聡・1
聡・1
昨夜はあまり眠れなかった。
同窓会の準備は、もう全部済んだし、二次会のカラオケで何を歌うかまで、
ちゃんと決めたし、それでも気持ちが高ぶって、眠れなかった。
明日は、〈ゆきっぺ〉が来るから。
小さな田舎町の中学だから、同窓会は3クラス合同。ほとんど毎年のように
開いていたけど、ゆきっぺが参加するのは、今回が初めてだった。
ゆきっぺは、中学を出てから、商業高校へ進学した。卒業後、広島の会社に就職し、
何年か後に、社内結婚した。その後は、旦那の転勤で、あちこち引っ越しをして、
今は大阪で暮らしている。
会うことはなかったけど、ゆきっぺの近況は、毎年の同窓会や、地元のうわさ話で、
知っていた。
〈ゆきっぺが離婚した。〉と聞いたのも、去年の同窓会だった。それから、
ずっと気になっていた。離婚後の行方は、同級生の誰に聞いても判らなかった。
ゆきっぺは、中学・高校と、一番仲のよかった、しずちゃんにすら、
住所を教えてなかった。
今回の同窓会の案内は、実家を継いだお兄さん夫婦に届けた。自分で、直接持って
行って、「今回は、ぜひ出席してほしい。」と伝言をお願いした。
その甲斐あって、お兄さんがゆきっぺに勧めてくれたみたいで、「参加します。」と、
ハガキが返ってきた時には、大袈裟でなく、飛び上がるほど驚いた。うれしくて、
思わず、バンザイ、と叫んだ。
ゆきっぺのことは、小学生の頃から好きだった。中学の時には、一度だけ、手紙を書いた。拙いラブレター。ゆきっぺは、丁寧に返事をくれた。
〈お友達でいましょう〉おかしな事に、それでもうれしかった。
ゆきっぺが一生懸命書いてくれた手紙は、僕にとっては、〈たからもの〉だった。