じゅう
7/9零時、加筆訂正。長くなりました。
誤字が多くて申し訳ない。
一応の落ち着きを取り戻した公爵家。心労で倒れていたビエラにフィンネルから詳細を示した手紙が届けられた。
「あのくそ女。」
漏れ出た冷気に寝ていたブランジェが起きた。
「あらあら、大丈夫よ。」
慌ててあやす。
「面白いですわね。あの女に育てられた王子がどれだけの常識を身に付け育つのか。」
この時の迫力にラーゼフォン公爵家の男達は妻(母)には逆らわないと心に決めたのだった。
ファフナー国の王位継承権は生まれた順と法で決まっている。つまり、誰よりも先に出産した第二王妃の王子が王太子だ。
現国王ライオネスには3人の王妃がおり、その中で一番若く美しいとされているのが第三王妃だ。
正妃である第一王妃より5歳若く、国王とは8歳の年の差がある。誰よりも早く子を産むと考えていたスフィア王妃は、自分よりも早くエマ王妃が懐妊したことを知った時、誰よりも国王の寵愛を受けている、自分の元にしか通っていないとの自負が強かったためにショックを受けた。
悲しみよりも怒りのショックだった。
エマ妃の懐妊をスフィア妃に敢えて教える必要はないと国王は命じていたが、第一、第二王妃の宮が賑やかだと感じた第三王妃付きの年若い侍女が、めでたいことだと喜んで報告したために発覚した。
当時のスフィア妃は、身分が低いため他の妃とは役割が違う、愛でもって国王を支えている清楚な優しい王妃だと思われていたため国の慶事に喜んでもらえると侍女は思ったのだ。
アルビナ妃の命でスフィア妃の動向を探っていた侍女頭がその事実を知った時には遅かった。
若い侍女は、スフィア妃の叱責を受け宮の床に倒れていた。
倒れた侍女の前で怒りに震えているスフィア妃。彼女の手には火掻き棒が握られていた。
「な、何をなさっているのですか!」
「この、侍女が嘘を言うからよ!王が私以外の女を抱くわけないでしょ!ましてや、子供なんて出来るはずもない!嘘を付いた上に王妃である私を悲しませるなんて、許せないっ!罰するのは当然のことよ!」
激しい怒りに仕えていた侍女達がふるえながら後退りする。侍女頭は、倒れていた侍女を外へと運ばせアルビナ妃に知らせるように命じた。
「恐れ多くも、スフィア王妃様におかれましては、後宮に入られる際、誰一人として侍女も連れずに入られました。あの侍女もここに控えている侍女達も正妃アルビナ様の命により、あなた様の御世話をしているにすぎません。いわば、人員に関してあなた様が裁を下してよい者など、この後宮にはおりません!」
断言した侍女頭にスフィア妃の手が再び振り上げられたが、動けなかった。
「それ以上、私の可愛い侍女を傷付けるのは許さないよ。」
スフィア妃の宮に現れたのはアルビナ妃だった。
「あ、アルビナ様。」
火掻き棒が音を立てて落ちた。
魔力での拘束を解かれたスフィアはしゃがみ込み顔を覆って泣いた。
「だって、だって………あの子が嘘を……。」
「嘘ではない。」
スフィアは顔を上げた。
「王とは、そういう契約になっている。君の言う愛情ではないのだから、君が気にすることはない。」
凛々しくも美しい顔が目の前にあった。ここまで近い距離でアルビナ妃を見たことがなかったスフィアは頬を染める。
「け、契約?」
「そうだ。子は、国の宝。国王の子ともなれば、望まれるのは当然。我々は君と違って国王その人ではなく、国そのものと婚姻を交わしたのだ。国のために子を成さねばならない運命。国王とて次の世代に種を蒔き、実を結ばなければならぬ身。義務と言うことだ。安心したまえ、国王は二度とエマを抱くことはない。後、2年もすれば私の役目も終わる。そうなれば君は国王の身も心も独り占めだ。何を悲しみ、怒る必要がある。さぁ、泣き止んで。」
流れる水のように語りかけてきたアルビナ妃、言葉が切れたと同時にスフィアの力が抜けた。
床に倒れた彼女を抱き上げ寝台に運ぶとアルビナ妃は大きくため息を吐いた。
「本当に王妃と言うものが分かってないのだな。」
後方が騒がしくなり、勢いよく扉が開く。
「スフィア!」
国王だった。
「やってきたね、元凶。」
「何があった?」
床に広がる血溜まり。アルビナ妃の青いドレスの裾も血で汚れている。
「エマに子が出来たことを知って激怒したコレが、とち狂って、年若い侍女を半殺しにしただけだよ。」
あっさりと言ったアルビナの目には怒りが点っていた。
信じられないと言う顔をする国王。
「ライオネス、私が理想としているのは、愛憎蠢く後宮などではないんだよ。」
スフィア妃に駆け寄る国王に語りかけるアルビナ妃。
「分かっている。」
「では、ライオネス。私達の間には男女間の愛情はないが、エマの子を愛せるかい?」
「………」
答えない国王。アルビナ妃は苦笑を漏らす。
「君が国王たる使命に忠実であることを切に願うよ。それと、スフィア妃の侍女の選出は君に任せる。私が責任を持って預かっている娘を害されては堪らない。」
去って行くアルビナ妃。
国王の握りしめられた手は誰に向けられたものだろうか。
横目で見ながら正妃は足を進めた。




