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冒険初日から苦難

俺達は早速旅に出ることにした。


 かあちゃんにゴム娘と冒険に出る話を伝えると涙を流しながら喜んでくれた。


 俺が冒険者という職を就けたことに喜んでいるのか出て行くから喜んでいるのかは判らなかったが前者だと思いたい。


 そしてかあちゃんが作ってくれたおにぎりが塩っぽいのは涙の味だとかそんなのじゃないと信じたい。


 そんな俺達が来たのは生まれ育った町を出て南にあるデガールと言うこの近辺では大きな街だ。


 そこには冒険者ギルドという施設があり、クエストの受注やその他手続きが出来る場所となっている。


 ここで暫くは冒険の資金を貯めるようと思うのだ。


 と、いう訳で冒険者ギルドについた。


 中に入ってみると、重厚な鎧や武器を装備している人やいかにもゴロツキのような人々で雑多している。


 「うへぇ……人がいっぱいだぁ……」


 長らくの引き篭もり生活の弊害でどうにもこう人が沢山いるところが苦手だ、目眩がするし軽い吐き気もする。


 完全に病気じゃねーか。


 「マスター、顔色が悪いようですが」


 かあちゃんから貰った少しサイズの小さいシャツとズボンを来ているゴム娘が俺の顔を覗いて心配してくる。


 「だ、大丈夫だ……多分」


 気を引き締めて雑踏の隙間を縫うように移動し、ギルドの受付を目指す。


 たどり着いたその先に待っていたのは緑色の制服を身にまとっている一言で言えば清楚な女性だ。


 「いらっしゃいませ、ようこそ冒険者ギルドデガール支部へ。ご用件はなんでしょうか?」


 訓練された口調と見事な営業スマイルで受付嬢は出迎えてくれた。


 「えっと、新規冒険者登録したいんですけど……」


 「はい、わかりました。それでは新規冒険者登録お二人様でよろしかったですか?」


 お二人様と尋ねられて俺はゴム娘の方を振り向いた。


 ゴーレムは登録しなくてもいいよな。


 「あ、いえ。一人だけでいいです。……この娘はゴーレムなので」


 すると受付嬢は驚いた様子で目を見開いてから。

 

 「あら、失礼しました。お一人様ですね。……それにしても可愛らしいゴーレムさんですね。それに召喚の精度も素晴らしい、お客様は腕の立つ土魔法使いなのですね」


 「いやぁ、照れるなぁ」


 そんなにべた褒めされると嫌でも口角が緩んでしまうものだ、俺ってば凄いのかも。


 「それでは登録に必要な情報をこちらに記載してください」


 差し出された紙に名前や年齢などを書いていく。


 それを書き終え受付嬢に手渡すと彼女は奥の方へ姿を消し、数分した後手に何かを持って帰ってきた。


 「こちらが冒険者の証であるギルドカードになります。冒険者、ミスト・アルケージュさん。貴方の旅に幸あらんことを」


 星型に手を動かし神のご加護やら祈りさらを捧げられ、ギルドカードを手渡された。


 あれは確かアスタルト教の祈りの捧げ方だったような気もするがそんなことは今はどうでもいい、それよりもギルドカードだ。


 俺は手渡されたカードをまじまじと眺める、これで夢だった冒険者の一歩を踏み出すことが出来た訳だ。


 嬉しさからか気分が高揚してきた、身体の内面からじわじわと暖かくなるこの感じが心地よくて気持ちが良い。


 俺達はその辺の空いてある席に腰掛ける、この冒険者ギルドは酒場も同時に経営しているらしく、昼間から酒を呑んで声を張り上げる冒険者なんかもいる。


 そんな中、差し出された水をちびちび飲みながらギルドカードを眺めていた。


 何度眺めても飽きないぁ……俺も遂に冒険者かぁ……。


 「ふひひ」


 おっといかんいかん変な笑い声が出た。


 そんな俺に対して先程から有無を言わず、ただ俺を不思議そうに見つめているゴム娘。


 「なんだ?なにかあったか?」


 「いえ、ただマスターはこれからどうなさるおつもりかと。冒険者になったのはいいですけどそれ以上に私たちには問題があります」


 「ほう、なんだね、言って見たまえ」


 「お金がありません、なので食べ物も宿に泊まることも出来ません」


 「あっ……」


 先程の良い気分から一転、大事にしていたギルドカードがテーブルに落下した。


 俺は冒険をする上で大事な事を見落としていたようだ。


 お金がないと、装備おろか人間として生きる最低条件の衣食住さえままならないことに。


 「やべぇ、どうしよう……」


 一気に夢から覚めたような錯覚が俺を襲い、現実に叩き落とされる。


 冒険に出てから早速困った、しかもあのモンスターが倒せないだのあのクエストが難しいだのではなくもっとあたりまえのことに。


 思わず口からはため息が漏れる、何故か身体が重く感じた。


 「どうすっかなぁ……」


 冒険者がお金を稼ぐ方法、それは一つしかない。


 それはギルドでクエストを受注し、それを成功させることだ。


 逆にそれしか方法はない。


 しかし、クエストを行なうに当たって俺達には問題点がある。


 それは俺が三流だってこと。


 自慢じゃないが俺はそこらにいる女の子より魔法が使えないし運動神経だって悪い、運動神経が悪い人特有のおかしい走り方とかしちゃうくらいに悪い。


 そんな俺がいきなりクエストをクリアできるだろうか。


 ゴム娘の方は恐らく問題ない筈だ、というのもゴーレムは本来戦闘用に召喚されるものだし上手く召喚出来たんだ、きっと役に立つ。


 だけど俺がなぁ……。


 「ゴム娘、どうしよう」


 「どうしようと聞かれても……クエストを受けるしかないのでは?」


 「いや、そうなんだけどぁ……ほら、俺あれじゃん?三流じゃん?ねぇ?」


 「マスターの魔法の腕がその辺のゴブリン並なのは重々承知ですがやはりクエストを受けなければお金が貰えませんので」


 さらっと酷い事と正論を言われた。


 やっぱここは勇気を振り絞ってクエストを受けるしかないのか。


 だけどなぁ……。


 どうにか上手いことやれやしないかと思考を張り巡らす。


 何か上手い方法はないものか。



 「じゃあさ、仲間を集めるとか?」


 そう、仲間だ。


 冒険者なら他の人とパーティを組んでクエストをやるのが定石だろう。


 そうすれば俺という負担は少しでも減るわけだし。

 

 「仲間を募集しようっ!そうしようっ!」


 俺の考えにゴム娘はあまり乗り気ではないような表情を浮かべるが。


 「分かりました。マスターがそう仰るのなら。私たちのような駆け出し冒険者と仲間になりたい人がいれば良いのですが……」




 早速ギルドの受付嬢に頼んで仲間を募集する張り紙を貼ってもらい募ることにした。


 俺達はその間席で待機する。


 一時間が経過した、人はまだ来ない。


 二時間が経過した、日が(かたむ)いてきてギルド内もすっかり酒場と化し人で賑わう、まだ人は来ない。


 三時間が経過した、酒場が盛り上がりを見せる中、俺達は数時間前に出された水を飲む、人は一向に来ない。


 四時間が経過した、人は来ない、もう泣いていい?


 五時間が経過した、死にたい。



 「ああっ!全然こないじゃねぇかっ!」


 遂に苛立ちが爆発して机を思い切り叩く、ドンっという鈍い音は酒場の煩さの中に消え入り握りこぶしには鈍い痛みだけが残った。


 いてぇ、いてぇよちくしょう。


 「今日の所はもうあきらめて帰りましょうか? といっても帰る場所がないのですが」


 ゴム娘の一言が胸に刺さる、くぅ、寝床がねぇよおどうしよう……。


 机に突っ伏し軽く絶望している、朝の希望に満ちたあの感じはなんだったんだ。


 もう、家に帰ろうかな、また引き篭もりてぇよ……。


 もう心が何もしていないのに心が折れかけていたその時だった。


 「ねぇ、仲間募集の張り紙見たんだけどあんた達?」


 「あ、ああ。そうだけど。見てくれたってことはもしかして。」


 「そう、仲間に入れて欲しくてさー。あたしはティナだよっ!よろしくねっ!」


 そういって少女は可愛らしい八重歯をチラ見させてあどけない笑みで笑った。

次回から新キャラが登場します。

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