雪子・2
「わあ、ゆきっぺ。久しぶりじゃね。元気にしとった?」
「うん、元気。」〈今の、え〜っと、多田君かな?たぶん・・・違ったかなぁ?〉
「ゆきっぺ、来たね。よう来たね〜。」しずえが声を掛けてくれた。
「うん、来た。お久しぶり。元気そうで良かった。」しずえの顔を見て、
やっと少しホッとした。小学校から高校まで、ずっと一緒で、今日集まった
同級生の中では、一番気心が知れている。しずえとは、一昨年まで年賀状の
やり取りもしていた。
一昨年。高校二年の長男と、中学三年の長女を連れて、あの家を出た。
夫の仕事中に、こっそりと、逃げ出すように。
夫の追跡を恐れて、住所は誰にも教えなかった。事実、数日の間に、夫は私の
同級生の誰彼なしに電話をし、私の居所を捜し回った。お陰で、私の〈家出〉は
瞬く間に、みんなに知れ渡った。
夫の所を〈逃げ出した〉理由は、いっぱいあるけど、直接の理由は、私に対する
言葉の暴力と、長男への暴力。
夫は何でも自分の思い通りにならないと気が済まない性格だった。
気に入らないこと(ほとんどが、些細なこと)があると、気が狂った様に、私を
怒鳴りつけた。
元々、若いときから、短気なところがあったけど、当時は、あまり気にすることもなく、
2年付き合って、結婚して・・。
今思えば、「私、ほんとにバカだったなぁ。」と思うけど。
歳と共に、夫の短気さはひどくなり、その上、しつこさが加わった。訳もなく、
大声で怒鳴りつけられる。でも、私は、何一つ言い返さず、何でもとにかく謝って、
じっと、夫の怒りが収まるのを待った。それは、子供、特に長男を守るためだった。
私が少しでも口ごたえをしたら、夫の怒りの矛先は、決まって長男に向かった。
長男は、背丈はあるけど、細くて、腕力はあまりないから、大柄な父親に、力では、
かなわなかった。
ある日、いつものように、夫が、大した理由もなく、私をひどく怒鳴りつけた。
その後、夫が風呂に入った隙に、長男が私のところへ来た。「お母さん、大丈夫?」
と言った後、「あいつ、いつか殺してやる。」と言い足した。
《家を出よう》と決めたのは、その時。