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02:人間やめました、御使いになりました、そんで殺されちゃった、オッサン

「ワタシは女神。これ、マジな話だから。おわかり?」


女の子は…いいや、女神はドヤ顔をして言った。


「君が女神だというのは分かった…いや、分かりました」


「あ~、そういう敬語は要らないから。ワタシは言うなれば、あんたを生まれ変わらせた母親。母親に敬語を使うような息子はいないっしょ?」


言いたいことはある。

でも、僕はあえて言葉を飲み込んだ。


今は訊きたいことがあったからだ。


「なら、普通にしゃべらせてもらう」


「ん、OK」


「僕は何者なんだ?」


「だから、御使みつかいだって言ってるじゃんよ」


「そういうことじゃなくて、僕は死ぬ前はどういう人間だったんだ? 家族は? 職業は? 何処に住んでたんだ? 名前すら思い出せないんだ」


う~ん、と女神は腕組みをして唸った。


「言っちゃうけどさ、ぶっちゃけ思い出す必要なくない? つーか、思い出してど~すんの?」


「どうする、て。家族がいるなら、会いたいじゃないか」


「ひゃひゃ、それってマジで言ってんの?」


チエ。スズカ。思い出しかけた名前。それが家族だという確信に近いものがあった。


なのに改めて女神に確認されると、僕は「そうだ」と言えなかった。

体が震えるほどの拒否感があった。


「女神のワタシがいいこと教えたげる。あんたはね、家族に殺されたようなものなの」


家族に殺された?


あなたはね、そんなだから。


聞き覚えのある声。なじるような口調。


微かに思い出したソレに、僕はヘナヘナとうずくまった。


「そーら、言わんこっちゃない。それにね、あんたは死んで5年が経ってるの。今更、顔を見せたところでゾンビ扱いされるのが落ちだから」


「5年…」


実感がなかった。なにせ、自分が死んだということすら感覚として無いのだ。


「こっちの世界の生き物に手を入れるのは初めてだったからさ、ちょこびっと手間がかかちゃったんだよねぇ」


ペロリと女神が舌をだす。


正直、外見だけをいえば凄まじく可愛らしい少女だ。

ロリコン属性が僕になくてよかった。


「けど、その甲斐あって、あんたは結構よくできたんだよね」


まるで道具を褒めるように言う。

息子だ何だと言ってはいるけれど、実際のところ僕は女神にとってのオモチャみたいなものなのだろう。


「まず、ありとあらゆる魔法を使えるよ」


「魔法? ゲームみたいな?」


「YES! 他にもマップ表示」


「マップ?」


繰り返した途端だった。目の前にウィンドウが開いた。そこには北海道が描かれていて、光点があった。


あの光点が僕の現在地なのだろう。なんとなく分かる。分かってしまう。


もっと詳細に見たい。


そう思えば、マップが拡大した。

ココは北海道の田舎も田舎、周囲を山に囲まれたほとんど人跡未踏の地だ。


近くの人里まで何十キロと離れている。


「他にもアイテム・ボックス」


「アイテム・ボックス」


呟けば、マップ画面が消えて、代わりにPCのフォルダのようなアイコンが浮き上がった。


タップする。


でも、中は空だった。


「プラスすることの、鑑定」


「鑑定」


見えるはずだ。確信をもってミカの言葉を繰り返す。


すると、アイテム・ボックスが消失して、ミカの頭の脇にステータス画面が開いた。



--------------------


ミカ 【職業:神】

種族:超生命体

性別:♀

年齢:おしえな~い


レベル: ∞

HP : ∞

MP : ∞


こうげき:∞

ぼうぎょ:∞


ちから  : ∞

すばやさ : ∞

きようさ : ∞

かしこさ : ∞

せいしん : ∞

こううん : ∞

かっこよさ: ∞


スキル:みちゃいやん♪


--------------------



あたいがイカレてる。というかウィンドウの背後にうっすらとミカのバストアップが浮かんでいるのが、如何にもゲームみたいだ。


「乙女の秘密を覗いたでしょ、エッチ♪」


女神が自分の体を両腕で抱えるようにしてクネクネ踊る。


「というか、ミカ?」


「そう、ワタシの名前。だから、君とか呼ばないでね?」


ハート♪ と女神…ミカが口にだして言う。


「わかった。それは、分かったんだが…ミカなんて名前の神がいた…か?」


「いないんじゃない? 知らないけど。とゆーか、ワタシはこっちの世界の存在じゃないし」


「こっちの世界?」


「そ。ワタシさ、結構な数の世界を管理してる、なかなか偉い超常の存在なわけ。あんた…コウヘイの考えるところだと神って敬われてるわ。んで、暇だから別次元の宇宙を観察してたら、なんと誰も管理してない世界があるじゃん。魔法がないくせして、ヒューマン以外の知的生命体とか脅威となる存在がなかったせいで、ものスンゴク文化がいびつに発展してるし。これもらっちゃお~、て唾つけに来たわけよ。んでね、来た時にちょうどコウヘイが死んだから、御使いに改造しちゃったわけ。あ、それとさっきのは隕石招来は魔法じゃなくて、奇跡の範疇だから。コウヘイじゃ使えないよ」


「ちょ、ちょっと待ってくれ」


情報が多すぎる。

僕は名前のことを訊いただけなのに、わんさと関係のないことが出てきた。


「まず、整理させてくれ。さっきの隕石を落としたのは神の奇跡。だから、僕には使えない」


「そーゆーこと。まぁでも、死ぬほど何万年も修行したら呼べるかもよ? なんといってもコウヘイは全属性魔法の使い手だからさ」


言いたいことはある。

でも、我慢する。我慢して、確認をした。


「で、コウヘイというのは。僕の名前なのか?」


「うん、そう」


「そうか。僕はコウヘイという名前だったのか」


「ん? 違うよ。コウヘイというのは、今、ワタシがフィーリングで付けただけ。ミカっていうのも同じ。ワタシは色んな名前で呼ばれてるけど、こっちの世界では『ミカ』にすることにしたんだ」


軽い、軽すぎる。

というか、フィーリング…。


「なら、僕の前の名前は?」


「知ってどーするの? 意味ないじゃん」


僕は押し黙った。


その通りだった。本能で分かる。僕はもう、コウヘイなのだと。名付けられた瞬間に、何かが深いところで定まったのが分かってしまった。


「だったら次だ。き…ミカは幾つもの世界を管理している神なんだな?」


「ん」


「でもこの世界を…地球を管理する存在がない、というのは本当か? だって、地球には神が存在するはずだ」


「はずだ、て言われてもさぁ。実際のところ、いなかったしぃ?」


「いやいや、キリストだとかブッダだとか、日本にだって八百万の神々がいるはずだ」


「うひゃひゃひゃは。それってコウヘイのジョーク? ジョークじゃなかったとしたら、お馬鹿さんなの? あんね、それってばコウヘイたち知的生命体がこねくりだした想像上のものでしょ? 存在するはずないじゃ~ん?」


わかった。と僕はうなずいた。


この世界に神はいない。

いいや。居なかったのだ、今までは。


ここのところはスンナリと納得できた。僕は無神論者だったのかも知れない。


「じゃあ、これで最後だ。御使いとかいうのになった僕は何をするんだ?」


ミカはこの世界に唾をつけに来たといった。要するに侵略者として支配するべく来たはずだ。

そういった場合、御使いの僕は、人類と敵対して戦わないといけないのかも知れない。


と思ったのだけど。


「適当にしてたらいいよ、別に。ま、基本は母親たる? ワタシの? 傍に居て欲しいけど? それだって別に強制はしないし」


うん? 聞いた限りでは破格な気がする。超絶ホワイトだ。


「人類と戦ったりはしないのか?」


「しないよ~、そんなのメンドクサイじゃん」


その言葉に、僕は心底からホッとした。


僕が先頭に立って人類と敵対する。そんなこと、考えただけで怖かった。


けど、少女の姿をした神の次の発言にゾッとした。


「そもそもさぁあ? 人間なんて滅ぼそうと思えばちょちょいだし、滅ぼさなくたって、今ここで人類とかいう魔力マナの欠片もなくてレジスト能力すら持ち合わせてない種をことごとく洗脳しちゃうのも余裕なの。でもさ、そんなことしても面白くないじゃん?」


恐ろしかった。


この神を名乗る存在は、面白い、面白くない、という判断で人類の命運を握っているのだ。


実際。僕はそうして生かされている。


「まぁさ~、ぶっちゃけちゃうと? ワタシは人類に神と認識されなくてもいいわけよ」


「そう…なのか?」


「そりゃ、そうよ。ワタシは他の世界でも神だなんて言われてるけど、それだって1000年2000年ほど生きてたら、連中が勝手に言いだしたことだし? 重要なのは、ワタシがココに存在するってことなンよ」


「存在すること」


「ワタシが在ることで、この何者にも染まってない世界をワタシの色に染めちゃうわけ。そんで染まった時に晴れて、この世界はワタシの物になるの」


そういうわけだから。とミカは続ける。


「前にも言ったけど、ワタシが人類とやらに手をだすことはないわ。むしろワタシはこの世界の文化に興味を引かれて来たんだもん、人類を滅ぼしちゃったら意味ないじゃん」


でもね。とミカは意味ありげに僕を見た。


「人類がワタシにちょっかいをかけてくるなら、その限りじゃないわ」


「それは、つまり…?」


「ムカついたら滅ぼしちゃうかも?」


テヘペロ、とミカは笑う。10歳の少女らしく無邪気に笑う。


声をなくした僕に、ミカは言った。


「はいはい、そんな顔しない。ワタシだってそんなの望んじゃないって言ったッしょ? だからこそ、ワタシの身代わりになるためのコウヘイがいるんだし」


将来。それほど遠くもない未来。ミカの居場所には大勢の人間が押し掛けることになるだろう。それは学者かもしれないし、マスコミかもしれないし、果ては警察、軍隊かもしれない。

そんな群衆に、ミカは躊躇なく力を振るうに違いない。


あの、メテオのように。


そうなれば大勢が死ぬ。


そうならない、させないために、僕がミカと人類との間の防波堤にならないといけない。


ミカは僕に勝手にしたらいいとは言った。けど、実際のところ、僕がミカから離れるのはどう考えてもマズイ。


そうして。こういう風に考えてしまうことを考慮して、ミカは僕を御使いに選んだ気がする。


「御使いの役割が分かったよ」


僕は白旗を上げるよな心持ちで言った。


ふふん、とミカが微笑んだ。まるで子供がテストで良い点をとったのを喜ぶ母親のように。


「コウヘイは優秀ね。これだったら、魔法の習得も早いかも知れないね?」


言って、ミカが手をピストルの形にして指先を僕に向けた。


遊びのつもり…か?

それにしては、背筋をゾワゾワと悪寒が駆け抜ける。


まるで本物の銃を突きつけられているかのような、恐ろしさがある。


姿こそ可愛らしい金髪の10歳児は……ニヤリと、邪悪に口元を引き上げた。


「異世界、逝ってきなさい」


バン!


とミカが声を発して。


どちゅん! と僕の胸がはじけた。


「え…?」


肋骨が見える。内臓と血潮がこぼれる。


僕はヨロヨロとよろめきながら後退して、受け身もとれずに後ろざまに倒れ込んだ。


喉から血があふれる。

息ができない、苦しい。


なんで、こんな…。


痛みと。苦しさと。疑問と。


僕はこうして絶命した。母親たる女神に殺された。

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