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vs, SJK  作者: 凰太郎
vs, ……え?
25/41

vs, ……え? Round.1

挿絵(By みてみん)

「うう、(ちち)()みたい……」

「新章開幕早々、主人公の第一声がそれ(・・)ですか」

 ラムスが冷ややかにツッコんだ。メタ表現で。

 夜の公園入口に(たむろ)するのは、ボクとラムスとモエル。

 例の『ジュン救出作戦』が、マヌケにも失敗した三日後になる。

 あの直後、ようやくにしてクルロリから連絡があった。

 何故、応答が無かったのか──それは説明されていない。

 ただ、事態の顛末(てんまつ)は把握していたらしい。

 後の祭だけれども。

 合流したクルロリはシノブンを拘束すると「後日、星河ジュンを救出に向かう」とだけ言い残して去って行った。

 うん、拘束して行った。

 例のパモカスタンガンで、いとも簡単に。

 そして、現在に至る。

 彼女が合流に指定した日時と場所が此処だ。

 時刻は夜九時を過ぎた。

 彼女は、まだ来ない。

 ボクはプルプル震える右腕を左手で押さえ、苦しい自制を()いる。

「ああ! き……禁断症状が……ッ!」

「中毒物ですか。貴女(あなた)にとって、星河様の胸は」

 見据える道路にクルロリの到着を待ちながら、ラムスが平静然とツッコんだ。

 通学時間にはJKの往来に(いろど)られるこの道も、現時刻では静かに(とばり)へと呑まれている。街路灯の白い明かりが、羽虫達の踊り場と照らしていた。

「だって、もう三日だよ? 三日も()めてないんだよ? 一日一回は、ジュン乳()まないと!」

「普通は一日たりとも()みません」

 視線すら動かさず、冷たくあしらってくれたし。

 だけど、ボクの禁断症状は限界値寸前!

「うきぃぃぃ~~ッ! ()みたい()みたい()みたいいいッ!」

「黙りやがれですわ、このド変態」

 丁寧な暴言吐きやがった。

 この豊乳メイド。

「ああ、もう! こうなったら、とりあえず誰でもいいや! ラムス! ()ませて!」

 ──ズゴン!

「おぶうッ?」

 顔面に叩き込まれたよ。

 長もみあげを変質させた投擲槌(ハンマー)を!

「百億回死んで、ブラックホールの藻屑(もくず)になって頂けます? 宇宙規模ド馬鹿の貧乳マドカ様 ♡ 」

 ニッコリ微笑(ほほえ)みを向けて、愛らしく猛毒吐きやがった。

「ケチンボ! ラムスのケチンボ!」

(みずか)らの貞操を守って、何故〝ケチ〟呼ばわりされなければなりませんの……」

 無関心な応対で、再び道路へと注視を戻す。

「キミには分からないんだよ! あの〝乳風(ちちかぜ)〟の(むな)しさは!」

「……そんないがわしい単語は初耳ですわ」

「憧れて買ったCカップブラがスルーンと抜け落ちる感覚……ブラの隙間を撫で過ぎる空気の流動……分かるか! ビル風よりも心に()みる寒さが!」

「ハイハイ、可哀想ですわね」

「同情するなら胸おくれ!」

「……何を『同情するなら金をくれ!』みたいに(おっしゃ)ってますの」

「うわ~ん! 意地悪だぁ~~あ! どうせヒメカには()ませるクセにィ~~!」

「ひひひ人聞きの悪い事を(おっしゃ)らないで頂けますッ? (わたくし)とヒメカは、そのような卑猥(ひわい)間柄(あいだがら)ではございません!」

 真っ赤になって抗議してきた……寄せ乳を抱き庇いながら。

 と、ボクの肩を背後からチョンチョンと突っつく指──モエルだ。

「マ~ドカちゃん ♪  ハイ ♡ 」

 胸張って差し出してきた。デッカイのを。

「いや『ハイ ♡ 』じゃないよ? キミのは絶対()まないよ?」

「はぇ? 何で?」

「変態ストーカーの胸なんか()めるワケないだろ」



「シクシク……()んで欲しかったのに……」

「シクシク……早く()みたいのに……」

「御二人揃って泣き崩れないで頂けますッ? 鬱陶(うっとう)しい!」

 常識人の〈宇宙怪物(ベム)〉が怒気(どき)った。

「まったく……これは早いところ、星河様を救出致しませんと。こんなおバカさん、(わたくし)の手には余りますわ」

 こめかみ押さえて嘆息(たんそく)

「でも、どうやってジュンを追うのさ? おそらく敵は宇宙だよね?」

「それは間違いなく」

 道路奥の吸い込む闇を見据える。

 ボクも脇へ並び、その視線に(なら)った。

「やっぱ〈宇宙船〉で行くのかね?」

「それしかありませんわよ」

「そういや、ラムスは〈宇宙船〉持ってないの?」

「所有しておりませんわね。生憎(あいにく)、地球へと運ばれた(・・・・)クチですから」

「ねえねえ、マドカちゃん?」

「ふぇ? 何さ? モエル?」

「わたしなら飛べるよ? だって〈宇宙航行艇(コスモクルーザー)〉へ変形できるもん♪ 」

「一人乗り仕様じゃん? キミ?」

「うふふ ♪  だからぁ、(ひざ)抱っこだよぉ?」恍惚気味にトンデモ妄想を口走(くちばし)り始めた。「わたしの(ひざ)に、マドカちゃんが乗ってぇ……わたしが、マドカちゃんのシートになってぇ……イヤン♡ 」

 ……ホントに「イヤン♡ 」な人間椅子だな。

 赤面(おお)って何を提案してくれてんだ。

 とりあえず乱歩大先生に謝れ。 

「絶対ッ! 頑としてッ! 全力で拒否するッ!」

「ええ~? フカフカで気持ちいいよ~?」

 小脇締めて哀願するも、そのせいで寄った胸が豊満にパユンパユン……コノヤロー!

「そんな窮屈なコックピットはゴメンだよ! 息苦しい! 操縦だって(まま)ならないじゃんか?」

「あ! じゃあ、主導権(ストレージ)本体(・・)へ戻すね? そうすれば、わたし自身(・・・・・)が操縦できるもん ♪  マドカちゃんは、ただ乗っているだけ(・・・・・・・・・)でいいんだよ?」

 どうして、そこまでして『あいのり希望』だ? コイツ?

「そしたら〈プリテンドフォーム〉のキミは、どうなんのさ?」

「抜け殻になって、グッタリしてまーす ♪ 」

 ちょっと想像してみた。

 広大な宇宙空間で敵攻撃を()(くぐ)る〈宇宙航行艇(コスモクルーザー)〉──雄々しく反撃を吼えるボク──そして、背中に密着状態で(しかばね)(ぜん)とグデングデンになっている生温かいモエルの身体────。

「完全却下ァァァーーーーッ!」

 全力絶叫で拒んだよ!

 シュールで猟奇的な画面(えづら)に!



「シクシク……乗って欲しかったのに……」

「シクシク……絶対乗りたくないもの……」

「ですからッ! 御二人揃って泣き崩れないで頂けますッ?」

 またも保護者(ラムス)から怒気(どき)られたよ。

 状況が進展を見せたのは、その時だった。

 外灯が照らし漏らした闇に、二つの光る目が浮かびあがる。

 それなりのスピードで近付く様子から、それ(・・)が何かは察しがつく。

 車のヘッドライトだ。

 うん、いわゆる〝軽バン〟って呼ばれるヤツ。

 それは迷い無き安全運転で進み、ボク達の前で停車する。

「お待たせ」と、運転席のクルロリ。

 いや、平然とした無表情で「お待たせ」じゃないだろ。

「免許は! 運転免許は、どしたッ?」

「別に必要無い」

 ()も当然みたいに、トンデモ発言するな。

 よいこが鵜呑(うの)みにしたら、どうする。

「無免許かッ! もしかして無免許かッ!」

「そう」

 肯定しやがったよ。躊躇(ちゅうちょ)無く。

「ってか、宇宙行くんじゃないのかッ!」

日向(ひなた)マドカ、心拍数及びアドレナリン分泌量が微々と上昇している……何故?」

 不思議そうに小首コクン。

 クルコクならぬクルコクン。

「何故も尾瀬もあるかーーッ!」

 夜の住宅街に、ボクのツッコミが響いたよ

 これじゃ夜中に大声で(たむろ)するバカヤロチーマー共と同じだよ!

 ボクの嫌いな人種だよ!

 御近所迷惑も(はなは)だしい!

「ってか、宇宙船は! 宇宙船どしたッ!」

 クルロリは「ふむ?」とクルコクンした後、ポンと納得の手堤(てつづみ)を打った。

日向(ひなた)マドカ、どうやら誤認しているようなので訂正しておく。この機体は〝自動車〟ではない。地球の廃棄産物を再利用して、私が〈宇宙航行艇(コスモクルーザー)〉として新生させた代物(しろもの)

「……言い張るか」

「従って、地球の法律は適用されないし、運転免許証も必要無い」

「言い張るかッ!」

「論より証拠……いま見せる」

 そう言うと、カーラジオのスイッチをポチっとな。

 すると車体が地表から浮き、ガキョガキョと変形を開始した!

 側面ドアが水平に開き、そのまま主翼と化す!

 だけど、本体が剥き出しになったわけではない。どうやら二層構造装甲だったようで、翼と化したのは外部装甲のみ。内側装甲は、そのまま従来のドア構造による密室性を維持していた。

 車体底部から(ヒンジ)回転で現れたのは、鋭角的な台形パーツ──それはフロントバンパーへと結合すると機首部分になる!

 そして、車輪は底部へと水平折りに収納され、そのまま回転を続けていた。フィンフィンと静かな奇音を帯びている事から推察するに、おそらく〈反重力発生ホイール〉とかなんだろう。

 こうして、ボクの眼前で〝軽バン〟は姿を変えた。

 うん、これには〝も ● クロ〟も〝(あん)ちゃん〟もビックリだ。

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