第10話 出会った二人③
(どうしたらいいの?)
この世界に来てはじめての人間。
もしかしたら、何かを知っているかもしれない。
単純に眼前遠くにいるその人と話をしたかった。
だけど、今自分がいるのは空の上。
自分の今置かれている状況はあまりにもおかしい。
空の上に人がいることなんて誰も予想できないことだろうが、実際に今自分の身にそれが起きている。
話をしたいけど、話ができない距離に私たちはいる。
どうすればいいのかと悩む。
(下に人がいるんだから、そこに降りていくしか・・・。)
答えはすぐに見つかった。
いや、むしろそれをするしか話をすることは出来そうもない
但し、何度も繰り返すが、ここは空の上。
階段の下にいる人の元まで降りていくのとは訳が違う。
(これはもう・・・。落ちるしかないのよね・・・。)
眼下を見下ろすと、草原が広がってはいるもののこの高さから落ちて、無事でいられる保証はどこにもない。
最悪、死ぬことだって・・・。
こんな意味の分からない世界で死ぬのは嫌だ。
けれども、このチャンスを不意にしてずっと一人でいるのはもっと嫌だった
(決めた)
私は一度だけ深呼吸をすると、雲を蹴り大空へと飛び立った
飛び立とうと思ったからなのか、落ちようと思ったからなのか
新たな雲が足下に現れることはなく、空から落ちていく。
ヒュー
強い風の感覚。
その後、一気に内臓がせりあがるようなそんな感覚が自身を包み込みながら落ちていく。
スカイダイビングやバンジージャンプをする人はこんな感覚を味わっているのだろうか。
怖いという感覚はもちろんあったが、知れよりもこんな今まで味わった事のない感覚に嬉しさや楽しさに似たものを感じてしまう。
地面までどんどんと近づいていく。
それと共に落ちる速度も加速していく。
私のことを呼んでいた男性の姿がはっきりと見え、徐々にその顔までもが見え・・・。
ドスン
すごい音を立てて。私は地面に降り立った。
痛みを覚悟していたが、どこも痛くなくてなんだか拍子抜けだったがそれよりも目の前で驚いているこの人の事が今はものすごく気になってしまう。
「・・・大丈夫なのか??」
しばしの間、お互いにお互いの存在を認識するように見つめあっていたが、彼は気遣わし気に問いかけてきた。
(それもそっか。)
空から人が落ちてきたのだ。それもなぜか無傷で。
驚かない方が無理な話。
そして大丈夫なのかどうかを問いかけてくるのも、当然と言えば当然の反応だった。
普通、あの高さから落下したのであれば無事で済むわけがない。
「大丈夫よ。心配してくれてありがとう。」
私は心配そうにしている彼を安心させるため、普段はしないような笑顔を浮かべる。
「そうか。ならよかった。」
彼は安心したように笑いかけてくれた。