冤罪の候
気がつくと僕は牢屋の中にいた。なんでこんなところにいるんだろう。僕は何をしてここへ来たんだ?
思い出した。全て思い出した。
僕は明日、試験当日だというのに全然勉強してなかったため、とりあへず机に向かった。すると父親と母親が部屋に駆け込んできた。何事だと思った。
父親は言った。
「おい。正直に吐け。なんで万引きなんかしたんだ。何がお前をそうさせた。」
僕の頭は真っ白になった。あれは僕じゃない。あいつが悪い。
僕は学校からの帰り道、腹が減ったため、耶律君と一緒にAEONに行くことにした。僕はじゃがりこLサイズを買った。耶律はシャケおにぎりを買った。そして出口から出ると出口にあった万引き防止のゲートが’‘ヴィーッ!’‘と鳴った。これが、もし未精算のものも通した場合、音がなることは前々から知っていた。それが今、起きた。誰か万引きでもしたのか。すると複数の体格のいい警備員が何事だ何事だ と言いながらこちらへ走ってきた。僕が、なんか急に鳴りました、と言おうとした瞬間誰かに腕を引っ張られた。
耶律だ。中学時代、陸上部に入っていた彼は僕の腕を掴んだままその近くにあった団地の庭へと転がり込んだ。警備員たちは追いかけて来る様子はなかった。
耶律が言った。
「俺はとんでもないことをしてしまった。バッグの中を見ろ。そしたら分かる。」
僕は言われた通りバッグを開けた。するとそこには入れたはずのない、10000円分のiTunesカードが4枚ほど入っていた。耶律は言った。
「そう、お前の(バッグの)中に入れといた。未精算だ。これでわかっただろう。俺は、ツムツムのガチャをたくさん引きたかった。でもその分のコインがなかった。だから課金しようと思った。でも金がなかった。万引きならいけるんじゃないかと思った。でも自分で盗むのが怖かったから、お前の少し開いてたバッグに滑り込ませた。これだったら自分は悪くない。お前が悪いことになる。そして店を出たらそのカードをそっと出して帰ろうと思った。でもその計画は狂った。あんなところにセンサーがあるなんて知らなかったんだ。もしお前が捕まって事情聴取された時にそれを否定した場合、やったのが俺だということがバレてしまう。だからとにかくお前をつれて逃げるしかなかった」
彼は言い終えたのち、涙を流し始めた。そして言った。
「ごめん。このことは俺が自首するわ。お前は平静を保って家に帰れ。親にこのことについて問われてもやってないと言え。そして。俺がやったと正直に言え。」
「分かった」
僕は何事もなかったかのように装い、家に帰り、自分の部屋に入り、机に向かった。2時間ほどの時間が経ったように思えた。すると急に父親と母親が部屋に駆け込んできた。何事だと思った。
父親は言った。
「おい。正直に吐け。なんで万引きなんかしたんだ。何がお前をそうさせた。」
僕は何も言わなかった。耶律が自首したんじゃなかったのか。なんで俺も怒られるんだ。これが連帯責任というやつか。嗚呼。
生憎、父親は弁護士で、母は元裁判長だ。嘘をつくことは絶対にできないと分かっている。母は言った。
「今日、耶律君と一緒に帰ったでしょ?」
「うん。」僕は答えた。
「その間にAEON入ったでしょ?」
「うん。」
「そこで何買った?」
「じゃがりこ。」
「他は?」
「は?」
「他に何買った?」
「何も買ってねーよ。」
「そうよね。盗んだんだもんね。」
「盗んだのは俺じゃねーよ。」
「じゃあだれが盗んだの?耶律君曰く、あんたが、モンストとかいうゲームに課金するためにiTunesカード盗んでたって言ってたわよ?」
「正直に言えって言ってんだ。正直に言ったらこれ以上怒らないから。」
父親が急に口を挟んできた。
僕は正直に言った。
「俺は、やってない。」
「分かった。明日警察に自首しような。俺がちゃんと言ってやるから」
なんでだよ。話が違うじゃないか。正直に話したじゃないか。
父親は言った。
「お前が本当のこと言わないから連れて行くんだ。覚悟しとけ」
そう言と父と母は僕の部屋から出て行った。
その時僕は何を考えていたのだろうか。覚えていない。牢屋の足元に血のようなものがどこからか滴り落ちたため、その源はどこだろうと痕跡を辿ると僕の腹からだった。そうだ。あのあと腹をシャープペンシルで刺して気を失ったんだ。そして牢屋に投げ込まれたんだ。耶律の目の前で。彼の顔は微かに笑っていた。そんなことを思い出しながらまた、気絶した。