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五人少女シリーズ

可愛さを追求した結果魔法少女になることにしました【五人少女シリーズ】

作者: KP-おおふじさん

各キャラクターの設定というか、そういうのを少しでも知っておきたいと思う方はシリーズ一覧からその記事を見ることが出来ます。

簡単に紹介すると


衣玖 天才系バカ

真凛 幼馴染系バカ

留音 脳筋系バカ

西香 よくわからんバカ

あの子 至極存在の使わせし天使(不可侵)


 

「可愛さが足りないと思うんです」


 ふと真凛さん、提案。目の前には衣玖がいて、彼女はパチパチとまばたきをして訊き返した。


「え、カワウソがParty Night to omen Death?」


 自分で言ってから、ん?と眉を寄せて真凛の言葉を吟味する衣玖。多分、可愛さという言葉に縁が無さすぎて聞き取る事すらできなかった。


 あれ、でもちょっと待って?妙な聞き違いを聞いた真凛、更に考える。


「カワウソがパーティナイト……それって凄く可愛いです。あれ?これが可愛さ……?」


 真凛もよく分かってない。とりあえず手の短いカワウソが必死にヒップホップなダンスを踊っているところを想像してキュンときたので可愛い感じはする。


「あぁ、可愛さって言ったのね……足りないって、何でいきなりそんな事を考え出したの?」


「それがですね、どうやら女の子が何かしら行動を起こす場合、可愛さがなければ支持されにくいと聞いたんですよ。んー、以前にわたしたち歴史の本になりましたけどぉ、わたしたちの事がいつ、どんな形で記録されるかわからない以上、常に可愛さを意識しておくべきかなと思ったんです……で、考えたらそもそもわたしたちに可愛さってあるのかなって」


 切実だった。真凛の言う通りだとすれば、可愛ければ支持されやすいという事。衣玖は考えた。前に見せたけどみんなに支持されなかったドクロマーク……あれは可愛くない。とびきりかっこいいけど、たしかに可愛くはない。なるほど、そういう事かと衣玖はうんうん頷いている。ロックを自称する衣玖自身は支持を求めないが、可愛さについての知識として備えておきたい気持ちはあるらしく、話には乗る構えだ。


「ふむ、可愛さか。……ん、全然わかんない。何を持って可愛さがあるかどうかを判断するのかしら」

 衣玖はうーんと悩み、いつも近くにいるあの子には聞いたか尋ねると、真凛は既にその子との話を終えた上で衣玖のところにきていたらしい。なんでも自分は可愛くないから他の子に聞いてと謙遜されたようだ。


「そもそも可愛さってどこから湧き出るものなんでしょう?品格?容姿?言動?わたし、家事なら自信があるんですけどぉ……」


 こんな話題で、それぞれ議論する二人。品格が高い人に可愛いとは言わないし、かといって低くあるべきではない。なら容姿かと聞けば、ただの文字や音にも可愛いという表現が使われる以上それも違う。であれば言動?いやいや、おバカな事を言っても知能的であっても可愛いと呼ばれるパターンはあるから何か違う気がする。


 IQ三億の頭脳が考えてもまるで答えが浮かばないまま時が過ぎていく。


「まずいですよ衣玖さん。可愛さについて何も思いつきません……もう三時間ほど何かしら捻り出そうとしてるのに何一つ思いつかないなんて……」


「女子二人でこの有様はかなりマズイわね。西香に聞いたらどうなるかというシミュレーションもしてみたけど確実に面倒な事にしかならないわ……どうしてこんな話題持ってきたの……」


 はぁ。とため息をつく二人。ついでにあまりに話が進まなくてもう一人もため息。誰の事か?はい、私です。そこへ一人、部屋に入って来た。


「うぃー帰ったよみんなー。ってお、妙に暗いじゃないか、どうしたんだよ二人とも?」


 どこからか帰宅した留音は悩みふけて死にかけている二人とは反比例な明るさで爽やかに聞く。


「おかえりなさい、留音さん。実は今……」


「無駄よ真凛。ルーに聞いてわかるような話じゃないわ」


「あぁ?んだよ、話してみなきゃわからないだろ。まさか私たちが物心つく前にボロ雑巾のようにして捨て去った可愛さの話をしてるわけでもあるまいし」


 というわけで落ち込みながら真凛が事情を話した。


「マジで可愛さについてだったのか。そんじゃあ確かにあたしにゃわかんねぇなぁ」


「というか題材が普通すぎるのよ、この話題は伸び代がなさすぎるわ。真凛、本当にどうしてこんな話題持ってきたの……」


「うぅ、すいませぇん……だってあざといまでに可愛いとそれだけ支持されやすいとあったから……天の声で聞こえたんです、可愛い方向でも行ってみよう、可愛さについて議論すれば可愛さの有り様に気付くことができるかも、って……」


 その結果こうなってしまった。進展のないグダグダ空間。ブチ切れで世界を消したり、趣味の悪い魔王になったりする人たちがここからこの話題や女子トークでほんわか空気を取り入れてネタを広げていく方向性はまず無理だったのだ。それに気付くまでリアルに五時間くらいかかった。マジで。


「残念だけど私たちにこういうの求められても無理よ。生物学的見地から学名レベルで"可愛い"を持って生まれて来てないと絶対不可能ね。私たちの種は天才、ゴリラ、闇……これじゃ萌え系アニメのようにぽんわりとした空気を作るのは無理……。受け手が満足する確実なツボでも抑えない限りね」


 そう、マッサージで効くツボみたいに的確にポイントをおさえた可愛さがあれば、見ているだけで幸せという効能を与える事ができる。


「たしかにあたしもそう思うが……だったらむしろやってみようじゃないか!あたしらの反骨精神なめんじゃないよっ、無理な事こそやってみたくなるのがあたしらってもんだろ!」


 留音がグッと手を掲げると、衣玖も肯定するようにフッと笑い、頷いた。


「流石ルー、女の中の男ね。ロックでカッコいいけど……でもどうするの?このままぐでっとした空気に飲まれていたら寿命の方が先に尽きるわよ。この数秒の会話の中で既に七時間経過してるんだから」


「……そうだな、あたしらにとって可愛さは確かに必要な要素なんだろう。それに年頃の女が集まって誰一人意見すら出せないとか猛烈にヤバい。だからまずはあたしらの思う可愛さを題材にすべきだ。今回のディベートではそれぞれが何に可愛さを感じるかという所からメスを入れ、切り崩していこうと思う」


「うぅっ、既に表現が微塵も可愛くないですよぅ……」


 本当に可愛さが無いんだなと涙する真凛。少しでも可愛い会話をするためにと衣玖が先手をきった。


「そうね……私はやっぱりゴスかしら……ゴスロリも否定しないけど、あっちは甘過ぎるから、やっぱりゴスが可愛いと思う。かっこいいとも思うけど、私の思う可愛いに一番近いのはこれね。参考資料を用意したわ」


 もはやプレゼンである。いつの間にか備えられていたプロジェクターからは、目の周りを酷い隈のように真っ黒く塗られ、肌は青白く化粧している人や、不気味な骨の見えるデザインで半身しかないキャラ人形を抱いて死んだような少女、最早ゴスなのかわからないが、なぜか薄着にガスマスクをつけた女性の画像なんかがスライドされる。流れるたびに恍惚に悩まし気な吐息をする衣玖に二人はドン引き。ついでに途中で部屋に入ってきたあの子も小さく悲鳴をあげていた。


「はぁぁ……すっごく可愛いと思わない?あの人形、どこにも売ってないのよ、一つ欲しいのにな……」


 目をキラキラさせながら笑顔を作ったり本気で残念がったりして、この部分だけ抜き取れば可愛い会話をしてる雰囲気があるような、無いような。画面は屍体みたいなメイクの人が映ってるけど。真凛は同意を求める衣玖を完全にスルーして留音に助けを求める。


「あの、留音さん、やっぱりこの話題は難しいんじゃ……」


「い、いやまだだ、あたしたちでもぽんふぉわ空気を作れるって所を証明しなきゃ終われない!」


 狼狽える真凛と留音に、失礼ねと衣玖はムスッと頬を膨らませる。


「何よ、私が可愛いと思ってるんだからいいでしょ。じゃあ真凛とルーはどうなのよ」


 真凛と留音はお互いに視線を交わせ、どちらが先に言うかを目で譲り合う。結果真凛が折れた。


「うんと、わたしが可愛いと思うのはぁ、わんちゃんや猫さんとか……」


 おっ。このセリフに衣玖と留音は光明を見た。ちゃんとした意見なのではないか?ここから可愛い話題に繋げられるんじゃないか?という……真凛の言葉は続いている。


「あ、もっと好きなのは豚さん!美味しく食べられる事もあって可愛いと思っちゃいますねぇっ、あんなにぶひぶひ頑張って生きてるのに、最終的に掻っ捌かれて人間のお腹の中に入るんですよぉっ☆その点わんちゃんや猫さんは食べられないから」


 おや?不穏な空気を感じ取る二人。


「あ、そうだ。少し前に別の可愛さに気付いたのは小さい虫さんです!小蝿とか蚊、蜘蛛!おっきい虫さんは怖いですけどぉ、潰した時のプチっていうのが……あ、知ってますか?蜘蛛って糸いぼってところを潰すとぶちゅってなってすごぉくかわ」


 衣玖も留音もぶるりと肩を震わせ、ものすごく嫌そうな表情を作る。


「うわぁもういい!!!あぁどうしてなんだ!どうしてあたしらには可愛さ以前に可愛さを判断する能力まで備えられていないんだっ!」


 遮った留音に対し、真凛は「え〜」と不服を申し立てながら、片手の親指と人差し指を合わせぐっと力を入れている。素手でこんな風に潰しているのだろうか、怖すぎ。


「でもそういうルーはどうなのよ。あなたは適切な可愛さを提供してほちょリンとした空気を作れるんでしょうね?」


「あったりまぇ!……あ……」


 留音は胸を張ってなにか言いかけたが、別のなにかに気付いて口を噤んだ。で、結局言い出したのはこんなこと。


「あ、あたしは……筋肉かな、腹筋とか三十二個くらいに割れてたらすごい可愛いと思う……」


「ぶぅー、留音さんも人の事言えませんよぉ」


 変態嗜好は当然そんな風に言われ、照れたように笑う留音だが実際に言いかけた事は全然違う。本当は夜いつも寝る時に抱いているペンギン人形のペッキーちゃんが可愛いはずだったのだが、恥ずかしさに負けて言い出せなかった。惜しい。残念。


「こんなんじゃ可愛さのツボは抑えられませんねぇ……」


 と、真凛が諦めかけたその時、扉が勢いよく開かれる。


「ガラッ!!お待ちなさい!!」


 西香が鼻息荒げて入ってきた。


「西香……生きてたのか」


「全く不甲斐ないですわね皆さん。可愛いのかの字はさいかのか。何故このわたくしを呼ばないんです?」


 最初に呼んだ結果、扱いが面倒になって消させてもらったのはこちらの事情。そろそろ出してあげましょう。


「ほんとにもう、あなたたちと来たらなんですか今の会話は!死体みたいな画像!殺虫フェチに筋肉?!サイコパスの会話です!もう、ほとほと呆れかえりました。でもわたくしが来たからにはもう安心ですわ。わたくしには絶対に可愛さを生み出せる用意がありますの」


「な、なにっ?そんなもの事前に用意できるのか……?」


 留音は思わず身を乗り出し気味になっている。それはそうだ。実はこの短い会話だけで、もう一週間も経過していた。それでもなんの答えも出なかったというところなのに、この西香は可愛さを用意してきたというのだから。


「えぇ。取り出したるはこちらのツボ。この中には絶対に可愛さを表現させることのできるものが入っているのです。ふっふっふ……どうです?あなたたち、喉から手が出るほど欲しいでしょう?」


 衝撃だった。まさかツボ一つで可愛さが手に入るというのか。真凛たち三人は戸惑いながらもツボを凝視する。一見して投げたら割れそうな普通のツボだ、派手な装飾がしてあるわけでもない。


「西香。私たちも馬鹿じゃない。そんなツボで可愛さが手に入るなんて簡単に信じないわ。何か証拠はないの?」


「衣玖さんは流石に抜け目ありませんね。いいでしょう、一つだけお見せしてあげますわ……」


 そう言って不敵に笑った西香はゆっくりとツボに手を入れ、何かを掴んだように一瞬動きが止まると、今度は息を呑んで見守る三人にクスリと笑いかけてツボから手を抜いた。その手には女子御用達の髪留め用のゴムが握られている。よく見ると二個あるようだ。


「えっ……?それを咥えて引っ張ってパァンってやるんですか……?」


 真凛が恐る恐る聞くが、西香は意にも介さずそのゴムを使って……自分の両サイドの髪を縛った……綺麗な長い黒髪が別れ……!


「ねぇ!見てくださいな!わたくし髪型をツインテールにしてみたんですのー!どうですかっ?」


 パァッと明るい表情と作った声でクルリと回ってみんなに微笑んだ。何故わざわざ報告した……?なんの意図が……?


「はっ……!」「あ、うそ……」「パァンってやらないんですか?」


 そこで全員気がついた。風の流れが変わったことに。気持ち的に空間の色合いも暖色が増してゆったりとした気がする。衣玖などは思わず立ち上がって一歩下がってしまう。髪を縛って報告しただけ……たったそれだけでなんだか可愛い感じのポンニョわとした空気が流れ込んできている事に恐怖した。西香の周りなど、発光虫が飛び回るかのようにキラキラとした空間が出来上がっている。


「あ、可愛い。えいっ」


 あ、真凛がおもむろに手を伸ばして一匹潰した。モザイク処理。


 もう一つ、三人の後ろでそこの子が西香の変化に対し、可愛い事を伝えるようにニコニコしながらパチパチ拍手をしている事も、可愛い空気を作るのに一役買っているようだ。


「じゃ、じゃあそのツボは……本物ッ!」


 衣玖の言葉に続くように三人は仰天の視線を交わす。


「えぇ、その通り……このツボの中には他にも百種類以上、可愛さを表現し、ポニャワポな空気を作り出す道具が入っていますの。今ならお値段据え置きで提供させていただきますわよ」


「え、お金取るんですかぁ……?」


「当然ですわよ。可愛さイコール支持率。わかってますの?このツボがあれば世界を取れるんです。値段はあなた方の通帳に入っている金額の合計……さぁ、どうします?」


 悪魔のように西香は三人に迫り、艶と囁く。


 三人共背に腹は変えられないというもの。可愛さがあれば支持を得られる。今の自分たちにはどうしても必要なものなのだ。


 そうして三人は渋々と通帳を差し出し、そのツボと交換した。


「これであたしたちもプルっポォ空気を作る事が出来るように……!」


 留音たちはツボを掲げ、ついぞ聖剣でも抜いたかのような喜びを見せている。だがその様子を見た西香が、意味深にもクスクスと笑うと場の空気が黒く、歪み始めた!


「くっふっふっふ……なんて愚かな人たちでしょう。可愛さなど一朝一夕で手に入るものではありませんのに……そんな安いツボに本当に銀行通帳を差し出すとは驚きましたわ。でもわたくしは返品返金一切禁止のノークレームノーリターンでお願いします系……ふふ、あなたたちは確かに買った……!」


 邪悪な黒い歪みが西香を取り巻き、暗黒のヴェールを纏わせる。


「ま、まさか……!!」


 いち早く状況を飲み込んだ留音がツボの中身を探る。そこには漫画がほとんど無く独特な服を着た女の子の写真ばかり載った雑誌、細かすぎる程色分けできるペンたち、バッグの中に入るバッグ、の中に更に入るバッグ……誰も貼りたくない柄のついた絆創膏、糸くらいしか切れなさそうなハサミと針が入った暗殺用具らしき何か、保冷効果ゼロの水筒、ポケットティッシュにしか使えなさそうなケース、やたら小さくて性能が腐ってそうなカメラ……など、留音はこんなのゴミばかりじゃないか!と吼える。


「あなたたちが自分で買ったものです!……ふ、おバカさんですわね。使い方のわからない道具に価値があるのかしら。わたくしでもあの髪を留めるゴム以外存在価値がよくわからなかったのです。あなた方に使いこなせるわけが無い……ですがわたくしは返品を受け付ける気はありません!この通帳に入っているお金は全てわたくしのものですわー!」


 おーっほっほ!高笑いとともに暗黒波動は高まっていき、西香はそれを自分のものとして優雅なくらいに纏う。衣玖は何か打開できる道具はないかとツボの中を漁るが、出てくるのは一見して意味のなさそうなものや装飾がやたら鬱陶しいものばかり……。


「っく……ダメね。この中に可愛げな物はない……!騙されたのよッ!」


 ポイポイと中身を投げ捨てながら衣玖は膝をつく。ツボから放り投げられた本があの子の前にばさっと落ちる。スタイルの良いモデルがホワッとした帽子を、ボーイッシュな服装で決めている女の子が写っている。あの子はそれを膝の上に乗せ、ちょうど近くに飛ばされてきたポケットティッシュ用ケースの生地が破れていたので、暗殺用具……というかソーイングセットでそれを補修しながらファッション雑誌を流し読みしていた。まぁ、真凛たちには全く一切あらゆる意味でミクロンほども関係のないことだ。ついでにその子はみんながじゃれあっているところを、小さなカメラでパシャリと撮影してニコニコしている。


「ダメなんですね……わたしたちに可愛さは手に入らない……他人からの支持なんて一つも得られずに静かに消えて行く運命なんですね……」


「そんな事は無い!きっとどこかで誰かが認めてくれるはずだ……!」


 真凛の力ががくりと抜けるのを、隣にいた留音がなんとか支えた。


「おっほっほ!真凛さん留音さん、絶望することはありませんわよ。わたくしが今ここで得たお金を元にブラック企業を設立、あなたたちを社畜にして差し上げます。そうすればそんな悲しい事を考える思考力は死ぬでしょう!!」


 そう言った西香からダークフォースが真凛たちに向けられ、放たれたその時!


「キュキュー!させるかーっきゅ!」


 防がれる闇の力。真凛たち三人は光のオーラに守られたのだ。光を放った謎の生物……光のオーラによって出来た影のシルエットは小動物のようだが、人間の言葉を喋っている。


「キュキュ!だいじょうぶっきゅ?!みんな!」


 一同はその正体を凝視した。それは紛れもなくカワウソだった。だが毛並みは白銀に輝き、額には星の模様、小さな腕には脈々と魔力の術式が刻まれている。


「き、君は……?」「わぁっかわいいー!」


 衣玖は恐る恐ると聞き、真凛は興味津々で体毛を撫でようと手を伸ばしている。


「流石に黒い西香についてはもう少し早く聞くべきだったと思うが、これは一体どういう展開だ!」


 ただ一人まともに状況の疑問を呈した留音の言葉は都合よく無視される。


「あの少女は……お金の妖力に魅せられ、暗黒大陸の王、ダークロードのエレメントを取り入れてしまったっきゅ……ダークロード、罪もない少女になんて酷いことをっきゅ!」


 カワウソは西香に同情の眼差しを向けている。クリクリっとしたつぶらな瞳がキュート。


「おのれー!貴様は聖なる善の王、二コリウスの手の者ですわね!?」


 カワウソはバ!と短い手足を広げてみんなの前に立ちふさがり、光のオーラを西香の前に展開。


「そうだきゅ!ボクは二コリウス王の命により地球に降り立った騎士、フェルディナント・ディ・アルケナバルっきゅ!お前たちダークロード軍の好きにはさせないきゅー!」


「うわ〜、毛がさらさらふわふわ〜」


 ナンタラと名乗ったカワウソの体毛を撫で続けている真凛を無視して、みんなに振り返る。西香は邪悪な炎で光のオーラを破ろうと攻撃を始めた。オーラはシールドとなり、不安定に揺れているがしっかり攻撃を防いでいる。


「ごめんよみんな、ボクは地球に適応するために手っ取り早く動物の体を借りていて、力を上手く使いこなせないんだっきゅ。だからあのダークエレメントに飲まれた少女を、ボクだけの力で元に戻す事はできないきゅ。でも……君たちが力を貸してくれたら別きゅ!ボクと契約するんだっきゅ!善の力で魔法少女に変身し、一緒にあの闇を払おうっきゅ!」


 衣玖と真凛はお互いに顔を合わせ頷く。契約完了だ。


「……え!?展開!前置きは!?早い早い!!」


 留音は取り残されているらしい。無理もない。魔法少女なんて留音の歳では厳しいからだ。


「いや!まだあたしもギリイケる歳だぞ!?ってそういう問題じゃねぇ!今日日魔法少女ってのはもっとこう……」


「変身!」


「聞く気もない!」


 特に留音を説得するでもなく二人はとっとと変身する。


「潰してきた虫さん……力を貸して!魔法少女!ヘイティー・マリン!」


 こうして真凛は今まで殺害してきた虫の怨念を正義の力に変える魔法少女、ヘイティー・マリンとなった。ひらひらのスカート、妖精の羽にバトンステッキ。完璧な変身だ。ただ色合いがちょっとドロリと赤黒いかな。


「す、すごいっきゅ……王様の言った通り、本来ならダークロードのパワーである怨念パワーを正義の力に変換してしまうなんて……どれだけ無邪気に虫を殺しまくってるんだっきゅ……!」


 その変身を見た衣玖も、真凛と目を合わせ「やるわね!」と親指を立てると、続くように変身を叫ぶ。


反体制(ロック)の精神よ、今ここに!魔法少女!ミスティー・イク!」


 衣玖は魔法少女は何かしら理由があって供給される魔力とか、そういうよくある設定を全部ロックにやり過ごし、不気味にもどこかしらからなぜか力が溢れる魔法少女、ミスティー・イクとなった。こちらはゴシック調に控えめな色彩の中にもスタイリッシュでクールな意匠のある抜群のデザイン。かっこいい系の魔法少女だ。でもちょっとハードコアなドクロが見えるかな。


「彼女も凄いきゅ……ハートを熱く揺さぶる何かをもってるっきゅ……!それが何かはよくはわからないっきゅけど……」


 無事に変身ができた二人は両手を合わせやったー!と無邪気に喜び、そんな光景を枠の外からあの子がニコニコと撮影している。


「ま、マジでこの感じで変身しちまったのか……あたしも、なれるのか……?」


「そうきゅ。君も今は聖なる善の祝福を受けた魔法少女の一人。さぁ、脳裏に浮かんだ変身ワードを叫ぶんだっきゅ!」


 ゴクリ。留音は先程から契約のせいか、ピンク色の筋肉の雑学が頭に浮かんで仕方がなかった。それはつまり変身できるという事。だが魔法少女を前に、幼少期の苦い思い出も蘇る。


「あー!ルネがスカートはいてるー!」


「ほんとだーへんなのー!」


 当時同じ組だった男子の言葉で留音は思った。自分に女の子らしいものは合わないんだと。


 それからは好きだったはずの女の子的な趣味から離れ、ロボットやヒーローものを見るようになった。そこで今でも趣味にしているプラモデルに出会えたのは幸いだったが、あの時の言葉が無ければ、別の自分がいたかもしれない。


 でも本当はなにを好きだっていいはずなんだ。誰に何を言われたって、どう思われたって、本当は気にしなくたっていいはずだ!好きなものを好きという事!魔法少女、大好きだった!そんな自分がチャンスを手に入れた……!やろう!自分のために!いつかの自分に教えてやるんだ!好きなものは好きと言っていい事を!ありのままでいていい事を!


「……変身!」


 他の魔法少女や展開なんて気にしない。自分がなりたかった、自分だけの魔法少女になるために。


「ぴょわにょいー☆ピンキーマッスル!るんx2ハーモニー♪ 魔法少女!くるクルQR96〜!マジカ☆ルネ♪♪」


 こうして留音は誰よりも気合いの入った変身演出で世界中の筋肉から力を受け取ることができる近接パワータイプの魔法少女、マジカ☆ルネとなった。見た目にマッスルなオチがつくとかそういう事もなく、女性らしいシルエットを表しつつ、長いスリットが格闘のイメージを司るコスチュームを身に纏っている。でもやたら少女趣味な色合いが……これはこれで留音の言動を上手いこと隠すのに機能しているかもしれない。


「あ、えっと、この変身についてのコメントは差し控えさせて頂くっきゅ。でも強いていうなら、インパクトはすごいっきゅ。とにかく!これで君たち三人は本物の魔法少女になったっきゅ!さぁ!ダークエレメントを浄化して、あの友達を救うんだっきゅ!」


「小癪な貧乏人たちよー!我が社の社畜になるのです!!」


 西香の放つダークパワーは三人が力を合わせて弾き飛ばす。戦える事を確信した留音が号令を出した。


「よぉーっし!みんなっ☆頑張っちゃうよぉvvv」「あ、うん!」「あ、はい!」


 こうしてついに、ダークロード軍との戦いの火蓋が切って落とされるのだ!!



 次回予告

「わたしたち、本当に魔法少女になっちゃいましたね!」

「まさか本当に変身できるなんて、一体どういう理論なのかしら」

「そんなことは気しないんだどっ♪今はとにかくぅ、西香ちゃんを助けるにょだっ!」

「あ、えっと。でもちょっと待ってください!あのかわいい男の子は誰ですかっ?」

「あの額の星の模様、どこかで見た事あるような気がするわ」

「きゅきゅー!次回『謎の男の子と新しい魔法少女!』」

「来週も、マジックハートにぃ☆キューティ♡ショット♪」


 可愛くなれてよかったね。



 ーミニシリーズ IF編 可愛さのツボ スピードタイプー


「可愛いってどういう事だと思います?」


 真凛が衣玖に尋ねた。


「わかんないからググってみるわね」


 あっさりネット検索にかける衣玖。


「わかったわ。主に女性に対して使う言葉。愛情を持って大切に扱いたい……あの子なんてその通りね。小さく愛らしい……ふむ、じゃあ私は可愛いの範疇に入るかもしれないわね。殊勝なところがある……という事は家事全般に取り組む真凛も可愛いかもしれないわ。それと……いたわしい、ふびん……なるほど、西香……」


「あ、という事はみんな可愛いんですねっ」


「ルー以外は可愛いっぽいわね。ところで今から魔法少女アマドカ☆ドアカみるけど、一緒に見る?」


「じゃあお菓子持ってきますっ」


 解決!

これも古い作品の一つです。古いのは少し気合が入っていますね、から回ってますが。


でも本当に可愛いって何なんでしょう。絵面以外で可愛いを表現出来る人って本当にすごいです。自分は女の子書くとこんなんになっちゃうので。


ここまで読んでいただいてありがとうございました。

ポイントや評価、感想などがいただけるととても励みになります。


また、シリーズにはバトルものや推理モノも用意されていますので、よろしければ是非どうぞ。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  カワウソがParty Night to omen Death。 [気になる点]  完全に出オチ。カワウソが必死にヒップホップなダンスを踊っている想像がハイライト。 [一言]  ツボに入っ…
[一言] 本当、面白い。このシリーズのファンです。
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