初めての仲間とふかふかのベット
「じゃあまず座って、それから話を聞くから」
「うんーっ!わかったよ」
そういって彼女はちょこんとゴム娘の隣に座った。
ティナと自らを名乗る少女、そのあどけなさの残る容姿から俺より少し年下だろうか。
彼女の性格を現しているかのような明るいオレンジ色の髪を後ろで団子状に二つにまとめ上げている。
目立つ燃え盛るような紅蓮の瞳、そして何より俺が目を引いたのはその格好だ。
彼女が被っている帽子は魔法使いの証である魔法帽子でしかも帽子に刻まれている紋章は魔法使いが募る魔法大都市マジョリーナのエリート学校の校章だ。
つまり彼女は俺の嫌いなエリートという奴で何らかの魔法のエキスパートということになる。
そんな奴が仲間になるなんて随分と心強いではないか。
しかし、それと同時に疑問が残るのだが。
「何で俺らとパーティを組もうと思ったの?俺ら見た目からしてそうだけどまだ駆け出し冒険者なんだ。しかも今日冒険者登録したばかりの素人中の素人だし」
普通こんなエリートがフリーで冒険者をやっているのだろうか、やっていたとしても恐らくどこかのパーティにスカウトでもされる筈だ。
なのに何故彼女は俺達のような駆け出しパーティに入ろうと思ったのか。
単なる冷やかしだとか嫌がらせなら今すぐ追い出すところだが彼女の会ってからの印象からそれはないだろう。
なんか裏表なさそうな性格そうだし、そこまで頭の回る娘だと思えないし。
「いやぁ、あたしも実は冒険者成り立てでさぁ、この街に来て仲間を探してる所で張り紙を見つけた訳」
ふむ、それなら納得がいかなくもない。
初心者同士の方が組みやすいのもあるしな。
それならこの娘をパーティに是非入ってもらいたいものだ。
エリートだし、俺の穴を十分埋めてくれる才能くらいあるだろうし、ウチのパーティにはゴム娘もいるからな。
「それじゃあ是非ともパーティに入って貰いたいな、えっと……」
「ティナだよ、ティナ・キャンベル。よろしくねっ!」
「そうか、俺はミスト。んでお前の隣に座っているのがゴム娘。俺が召喚したゴーレムだ」
「えっ?この娘ゴーレムだったのっ?すっごーいっ!」
まじまじとゴム娘を見つめるティナ、そのきらきらした視線を避けるようにゴム娘はそっぽを向いている。
「こんなに凄いゴーレムを出来るなんてミストはもしかして凄い人?」
「あ、ああ。まぁな。俺の師匠が大聖魔法使いだし……」
本当のことで俺は嘘を言っていない。
しかし、なんでろうこの胸が締め付けられる思いは、ティナの羨望の眼差しが痛い。
「それではマスター、仲間も集めることが出来ましたし、早速クエストをうけたいところですがもう遅いですね。どうしましょうか」
「そうだな、今日はもうやめようか」
「うん、そうだねぇ。……ところで皆はどこで泊まっているの?」
うっ、痛い所を突かれた。
俺達は宿に泊まれるだけのお金は持っていない。
今日は何処かで野宿だろうか。
「いやぁ……あはは、ティナは気にすんな。また明日な」
金無しだと悟られないようにそそくさとゴム娘をつれて立ち去ろうとする。
「ねぇ、もしかしてお金ないの?だったらあたしの泊まってる宿に来ない?」
へっ?
俺達はティナに連れられて街中を歩く。
そしてたどり着いたそこは首を上げて見上げる程の高さを持っている大きな建物だ。
「ここがあたしの泊まってる宿なんだ」
そういって当たり前のように入っていくティナ。
ここ宿っていうよりホテルなんだけど。
色々圧倒されながらもティナの後に続いた。
ホテルに入ると最初に目に飛び込んできたのは煌びやかな装飾がされたロビーだ。
しかも床は磨きぬかれた大理石、いかにも高級感が漂っている。
「マスターの実家が犬小屋のように思えてきますね」
隣でゴム娘がそんな感想をポツリ、すげぇ言われようだが何となく納得してしまう。
「はいこれ二人の鍵ね、別々にしちゃったけどいいよね」
フロントから鍵を貰ったティナが俺達に部屋の鍵を渡してくる。
「ティナ、お前の実家って……」
「ん? あたしの実家は貴族だよ。それがどうかした?」
成る程ね、納得。
つまりティナは魔法のエリートで貴族のボンボンという訳だ。
俺とは全くの非対称だな。
「そんじゃあここで一旦解散ということで。明日ロビー集合な」
「うんっ!わかったよ。それじゃあお休みーっ!」
部屋まで小走りで駈けて行くティナの小さな背中が見えなくなるまで俺達は見送った。
「マスター、やりましたね。まさかこんな娘が仲間になってくれるなんて」
「全くだな」
本当、俺は運が良いのか悪いのか分からないな。
まさか冒険初日で金の心配がなくなるなんて。
このままティナに養って貰いつつ冒険を……っていかんいかん思考が完全に女に寄生するヒモの考えになっている。
冒険の目的を思い出せ、ゴム娘の為、俺の為に冒険に出たんだろ。
そうだ、初心を忘れてはならない、ならないのだが……。
行き成りこうも順当に行くとなぁ……。
魔法使いのエリートであり貴族の娘が仲間になるとかどんだけ運がいいんだ。
俺の人生を振り返ってもこんなに良いことはなかった。
だからそれだけに反動が怖い。
人生ってのは上手くいくだけではない、必ずそれに見合った失敗だとか不幸だとかが訪れるものなのだ。
今日それだけ良い思いをしただけにこれから先起こる不幸が怖い。
そんな一物の不安を抱えながらも今日の疲れを癒し、明日の英気を養う為に俺はふかふかのベットで寝る今年にした。
明日は初めてクエストに行くのだ、ここで不幸が返って来ないことを祈って俺は瞼を閉じた。