第一話 胡蝶の夢
二階堂盛義を名乗る前は行盛と名乗っていたそうです。
この物語は盛義の元服前から始まります。
胡蝶の夢、夢の中で蝶になり飛びお楽しみ中であったが途中で目が覚める。
自分は蝶になった夢を見ていたのか、それとも今の自分は蝶が見ている夢なのか、という説話である。
二階堂行盛は胡蝶の夢を体験していた。
平成を生きる男が産まれてから初老を迎えるまでの体験をしたのである。
行盛が目覚めて最初に思ったことは懐かしき天井と匂い。
そして次に思ったのが、これが現実なのか。それとも平成を生きる男の夢なのか、である。
だが次第に考えてもわからないことであると頭の片隅へと追いやった。
しかし、この体験は何か意味があるのかもしれない。
この体験を生かすも殺すも自分次第である。
が、困ったことに夢での体験による今の自分と夢の自分の価値観の違い。
漫画等で天使と悪魔が自分の進むべき道をアドバイスするかの如く二つの自我が対立する。
『ひゃっほー、過去転生キタこれ!』
と、夢側の自我の楽観的な声が頭に響く。
『黙らんか。 お前はそんなのだから……』
現実側の自我がぐちぐち文句を言い続ける。
苦悩は長く続かなかった。
途中で女中が来たため、別のことで慌しくなる。
跡取りである俺が落馬をし気を失い、医者は生きるか死ぬかの瀬戸際であり予断を許さない状況であると説明したそうだ。
女中からそれを聞いて今の騒ぎを納得した。
一つわかったことがある。
何故に俺は胡蝶の夢を見たのか、だ。
きっと、一度死んだと誤認され来世である平成へと輪廻した。
しかし、何かの因果で死んでいないことがわかり平成からここへと戻されたのだろう。
何故、初老のタイミングで戻ったのか。それに何故、死んだと誤認されたのか。
理由はわからない。神や仏がなんなのか、真理や世界の仕組みを全て化学的に証明されてはいない。
そんな状況で俺が一人で考えても答えにはつかないだろう。
いわゆるご都合主義ってことにして、この体験を活かした方がずっと考え続けるよりも合理的である。
だが、そこでまた問題が発生する。
それは自身のことだ。
平成の世で残されている歴史、そこで俺はどうなるのか……
蘆名に負ける。
蘆名の下で頑張り、息子が蘆名の跡取りになる。
俺の死後、嫁が甥に殺される。
二階堂滅亡。
ネットに載ってる情報はざっとこんな感じである。
なんでこんなマイナー武将知ってるかって?
ライトノベル投稿サイトから書籍化する昨今の流れに乗って、俺も歴史改変で書こうとしてた時期がございました。
それ以外にも歴史シミュレーションゲームが好きで、その中で登場する俺は某掲示板で顔芸グラフィックにエビフライを突っ込まれたことにより人気を博した為、マイナー武将だが二階堂家に興味を持ち少し調べていた。
ゲームついでで言うと、俺は伊達政宗と真田幸村は嫌だ。特に政宗。
イケメン、強い、人気が高いの三拍子揃っている。
何より許せないのが、沢山遊んだ中で政宗に俺の嫁を殺された回数が断トツ一位であること。
というか嫁が戦で死ぬのは政宗と戦した時だけなんだわ……
今のところはゲーム内で起きた私怨であるが、このまま何もしなければ政宗に嫁を殺される未来が待っていると思うと殺意は何倍にも膨れあがる。
歴史を改変するならまず、あの邪気眼野郎こと独眼流を誕生させない事を第一目標にしよう!
それを達成するには、父である伊達輝宗を害するか、母である義姫を害するか。
前者はかなり難しいが後者はやり方次第だろう。他の手として先に娶れば大丈夫だろう。
しかし、伊達輝宗が別の嫁との間に作った跡取りが政宗の様に育つ可能性もある。
伊達政宗の人格形成に教育係である片倉喜多の存在が大きいらしい。
片倉喜多も危険な存在であるだろう。
取り急ぎは義姫と片倉喜多をどうにかする策を考えておけば大丈夫だろう。
どのように歴史を変えようか、どこまで出来るだろうか。
俺が平成の知識でやれること、やれないことある。
中には知識だけでやれること、やれないこともある。
歴史改変の定番である水汲み水車は作れそうだが、水車発電は作れないだろう。
水車自体はこの時代に既にあるから、水車に壺を装着させて壺から零れた水を受け止める箇所を作ればいい。
しかし、発電となると話は変わってくる。
理科の実験の簡単な発電レベルでさえ難しいかもしれない。
必要な資源のある場所、素材の取り扱いや加工、出来たとしても管理やメンテナンスをどうすればいいのか。
俺の穴だらけの知識でどこまで再現できるかもわからない。
特に資源がある場所がわかっても、資源から素材に加工するのが難しいだろう。
例えば、越後に臭水がある。石油だ。
石油からプラスチック等ができるが、それを作る為の施設をどう作ればいい?
知識としては原油を温め、石油蒸気の温度毎に対応する物ができる。
言葉にすれば簡単だが、どうやって温度毎にわける。どうやって原油を温める。細かく言えばもっと問題はある。
素直に燃やして、薪代わりにするのが一番よさそうだ。
他にも歴史を変えられるものはないか。
とりあえず二階堂を知るきっかけになったエビフライをつくろう。
世界で最初にエビフライをつくり、食べた男になる。
そしてそれを歴史に残す。
先ほどの政宗と比べてしょぼい歴史改変に感じるかもしれんが、俺が俺と出会ったきっかけだから頑張りたい。
内陸での魚介類、鮮魚の取り扱い、流通の確保。
パン粉が必要だから、南蛮からパンの技術を小麦の栽培技術や輸入などの確保。
鶏卵なんかはこの時代から生きていない物として扱われ食べられ始められるがまだ風評被害があるから払拭する必要がある。ついでに食肉についても。
油のコスト削減の為、大量生産。
エビフライを広めるには少なくともこれは必要であろう。
一人で食べるくらいならばパンを作るのがネックになるが難しくはない。
しかし、民衆が食べさせて広く伝えないと歴史から抹消される可能性があるからな。滅亡と共に……
滅亡させない国にしないといけない。これも歴史を変える必要がある。
伊達に蘆名に田村に佐竹、二階堂を滅ぼせる家がこんなにも近くにいるとは正直しんどい。
特に蘆名と田村は早々に退場してもらわないと身が持たんわ。