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そして俺達は冒険に出る

 「はぁっ!?俺が冒険者っ!?」


 この俺が冒険者?土魔法しか使えない、ましてや三流の俺が冒険者だってっ?


 「まぁまぁ人の話は最後まで聞くものだぞ。いいか君が冒険者になって星屑の砂を探せばいいじゃないか。これで町から引き篭もりが外に出るんだし一石二鳥だろ?」


 「いや、そうは言っても師匠、俺はろくに魔法だって使えないんだぜ?」


 そうだ、こんな俺には無理な事なのだ。


 確かに小さい頃から冒険者は憧れだった。


 まだ見ぬ新しい街にモンスター、仲間と供に冒険するなんてわくわくするからな。


 しかし大人になるにつれてそれが馬鹿な考えだとも気づいた。


 簡単な話だ、能力のない者が冒険に出たって待っているのは死だけだから。


 それに稼ぎだって不安定だし、今更冒険者なんか……。


 「いいか、何事もやってみなくちゃあ分からないんだぞ。君だって憧れだったんだろ? 夢を叶えるチャンスが来たと思ってだな」


 「だけど、俺は……」


 「それに君には立派なゴーレムがいるじゃないか。それでもなにか文句があるのか?」


 師匠に言われて俺はゴム娘の方を振り向く。


 確かにゴム娘は俺が召喚した中では最高傑作のゴーレムだ。


 戦闘能力は知らないが美少女だし、なによりゴーレムというのは元々戦闘に使われるもの。


 だがイマイチ踏ん切りがつかないのは圧倒的劣等感からだ。


 こんな俺に冒険者が務まるのかという不安がどうしても拭いきれない。


 「ゴム娘、どうしよう?」


 俺には決めきれない選択にゴム娘に助けを求める。


 すると彼女は普段と変わらずに表情を変えないで。


 「私はゴーレムですのでマスターの選択に従うだけです。今マスターがしたいことをお考え下さい」


 俺が今したいこと、当初の考えではゴム娘と快適生活だ、そうだった筈だ。


 しかし、なんだろうこの気持ちは、この胸の高鳴りは。


 こんな俺でもひょっとしたら冒険者になれる、小さい頃からの夢を叶えられるチャンスが巡ってきたのではないだろうか。


 それならば、だとしたら、俺は。


 「師匠、助言ありがとう。一晩考えてみるよ」


 「ああ、そうか。それがいいな」


 師匠はフッと息を吐きながら笑い、又コーヒーカップに口をつけた。



 師匠に別れを告げて俺達は家路へと足を運んだ。


 外はすっかり暗くなり、夜風が少し火照った俺の身体を冷やしてくれた。


 「それでマスター、どうなさるおつもりですか?初めにいっていた通り私をメイド扱いなさるのですか?」


 家に帰った後でゴム娘がそんな事を尋ねてくる。


 それに対して俺は。


 「いや、もうそれはいいんだ」


 「では、私は明日から何をすれば……」


 「ゴム娘、俺は決めたんだ。明日から旅にでるぞ」


 そう、俺は決めたのだ冒険者になることを。


 ゴム娘の命は限られている、しかし俺だってそうだ命ある物はいつかは尽きる。


 それならやりたいことに文字通り命を燃やすのも悪くは無いなと思った。


 だから、俺は旅に出ることを決めたのだ。


 生まれた頃から取り柄もない、魔法の腕も三流の俺だって頑張ろうと思ったのだ。


 「そうですか、分かりました」


 そう言ったゴム娘の表情は普段の無愛想な顔ではなく、女の子らしい可愛い笑みだった。


 「マスターの顔つきが変わりましたね。召喚した時はえっちで死んだ魚のようでしたが」


 「最後は余計だ。俺だって顔はわりかし良い方だっていう自負はあるぞ」


 「そうですね、アンデット界なら整っている方だと思いますが」


 「おいそれどういう意味だっ!?俺は人間だしちゃんと生きてるからなっ!?」


 「そうですか、ふふっ」


 このやりとりで何が可笑しかったのかゴム娘はあどけなく笑う。


 この表現の過剰かもしれないが天使の笑みに返す言葉がなくなった。


 「んじゃ、俺はもう寝るから。おやすみ」

 

 布団を被り、寝る体勢に入る。


 密封された布団の中で俺の高鳴る鼓動と膨らむ夢がどんどん大きくなる、それは宇宙を創造したビックバンが起こるかのようにどんどん膨張していくのだ。


 こんな状態では寝れるはずがない、窓を開けて少し頭を冷やそう。


 そう思い布団をどかしたところで。


 「……お前まだ突っ立ってたのか」


 ゴム娘が先程と変わらぬ行儀の良い姿勢で立っていた。


 「マスター、私は何処で寝ればよいのでしょうか?」


 寝床か、確かに用意していなかった。


 この部屋にある布団は俺が使っているし、ゴム娘用のはないな。


 それならばいっそうのこと……。


 「じゃ、じゃあ俺と一緒に寝るか?」


 完全にセクハラまがいの考えを提示する。


 それを受けたゴム娘は先程の可憐な笑顔は何処へやら顔を引きつられドン引きした目でこちらを見ている。


 おいおいそんな腐った生ゴミでも見るような顔はやめてくれ、傷つくぞ。


 「はぁ……マスターのご命令とあれば致し方ありませんね」


 心底嫌そうにため息を一つついてゴム娘は俺の布団の裾を掴んだ。


 「それでは失礼します」


 そういって布団に進入してくる、血の通ってない冷たい肌が俺とぶつかり、ひんやりすると同時に先程とは別な胸の高鳴りを感じる。


 今日はなんだか色々運が良いみたいだ。


 こうして美処女ゴーレムを召喚出来たし、添い寝までしてくれるとは。


 こればかりは今まで散々恨んで来た土属性が適正だった事に感謝しなくてはいけないな。


 しかし、改めてゴム娘の顔を見ると、綺麗だ。


 肌もすべすべで睫毛もすらりと伸びていて美しい、唇もゴーレムなので潤いもないはずがプルリとしていて触りたい欲求に駆られる。


 「どうしましたマスター、えっちな顔つきになっていますよ?」


「はっ!?なってねぇし、これがデフォルトだしっ!?そんな事はどうでもいいから早く寝るぞ、明日は早いんだからな。」


 「そうですか、ではマスター……」


 ゴム娘がそういうと目を閉じておもむろにこちらに唇を近づけてきた。


 「へっ?ゴム娘さん、これはっ?」


 「おやすみのキスですが何か問題でも?」


 ああ、はいはいおやすみのキスね、なるほどね。


 「って違うっ!冗談だろっ!?からかってるんだろっ!」


 「はい、そうですが」


 ちくしょう、童貞心を弄ばれた。


 「ふふっマスターの恥らった顔が見れたので私は本当に寝ますね、おやすみなさい」


 くるりと俺の反対方向を向いて寝に入った。


 くそ、無駄にドキドキしたじゃないか、こんなので寝れるわけがない。


 いっそのこと本当に襲っちまうか。


 耳まで聞こえる心臓の音を感じながら俺はゴム娘の顔を覗いてみる。


 彼女の寝顔は古代の人々が匠の技で彫った彫刻のように美しく、可愛らしかった。


 うぅ……こんなに可愛いと逆に手がだせねぇ……。


 「うがああああああああっ!!!」





 翌日、カーテンの隙間から朝日が差し込み、小鳥達が今日の幸運を祈って賛美歌を歌い綴る中、俺は固い床の上で寝転んでいた。


 「ふぁあ……お早う御座います。マスター……何故床で寝転んでいるのですか?」


 ゴム娘が可愛らしい欠伸を一つしながら俺に尋ねる。


 「ああ、ちょっとな……」


 俺はあの後一夜中葛藤を続けた結果、ゴム娘と隣で寝ることさえ駄目なのではないかと訳がわからない思考の末、こうして床でゴロゴロする羽目になったいた。


 全く、旅立ちの朝とは思えないなんて最悪な始まり方だろうか。


 しかし、それが俺らしくて、少し可笑しかった。


 俺は魔法使いの証兼毛布代わりにしていたローブを羽織った。


 「さぁてゴム娘。準備してくれ。俺達の冒険を始めよう」


 そう、ここから始まるのだ、後生に語られることはないがそれでも偉大なる俺達の旅が、冒険譚が。


 「わかりました、マスター」


 ゴム娘が俺に頭をペコリと下げる。


 

 始めよう、ミスト・アルケージュとゴーレムのゴム娘の旅をっ!

 

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