表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
vs, SJK  作者: 凰太郎
vs, ブロブ
12/41

vs, ブロブ Round.4

挿絵(By みてみん)

「さっきはオバケ扱いしてゴメン! メタルオバケ!」

 いや、いまも言ってるけど?

「見てて判った……ヒメカを守ろうとしてくれているんだよね?」

 ようやく判ったか、愚妹(ぐまい)──そう思ったと同時に、不思議と心にパワーが涌き上がる!

 それが心身を(むしば)倦怠感(けんたいかん)を薄めていった!

「大丈夫! メタルオバケなら立てるよ!」

「ク……ッ!」

 ダメージを(こら)えて()()きようと(こころ)みる!

「だって、胸ペッタンだもん! 重くないよ!」

「ぅだらぁぁぁああッ!」

 憤慨(ふんがい)奇声(きせい)に立ち上がった!

 どんな声援を向けてくれてんだ! この愚妹(ぐまい)

 ともあれ、アホらしくも復活できた。

 吹き抜けを(あお)(にら)むと、下半身を蛇身と化したメイドが(しだ)(せま)っている!

「貰いましたわ!」

 躊躇(ちゅうちょ)無くボクへと特攻!

 玉砕(ぎょくさい)覚悟の体当たりかと思いきや──どぷん──そのまま全身ゲル化してボクを呑み込んだ!

 結果、頭だけ出した水饅頭(みずまんじゅう)状態。

「懐かしの〝風船おじさん〟かーーッ!」

 足掻(あが)く!

 必死コいて足掻(あが)く!

 だけど、鉄拳も蹴りも内壁に沈むだけ!

 ノーダメージに吸収されちゃう!

「クソッ! まったく効いてる様子がないじゃんか! まるっきり『暖簾(のれん)(くぎ)』だぞ!」

『マドカ、それを言うなら〝暖簾(のれん)腕押(うでお)し〟か〝(ぬか)(くぎ)〟だからね? 奇跡的に意味は通るけど……』

 パモカからのツッコミ。

 と、ボクは違和感を覚えた。

 じわじわと身体(からだ)痛熱(いたあつ)い。まるで全身灸みたいな熱さだ。

 ふと視線を落とすと、(わず)かに〈PHW〉が(ほころ)びを生じている!

「しまった! そういえば〈ブロブ〉って、溶解捕食するんだっけ!」

「クスッ、その通りですわ」ボクの(かたわ)らにラムスの胸像が生まれる。「これは死の抱擁(ほうよう)……()わば、獲物の犠牲へ哀悼を捧げたハグですの」

 冷酷さを(はら)んだ柔和が耳元で死刑宣告。情欲めいた吐息が妖しい戦慄を感受させる。

「SFの鉄板設定まで踏襲(とうしゅう)すんな! ボクを抱きしめていいのはジュンだけだぞ! ……ってか、むしろジュンなら抱きたい……抱かせて!」

『何を口走(くちばし)ってるかーーッ! あなたはーーッ!』

「ふぎゃぺれぽーーッ!」「きゃあああーーッ?」

 怒気を具現化したかのような電撃が、ボクとラムスを直撃した!

 ってか、何だ! このプチ天罰は?

「ジュン! いつの間に放電能力なんかを?」

『んなワケないでしょ。これはパモカのリンクリモートコントロール機能──つまり私のパモカで、あなたのパモカを遠隔操作してバッテリー放電させたのよ』

「ふぇ? んな機能あったの?」

『私のは……ね。アプリを自作したから』

 宇宙科学アイテムのアプリを自作って……さらりと言うけど、どんだけ秀才?

「ってか、何故そんな機能を?」

『あなたの脱線暴走を抑制(よくせい)するため』

「それって、おしおきをチラつかせた使役(しえき)じゃん! 三蔵法師と孫悟空のシステムじゃん!」

『仕方ないでしょ。本当は私が直接目を光らせていたいけれど、一緒に前線へ立てないんですもの』

「ジュンの言う事なら、ボクは素直に聞くっての! 軽めのご褒美(ほうび)で!」

『軽いご褒美(ほうび)って……例えば「マドナ(おご)れ」とか?』

「ううん、()ませて」

()けぇぇぇーーーーッ!』

「ふぎゃぺれぽーーッ!」「ひあぁぁうん!」

 二人(ふたり)(そろ)って意識がトびかけた。

『あ、なるほど。彼女は〝液状生命体〟だから、電導率が高いんだわ。これって有効策かも』

「ちょっと待って? 現形態(いま)のボクも電導率メッチャ高いんですけど? 全身金属なんですけど?」

『うん、知ってる』

 いや、屈託なく明るい抑揚で「知ってる」って……そこはかとなく日頃の恨みを感じて、怖いんですけど?

日向(ひなた)マドカ、危惧するには及ばない。パモカバッテリーの電圧では、死ぬほどの威力は無い。せいぜい、改造スタンガン程度」と、クルロリ。

「充分、絶対、頑として、イヤだよ!」

『星河ジュン、追加攻撃を要望する』

「ちょっと待て、クルロリリャレルラララレレリロパアーーーーッ!」「いやぁぁぁあああああッ!」

 (むしば)む感電ダメージに、()まらずメロンゼリーが()退()いた!

 そして、充分な間合いにメイド姿を再形成。

 脂汗(あぶらあせ)(まみ)れに荒息(あらいき)(あえ)いでいる。

 まあ、それはボクも同じだけど……。

「ゼェハァ……ねえ、大丈夫? 顔色悪いよ?」

「フ……フフ……どうやら貴女(あなた)奸計(かんけい)だったようですね。()()覚悟で起死回生(きしかいせい)を狙うとは、敵ながら見上げた覚悟ですわ」

「やりたくてやったわけじゃないよ!」

 (ぬぐ)えぬ苦悶によろめきつつも、メイドベガは戦闘継続の意向に立ち上がった。

「正直、(わたくし)の限界も近いようですわ……次で決着をつけましょうか」

「うん、そだね。ボクも限界だし」

 双方思った以上に電撃ダメージは大きい。

 だから、ボクも身構えた。

 彼女の根性に応えるべく。

 半身を(しゃ)に乗り出して重心を低く落とすと、脇腹に据えた右拳に力を溜める。空手部の助っ人経験が()きた。

 ラムスの右肘先(みぎひじさき)半月刀(はんげつとう)形状へと変形。

「知っています? 高水圧の切断力は、ダイヤモンドすら切れますのよ」

「ああ……それ、そーいうのか」

 よく見りゃ細かい刃が無音に高速回転している。

 ウォーターカッターを応用したチェーンソー構造だ。

 張り詰める緊迫!

 そして、互いに間合いへと駆け出した!

「うりゃあぁぁーーッ!」「たぁぁぁーーッ!」

 この一撃で雌雄(しゆう)が決する!

 そう確信した刹那(せつな)──「ダメェェェーーッ!」──不意に叫ばれた制止に、二人して突進を止めた。

 声の主は、ヒメカだった。

「んしょんしょ……ラムスちゃんもメタルオバケも、もうヤメてよ! んしょんしょ……」

 二階から降りて来ようと、天井からの大穴にへばりついている。その不格好な(さま)は、まるで岩肌を(くだ)子蟹(こがに)

「ヒメカ? あ……危ないですわよ!」

「そうだよ! 運痴(うんち)なんだから来るな!」

「やだ!」

 聞き分けなく「やだ!」じゃないだろ。この万年反抗期。

 もともと激戦被害で無造作に破壊された(あと)だ。その断面は(もろ)(くず)(やす)い。

 それでも何とか安定した足掛(あしが)かりを得ようと、悪戦苦闘していた。

 ってか、そもそも二階の高さから飛び降りれるのか?

 運痴(うんち)のクセに?

「んしょんしょ……ヒメカは、どっちが倒されてもイヤなの! メタルオバケはヒメカを救けようとしてくれたし、ラムスちゃんは〝ヒメカのお友達〟だもん! だったら仲直りして! んしょんしょ……」

 ヲイ、仲直りって何だ。

 ボクとコイツは〝ティートモ〟じゃないぞ。

「甘ちゃんですわね」乾いた蔑笑(べっしょう)でラムスが(あざけ)る。「(わたくし)は〈ベガ〉──〝宇宙怪物〟の(たぐい)ですのよ? それを〝友達〟などと……()(ごと)もいいところですわ」

「そんなの知らないもん! 友達だもん!」

「先程、(わたくし)に襲われかけたのを御忘(おわす)れ?」

「襲わないもん!」

「……え?」

「さっきは確かに怖かったけど、ラムスちゃんはヒメカを襲ったりしないもん! 絶対絶対絶ッッッ対に!」

 ヒメカの主張に根拠なんか無い。

 それは重々承知。

 この子の性格は、よく分か……っていないかもだけど、性根はよく分かっているつもりだ。姉だし。

 だから──「……ヒメカ」──ラムスからは戦闘意欲が完全に()()せていた。向けられた想いを噛み締め、感傷的に(たたず)んでいる。

「んしょんしょ……二人共、ヒメカはね……んしょ……ヒャア?」

 崩れた!

 言わんこっちゃない!

 あのバカ、頭から落ちているじゃないか!

「ヒメカッ!」

 条件反射で駆け出した!

 その瞬間、ボクの顔脇を(かす)めて飛び込む物体!

 視界の隅から追い越したのは、緑色の鉄砲水(てっぽうみず)──ラムスだ!

 全身液状(ゲル)化した彼女は落下地点へと溜まり、そのままウォータークッションと化す!

 そして、見事にヒメカをキャッチ!

「ナイス! ラムス!」

 早急に駆け寄って(のぞ)き込む。

 メロンゼリーの表面に浅く沈んだヒメカは、目を回して気絶していた。

「ふみぃぃぃ~~?」

「ったく、この愚妹(ぐまい)は!」(あき)れながらも、内心ホッとする。「ありがとね、ラムス」

「…………」

「ラムス?」

「……あ」

 ボクの呼び掛けに、ようやく気が付いたようだ。

「まったく、つくづくお人好しですのね……貴女(あなた)(がた)、姉妹は」

 ()(つくろ)ったような悪態(あくたい)

 しかし、これは〝敵意(・・)〟ではなかった。

 うん、(すで)に〝敵意(・・)〟は無い。

 何処(どこ)かへと投げ捨てられていた。

 だから、ボク達が戦う理由も無くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらのランキングにも御協力を御願いします。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ