vs, フラモン Round.4
「ふぇ……ふぇぇ……」
泣き疲れて惰性でグズってるし。
オモチャ売場で、よく聞く声だな。
ボクは腰に両手を当て、強い語気で嗜めた。
「デッカイ図体して、ビービー泣くな! 少しは〝グレート・マジ ● ガー〟見倣え! 涙も流さなきゃ言葉も喋らないぞ!」
「えぐっえぐっ……ふぐぅ……」
なんとか泣くのを堪えるフラモン。
まったく、幼稚園時代のヒメカか!
「で?」と、ボクは叱るように切り出す。「どうして無差別強襲したのさ?」
「グスッ……だってぇ……」
「やっぱ命令されたのか?」
「……うん」
シュンと頷いた。
「ジャイーヴァに?」
「うん……マドカちゃんを捕まえろって言われたから……」
「で?」
「え?」
「……みんなに悪いと思わないのか?」
「はぇ?」
「無差別強襲なんかして、学校のみんなに悪いと思わないのかって言ってるの!」
「ふぇぇ……だって、命令で……」
「周りを見ろ!」
饅頭顔が、半ベソで周囲を見渡した。
ボコボコ抉れたグラウンドに、凪ぎ折られた植樹。校舎だって一部破損している。
あまりに荒れた惨状を認識し、ようやくフラモンは自分が大変な事を仕出かしたと実感したようだ。
「ふぇぇ……だって……だって、ジャイーヴァ様が『手段は選ばん』って言ったから──」
「言い訳の前に、まずはみんなに『ゴメンナサイ』でしょーがッ!」
躾にキレた!
ラーメン屋での五 ● さんのように!
「ふぇぇぇん! ごめんなさい! ごめんなさい! うわ~~ん!」
大泣きながらに校舎へと玉葱頭を下げる。
まったく! どんな教育してんだか!
ジャイーヴァのヤツ!
「ホントにゴメンナサイッ!」
気合いを入れて深々と頭を下げた──ボクが!
「マ……マドカちゃん?」
「……みんなが許してくれるまで頭上げんな」
戸惑いに凝視するフラモンへと小声で注意。
謝罪は誠意が大事だ。
暫く、気まずい沈黙が漂い──。
「ま……まぁ、いいんじゃねーか?」「う……うん、別にウチらに被害無かったしね」「とりま校舎とか壊れたけど……それって校長とかの案件だし?」「ってかコレって休校のパターンぢゃね?」「マジ? ヤタッ!」
口々に脱線しだす女子高生軍団。
そのテンションは、侵略被害に遭ったとは思えないほど明るい。
ホント現金なのな、オマエら。
だけど、それは無敵な強さだよ。
寛容に脱線した空気を察し、ボクとフラモンは静かに頭を上げた。
校舎内には普段通りの姦しさが賑わっている。
うん、普段通りだ。
何故だか誇らしさを覚え、ボクはフラモンへと軽くサムズアップ。
「あ、そうだ!」女子生徒の一人が、何かを思い出したようだ。「みんな、一緒に……せーの!」
てっきり〝正義の味方〟への謝辞でも言うのかと思いきや──ッ!
「「「「「日向マドカさん、成仏して下さい! 南無南無南無…………」」」」」
「全校生徒で合掌すんなやァァァーーッッッ!」
女子高生軍団は『御仏壇のは ● がわ』と化したとさ……。
と、今度は予期せぬ質問が飛んできた。
「ねえ? アンタ、何者なの?」
「ふぇ? ボク? えっと……えっとね?」
ホント要らない質問だ。
こっちは正体悟られたくないのに。
「そいつの仲間?」
隣の巨体を指して宣った。
「違うよ! コイツは〈ベム〉っていう宇宙怪物!」
「じゃあ、アンタは? 何が違うの?」
「え……っと」
改めて突き付けられると困るな。
「ねぇねぇ? 何が違うの?」
ボクの複雑な心境を余所に、好奇の質問は止まない。
「もう! しつこいな! ボクは〈SJK〉だよ!」
「「「「「高二なん?」」」」」
「違うわッ!」
全員息ピッタリに首傾げボケすんな!
いや、まぁ……無理もないけど。
「じゃあさ? それって何の略?」
追及されたボクは、気まずい躊躇にボソッと呟く。
「……宇宙女子高生」
「「「「「ダサッ!」」」」」
各教室が一斉にユニゾった。
……クルロリ、やっぱ不評です。
「ねえねえ? マドカちゃん?」
隣の鋼鉄巨人が、人差し指でボクの頭をチョンチョン。
「何さ?」
「わたし〈ベム〉じゃないよ?」と、指銜えポーズで饅頭顔をコクン。
「ふぇ?」
「わたし〈ベム〉じゃなくて〈ベガ〉なんだよ?」
「…………わあ、そりゃ驚いた」
そうきたか。
このデッカイ『山を砕く銀の城』みたいな図体して、ヌケヌケと〈ベガ〉ときたもんだ。
「ホントだよ?」
疑りシラケるボクの心境を察して、更に指銜えコクン。
「……言い張るか」
「だって、ホントだもん」
「言い張るか!」
「じゃあ、証拠見せるね?」と、フラモンはボクを正視したままガキョンガキョンと犬這いになった。
結果、深々とした土下座スタイルに纏まる。
愛嬌満載の饅頭面は上げたまま。
ってか、怖いよ! むしろ!
ボクの身長よりもある巨顔が、ドデンと眼前に据えられてるんだから!
で、ガションと顔面が開いた。
プシュウと溢れ出た気圧差が白い靄と垂れ流され……その中に彼女はいた。
お姫さまみたいな清楚系美少女!
ピンクのロングヘアがサラリと流れ、潤む瞳は母性本能を擽る。頼りなくも愛玩的な表情が、語らずとも「ちょっとドジっ子なの♪ てへ♪ 」なキャラクター性を現していた。
その肢体を覆うのは〝純白ロイヤルドレス〟ならぬ〝純白ムチムチボディスーツ〟──SFアニメでよく見るような肉感圧迫してるヤツ。
エロッ! こいつ、エロッ!
野郎イチコロ属性てんこ盛りじゃんか!
「ななななッ?」
驚愕するボクへ〈フラモンベガ〉は「てへ♪ 」と舌を出して頭をコッツンコ。
いらないよ!
そういう天然ブリッコな野郎イチコロモードは!
「ななななななッ?」
「貴女方が〈フラットウッズ・モンスター〉と呼んでいるUMAは、正式名〈半自律型外殻実装仕様コスモローダー〉──宇宙では種族間を問わずに普及している凡庸機体ですわ。とはいえ、ここまでの巨躯仕様や変形機能搭載は、私も初めて見ましたけれど」
驚愕収まらぬボクの背後から、ラムスが平然と解説する。
うん、いつの間にか背後にいた。
気配すら感じさせずに。
大方、地面からでも涌いて出たんだろう。
清水の如く。
まぁ〈液状生命体〉だから不思議でもないけど。
ってか、そんな事はどうでもいい!
ボクの驚愕は、意識を削がれる事無く継続中!
「ななななななななななッ?」
「マドカ様に理解し易く言うならば、別に〝搭乗型ロボット〟という解釈でも構いませんわよ? コンセプト概念は、それほど変わりませんし」
「何でロボットの中からGカップが出て来るのさァァァーーッ?」
「…………争点、そこじゃありませんわよね?」
ラムスの冷ややかなツッコミと同時に〈フラモンベガ〉は「いやん♪ 」と寄せ乳で恥じらった。
何故か、まんざらでもない照れ顔で。
おにょれ! このEとGめ!
オセロみたいに、Aを前後から挟みおって!
……ん? 待てよ?
オセロみたいに?
って事は!
「ひっくり返して! いっそ、ひっくり返して!」
ラムスの脚に縋りつこうと飛びつき──ズシャアァァァ──擦り抜けて顔面スライディング!
寸前で部分液状化しやがったな。
「……次、殺りますわよ? 私に抱き着くのは禁止です……ヒメカ以外は」
氷のような殺意満々で蔑んでくるし。
「ってか、愚妹ならいいのかよぅ!」
「ママさんもOKです」
「ボクだけ仲間外れッ?」
「あら? 当然でしょう?」と、悪意ある温顔でにっこり。
何コレ? 新しいイヂメッ?
ボクは口元を押さえ「よよよ」と泣き崩れる。
「うう、酷いよぅ……ジュンなら〝おさわりし放題〟なのに……」
『私を風俗嬢みたいに言うなーーッ!』
「ふぎゃぺれぽーーーーッ!」
パモカ放電のおしおき!
ああ、忘れてた……ジュンとパモカリンクしてたっけ。
「で? いきなり何ですの? 今回は、どんな思考に至ったか知りませんけれど……」
腰に両手を据えた嘆息で、ラムスが訊ねる。
「ひっくり返してくれたら、ボクも胸デカくなるじゃん!」
「……は?」
「デカくなりたい!」
「なりませんわよ」
……何気に傷つく言い種だな。
うん、でも、まぁ……さすがに『オセロ法則』が現実に適用されるはずもないか。
とか思いきや!
「貴女の胸は絶望的。それ以上の成長は見込めませんわ」
ぅおいッ!
「荒野」
「グサッ!」
「絶壁」
「グササッ!」
「草木も生えなければ憩いも無い死の砂漠」
「ぶるぉあぁぁーーっ?」
容赦ない毒舌攻撃にボクは死んだ……。
若 ● ボイスの悲鳴を吐いて……。
チーン ♪




