な急造策を?」
「善は急げ」
……イヤな活用するな。
「あそこってば〈ジャイーヴァ〉の拠点だろ! って事は〈ベガ〉もウジャウジャいるんだろ! この少人数で勝算はあるのか?」
「少数精鋭」
……だから、イヤな活用するな。
「最悪時は、死なば諸共」
「引き返してぇぇぇーーーーッ!」
「責任者出て来ぉぉぉーーい!」
全身鋼質化の脚線美で、重厚なオートドアを蹴破ってやった!
敵母艦内──中枢ブロックでの暴挙だ!
死に掛けた腹立ちも、もちろん込み!
モロコミならぬモチコミ!
「な……何事だ?」
予想外の乱入者に、部屋の主が狼狽える。
立体的な黒い吊り目。銀一色の風貌には体毛が一切無い。
いわゆる〈グレイ〉と呼ばれるタイプの宇宙人だ。
ただし、相違点も多い。
まず体格は中肉中背。つまり、この時点で〈リトルグレイ〉ではない。
本来ならアーモンド型の立体眼は、目元と目尻が鋭角的に尖っていた。耳先も尖っていて悪魔的印象。そして、襟首が立った漆黒のロングマントを羽織っている。
こうした禍々しい要素が相互的に助長しあって〝悪の首領感〟は倍増。
シノブンからの事前情報と合致する容姿的特徴を鑑みて、ボクは確信する──コイツがボスキャラだと!
「オマエが〈ジャイーヴァ〉だな!」
「ききき君達は!」
「毎度ォォォーーッ! 来々軒アルよぉぉぉーーッ!」
「いえ、来々軒じゃありませんから」
鼻息荒くボケるも、ラムスが冷静にツッコんだ。
「じゃあ、珍々亭でいいよ」
「もっとイヤです。実際、結構ありますけれど……その店名」
室内には彼一人。
ドーム状の壁面には、幾多の液晶モニターやらコンピュータコンソールやらが組み込まれている。
要するに、此処は司令室だ。
そして同時に、この組織がワンマン体制の一枚岩である事実も立証していた。でなきゃ、司令室が個室仕様って事はないもん。
「君達、どうやって此処へ? 我が〈衛兵ベガ〉は、どうした?」
「無駄ですわ。出会い頭に片っ端から叩きのめしましたもの──マドカ様が。そして、貴方も同じ運命を辿る事になりますのよ──マドカ様によって」と、ラムス。
キミ、敵の矛先をボクへと集中させる気だろ?
自分は安全圏内に構える気だろ?
それも、ナチュラルに。
「し……しかし、この指令室の位置をどうやって的確に? それも、突入から短時間で! 全幅六〇メートルはある艦内だぞ?」
「ああ、道案内させたんだ」
「道案内だと?」
「こちらの方ですわ」
ラムスに促され、ボク達の背後からモスマンベガが進み出る。
「ジャイーヴァ殿、もう止めましょう」
「胡蝶宮シノブ? キサマ……」
「…………」
「……………………」
「……………………」
「エロッ!」
「見るなぁぁぁーーーーッ!」
涙目で恥じらい、ラムスの背後に蹲るブルマ体操着。
そんなに恥ずかしいなら、忍装束のアンダーウェアにしちゃえばいいんじゃん? ──とは、教えない。面白いから(笑)。
「胡蝶宮シノブ? キサマ、裏切ったのか!」
あ、仕切り直した。
黒幕なりに展開を気遣った。
「これ以上は不毛。かつては協力関係に在ったが故、袂を別つ最後の忠言です」
ラムスの肩越しから、毅然たる眼差しを返すシノブン。
シマらない。
いくらカッコつけていてもシマらない。
敵からのアングルでは、凛とした表情しか見えないだろう。
けれど、横に立つボクからは、モジモジと内股で身を捩る様がハッキリと。
「ど……どういう事だ! 変身体質を手に入れなくても良いというのか!」
「日向マドカは約束してくれた──私に〝変身能力〟を授けてくれる……と。悲しい事ですが、もはや貴方との関係に固執する必要も無くなった」
心境の変化を告げつつ、ボクを一瞥。
だが、悪魔面のグレイは聞き分けなく抗った。
「止めろだと? 我が悲願を諦めろと言うのか! ようやく実行へと漕ぎだした矢先だぞ! 今回の計画に、どれほどの労力を費やしたかるか? どれだけの情熱を注いでいたか判るか? 総ては、地球を〈ベガ〉による理想郷へと再構築するためだ! その為にも、私は幾多の〈ベガ〉を傘下に集めねばならんのだ!」
「それが貴公の目的……。地球を〈ベガ帝国〉へと作り変える事が……」敵の真意を自責にも受け取りながら、シノブンは愁訴を続ける。「確かに〈ベガ〉は、人間社会に於いて忌避される異端者──そうした日陰者に救済を与えんとする貴公の崇高な理念には賛同を覚える。だが、日向マドカは可能性を示してくれたのだ──我々は分かり合えると。どうか平和的解決を模索し、これ以上の独断的蛮行は止めて頂きたい」
「救済? 崇高な理念? 先程から何を言っているのだ? オマエは?」
「……え?」
豹変した冷ややかさに、シノブンの表情が違和感を帯びた。
「私は〝ベガによる帝国〟とは言ったが〝ベガのための帝国〟とは一言も言っていないぞ?」
「で……では、何の為だと?」
「教えてやろう! 我が悲願は、全銀河の〈ベガ〉をはべらかす事だ!」
「「「変態だったぁぁぁーーッ!」」」
異口同音に慄然!
これまで味わった事もない恐怖だ!
ってか、変態しかいないのか!
この小説!




