01:金髪10歳児が神とか名乗って、メテオした! そんでビビりまくるオッサン
「あれ~。っかし~なー、これで戻ってきてもいいはずなのに」
声が聞こえる。
チエか? でも、それにしては声が若すぎる。少女といっていいほどの声。
だったら、スズカだろうか? でも、こんな声だったか?
どうだったろう?
思い出そうとしていた僕は
「もしも~し! 起きてくださいな!」
という大声と共に頬をリズミカルに叩かれて思考を中断させられた。
パンパンパンパン、容赦なく叩かれる。
わ、わかった…。
パンパンパパパン
起きるから…。
パパパンパンパパン
「起きるッってんだろ!」
僕は怒声を張り上げて跳び起きた。
そうして、僕を強かにいたぶっていた相手を睨む。
女の子だった。10歳ぐらいの、金髪で青い目をした外人の子だ。
初めて見る子だ。
チエでもスズカでもない。
そこで僕は疑問に突き当たった。
あれ? チエとかスズカって、誰だ?
「チエ? スズカ?」
顔を思い浮かべようとするけど、うまくいかない。
それどころか、気分が悪くなる。
「ちびっと記憶が残ってるのかぁ。ま、こっちの世界の生き物を初めて御使いにしたんだし、不具合はしかたないッか」
吐き気の向こう側から聞こえる女の子の声が耳を素通りする。
なんだ? なにが起きた?
僕は動転していた。
僕は錯乱していた。
だから、如何にも訳を知っていそうな女の子に掴みかかってしまった。
「どういうことだ!?」
「あなたはワタシの御使いになったの」
女の子は事も無げに奇妙なことを口にした。
「ミツカイ?」
「そう、御使い。あなたは、女神たる」
このワタシの。と女の子は僕の手を意外な力でもって払いのけると、あるかなしかのまな板な胸を張った。
「僕に選ばれたのよ」
「君は何を言ってるんだ。大人をからかうんじゃない!」
僕はベッドを抜け出した。
そう。僕はベッドに寝ていたのだ。
改めて周囲を観る。
見渡す。
ココは信じられないことに草原の真ん中だった。ちょっとした丘にポツンと小さなベッドが置かれていて、僕と女の子はソコに居た。
余りにも異様だった。
尋常じゃなく、異常だった。
見渡す限り草原で、遠くの地平に連峰が望見できる。
空は青く、雲がゆったりと形を変えながら流れていた。
「なんだ、これは」
僕は愕然として、ベッドに尻餅をついた。
「もう一度、言うわ。あなたは、ワタシの、御使いになったの」
「いや…だって。僕は普通のサラリーマンで…それで……それで」
それで…何だ?
思い出せない。
僕はサラリーマン? 職種は? そもそも名前が思い出せない。
そうだ、名刺!
僕は大慌てで自分の服のポケットを探そうとして……着なれているスーツ姿じゃないことに気がついた。
上はボーダーの長袖Tシャツで、下は大工さんが履いているようなニッカポッカなのだ。しかも靴は、いかにも安っぽいゴム製のビーチサンダル。
なんだ、この格好は?
僕のスーツ……僕はスーツを着ていたか?
詳しく思い出そうとすると吐き気がする。頭痛がする。
「無理して思い出そうとすると、嘘じゃなくて頭が割れちゃうんだから♪」
苦しんでいる僕に、女の子は歌うような口調で言ってウィンクをかました。
「僕に…何をした?」
頭をおさえながら訊くと、女の子は僕を指さした。
「あなた、死んだ」
言って、女の子は自分自身を指さす。
「ワタシ、よみがえらせた」
言いようのない恐怖が僕を襲った。
この女の子の言葉は嘘じゃない。体の心の脳みその、芯の部分が訴えていた。この子は混じりっけ無しで本当のことを言っている。
「お前は、何なんだ?」
質の悪い冗談だと思いたい。
何処からかカメラが覗いていて、ドッキリの看板をレポーターが持って来てくれるのを期待していた。
「だから、ワタシは女神だっつーの」
「しょ、証拠はあるのか?」
我ながら子供みたいな返しだと思う。だが、それ以上に言葉が出なかった。
「証拠ねぇ」
自称女神の女の子は小首を傾げてから、ニッと笑った。
「ワタシさ、こっちの世界に来るにあたってテレビゲームのRPGとか言うのをしこたま勉強したわけよ。んでね、そのなかの魔法のひとつに興味を覚えたわけ。これ面白そうだな、て。それを見せたげる」
空を指さす。
「メテオ」
国民的RPGの魔法だった。宇宙から隕石を招来する超強力な攻撃呪文。
僕は固唾をのんで空を見守った。
何も起こらない。
起こるはずがない。
そう思った時だった。ホッとした時だった。
青い空に赤い点が見えた。それがドンドン大きくなる。近づいて来る。
そして、その赤い光点は「あ」と思うほどもなく遠く連なる山々の一角に激突した。
映画のような。アニメのような。
そんな大爆発が起きる。
少し遅れて、爆風が押し寄せてきた。
呆然として、僕は爆風をただ見る。
巻き込まれて焼け死ぬだろう。そんな未来は、でもこなかった。
ベッドを…いいや、女の子を中心として半径2メートルほどがドーム状になって全く爆風を受け付けなかったのだ。
やがて爆風がおさまると、草原はなくなって土が剥き出しになっていた。
隕石が落着した連峰は大きく崩れている。
「やり過ぎちゃったかなぁ?」
女神は「んー」といきむと
「時間よ戻れ!」
と叫んだ。
まるっきり中二病だ。
黒歴史という奴だろう。
けど、女の子に限っては中二病でも黒歴史でもなかった。
叫んだ途端に、録画した映像を早戻しするみたいに地面は草原へと変わり、崩れていた山も元通りになっていたのだから。
「ワタシは女神。これ、マジな話だから。おわかり?」
女の子は…いいや、女神はドヤ顔をして言った。