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6/28加筆修正。
貴族専用出口に向かったブランジェは振り返ることなく進んでいく。礼拝堂の後方の座席に据わっていた侍女のマリアは騒動の中心から遠ざかっていく主の後ろについた。
優雅に堂々と礼拝堂を後にするブランジェに注目する者は不思議と居らず、未だに礼拝堂の前方で群れている第二王子の方に意識を向ける者の方が多かった。マリアは腕に持っていたコートを歩くブランジェに着せ、スッと主の前に動き出て裏に続く貴族専用の扉を開けた。
馬車停めに至る扉から出る2人。自分達の主が出てくる時間ではないことに一瞬ざわめきが起こったが、出てきた令嬢と侍女の姿に馬車停めに待機していたラーゼフォン公爵家のフットマンが立ち上がった。
「お嬢様、」
「ヒョードル、馬車はよくってよ。転移で帰るわ。」
「あ、あの中で何が?」
礼拝堂の喧騒は馬車停めの方にも届いていたようだ。
ヒョードルは、侍女マリアに視線を送る。
マリアの表情は険しく、それ以上は聞くことが出来なかった。
「母さまに聞いて、私は帰って寝る。」
礼拝堂に行く朝はいつもより早く起こされる。
ブランジェはたちまち姿を消した。
「お嬢様!」
主が消えたことでマリアが口を開く。
「公爵家の方々を頼みます。」
マリアはヒョードルの前を過ぎ通りへと。主であるブランジェのように転移魔法が使える者など見たことがないのだろう、消えたブランジェにどよめきが起こったがマリアはそれらを無視した。第一日曜日の礼拝堂は上流階級関係者で満杯になるが、広場には王族の登場を歓迎する民で溢れていた。
毎週日曜は、王族の誰かが礼拝する日だが、偶数月の第一日曜日でもある本日は国王、皇后両陛下が揃って来られる唯一の日。デイビス王子は敢えてこの日を選んだのだろうとマリアは考え心の中でデイビスを殴っていた。
『国王陛下や旦那様が到着した、んー、もう一波乱ありそう。』
心の中でそんなことを思いながらも人混みをマリアは一迅の風の早さで駆け抜けていった。
睡眠を何よりも愛するブランジェは第一日曜日が嫌いだ。礼拝堂に行くために朝早く起こされて準備をさせられるからだ。
信仰心が無いわけではないが、一週間で唯一休みを掲げてよいはずの日曜日だ。普段朝から何かと忙しい公爵令嬢としては大事な休日だった。
『第一じゃなきゃ、もっと寝ていられるのに。』
貴族令嬢として普段からどれだけ早かろうが、眠かろうが朝にぐずることはない。ちゃんとデビュタントを終えたレディでしょうとマナーに厳しい母から言われてからは、ちゃんと守っている。
淑女の鑑と言われる母からのマナー指導は容赦なかった。兄弟唯一の娘と言うことで熱が入っているのだが、マナー以外のことでは優しく、たおやかな母のギャップにブランジェは恐怖したほどだ。母の期待には添いたいが眠い。そう考えた彼女は、目を開けたまま眠ったり、寝ている間のことを記憶に納め数秒の遅れではあるが、返事すら返せたりする特技を身に付けた。
家族と親しい者にはバレバレだったが、母やマリアの助けもあり今のところボロはでていない。
(もしかして、その不気味さが王子にバレたのかしら。)
ちょこちょこ加筆。