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初めてのクエスト

 翌日、ホテルのロビーに集合した。


 「おはようございます、マスター。今日は何だか顔がスッキリしてますね」

 

 「お陰様でな」


 昨晩は高級なベットで寝たお陰か昨日の疲れがすっかりとれて清々しい気分だ。


 おまけに朝食付き、しかもどれも見るからに高そうな料理ばかりが並べられ朝からお腹いっぱいだ。


 こんなに充実して朝を迎え入れたことが俺の人生でいままであっただろうか。


 それだけに何故かこれが壮大なフラグのようで怖い。


 何事も起こらず無事クエストをクリア出来ればいいのだが。


 あ、やべ、これもフラグじゃね?


 「ねぇねぇ早く行こうよ。クエストはあたし達を待ってはくれないよっ!」


 フロントに鍵を渡し終えたティナが俺の手を握ってまるでおもちゃを目の前にした子供のようなウキウキ顔でそう言って来る。

 

 会って間もないのに手を握ってくるとか、こいつのスキンシップ力は底なしかよ。


 俺なんて生まれてこの方女の子の手を握ったことなんてないのでそれだけで手一杯なのにさぁ。


 そんなことを悟られては一応このパーティのリーダー的役割を担っている俺の威厳がないからな。


 ここは落ち着いて、堂々としておこう。


 「わ、わかりました。で、デュフフ、い、行きましょうか」


 あれ、これもう駄目かもしんね。




 そのまま俺とティナは冒険者ギルドまで手をつないで歩いていた。


 ティナは鼻歌まじりで楽しそうだが俺はそれどころではない。


 先程から緊張で変な汗とかすげーでてる、脇汗で水溜りのような染みが滲むくらいにやばい。


 つか、手汗とか気持ち悪がられてない? 大丈夫?


 うう……やべぇよ、やばいやばい。


 絶対顔とか変な顔になってるからな、元々変な顔だってのは置いておいて。


 その証拠にさっきからゴム娘が雨の日の後に道にへばりついている干からびたミミズ見たような顔でこっち見てくるし。


 「なぁ、ティナ。そろそろ手を離してくれないか?」


 「ふぇ?なんで?」


 「いや、なんでってそりゃあ、ほらもうすぐ街中に入るだろ? そしたら人がいっぱいだ。色々勘違いされるだろ?」


 俺がロリコン扱いされたら困るしな。


 「いいじゃん別に、あたし達仲間なんだしさぁ」


 「いや、仲間でももっと、こう、距離感ってのがあるしさ」


 「……もしかしてあたしと手つなぐの嫌だった?」


 大きな瞳に涙を溜めて俺の顔を覗いてくるティナ。


 「嫌な訳じゃねぇぞ?だけどね、ほら、さ?」


 くそ、こんな顔されたら断りずれぇ……。


 なんというか、ティナは常識というやつを知らないようだ。


 仲間になりたての奴にホテルなんか用意するし、こうして手なんかほいほい繋いじゃうし。


 貴族だからか、こいつがアホだからかは知らないが俺が気をつけないと変な奴に絡まれそうで怖いな。


 つか、俺達と会う前こいつはなにしてたんだろう。


 「なぁ、ティナ。俺達と会う前からもこうやって宿とか奢ってたのか?」


 「うん、そうだよ。人助けってやつ? ぼろぼろの服を着たおじさんとかにご飯奢ってあげたりしてたよ。どう? 偉いでしょ?」


 「……それは人助けとはいわねぇ。ただ集られてるだけだからな」


 全く、無知ってのも恐ろしいものだな。



 結局ティナの手を振り切ることは出来ず、冒険者ギルドにたどり着いた。


 道中、すれ違う人からの視線がすげぇ痛かった、俺の身体はクエストに行く前からボロボロだ。


 「マスター、どうしましたか? もう既にボロ雑巾のようですが」

 

 「うるせぇ。追い討ちをかけてくんな」


 ったく、このゴーレムはいちいち言葉がキツイんだよ。


 俺は罵倒される為に召喚したんじゃねぇっての。


 その旨を伝えるべくゴム娘を睨みつけようとしたが絶世の美少女を顔見できる程の度胸は持ち合わせてない。


 くそ、朝からなんでこんなに女に振り回されなきゃならないんだ。


 俺が女の子との経験がないからだろうか、いいや違うな、この二人が変わり者だからだ。

 

 考えてみると俺の周りにいた女子というのは変人ばかりだ。


 師匠を筆頭に一筋縄ではいかない連中ばかりだ。


 「ねぇねぇ。クエスト見に行こうよ」


 変わり者であるティナに手を引かれて、俺は今日も賑わう雑踏の中に紛れた。



 クエストを受けるにはクエストボードというクエスト内容が貼ってあるボードから選ばなければならない。


 そもそもクエストというのは依頼者が冒険者ギルドに依頼と報酬金を前もってギルドに渡しておき、クリア出来ればそれを貰うというスタンスだ。


 依頼は様々で例えば森のモンスター狩りや入手困難な食材などの調達、はたまた子供の子守などがある。


 力があり有名な冒険者パーティには国からの特別なクエストが依頼されることもあるというが俺達には縁がない話だ。


 まずは簡単なクエストからこなして寝床と食べ物を買えるだけのお金とこれからの旅の資金を集めなくてはならない。


 まぁウチにはティナがいるが、いつまでも頼る訳にはいかないしな。


 「ミスト、これなんてどう?」


 ティナが依頼書を片手に持ってきて俺に渡してくる。


 「何々?『脳筋グリズリーの討伐』?……却下だ」


 「えぇーっ!なんでっ?」


 「考えてみろ?脳筋グリズリーなんて字面からして危ない奴駄目だろ、俺達はまだクエストすら受けたことの無い素人なんだぞ?」


 「ちぇっけちんぼ」


 頬っぺたを膨らませて残念そうにするティナ。


 なんだか悪いことをしたような気になるが俺の判断は正しいだろう。


 脳筋グリズリー、その名の通り全身が筋肉で出来ているような鋼の肉体を持ち、初心者冒険者の難関ともいえるモンスターだ。


 しかも季節は春、冬眠から覚めたこいつらはお腹がすいている為気が立っている。


 普段でも手がつけられないのに更に凶暴さを増したグリズリーに勝てるとは思えないのだ。


 「それではマスター。これはどうでしょうか?」


 今度はゴム娘が持ってきた依頼書に目を通してみる。


 「『キノコ鳥の捕獲』……報酬は一羽十万メロス、か」


 「どうでしょうか?捕獲なら鈍くさいマスターでも出来るかと」


 「鈍くさいは余計だ。……うーん、これも却下だな」


 「なぜでしょうか、簡単そうでしかも高額ですのに」


 「いいか、簡単そうで高額だから駄目なんだよ」


 そう、これは罠だ。


 キノコ鳥というのは森に生息する鳥のことで、キノコを好んで食べるため、背中にそのキノコが寄生されている。

 

 鳥の味もキノコの味も良いので結構重宝されるモンスターだ。


 このモンスターは力もないし、飛べないため簡単に捕まえることが出来る。


 そんなモンスターに一羽十万メロスは高すぎるんじゃないか、何か紙面には記載されていない隠し事がありそうで怖いのだ。


 例えばその森に危険種が存在しているだとかその森自体が危ないとな。


 「とりあえずこれは却下だ」


 「……ではマスターはどのクエストがいいんでしょうか?」


 「うーん、俺はだな……」


 数ある依頼書から一通り目を通していく。


 その中から一つ、俺達にも出来そうな簡単なものを見つけた。


 「『無限ゼンマイの採取』うんっこれがいい」


 「採取クエストー?えーつまんない」


 「だまらっしゃい。これなら俺達にもできそうだろ?」


 モンスターとも戦わないですむし、なにより報酬が一本五千メロスってところも稼ぎとしては申し分ない。


 「ゴム娘、ティナ。俺はこれに決めたぞ。これが俺達の初めてのクエストだっ!」


 声高々に宣言するも二人の反応はイマイチだ。


 だが、俺はこれに決めた、内容がどうであれ初めて冒険者らしいことをするとなると胸が熱くなる。


 早速受付嬢に依頼書を渡し、受託してもらう。



 ここから踏み出せるのだ、冒険者としての始まりの一歩を。


 絶対成功させてみせるぞっ!

読んで頂きありがとうございました。

昨日はバレンタインデーでしたね、皆さんどうお過ごしだったでしょうか?

私はチョコは貰えませんでした。

なので是非皆さんからバレンタインデーということで評価やブックマーク等頂けたら嬉しいです笑

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