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ゴム娘と俺に必要な物

 召喚に成功し念願の美少女ゴーレムを手に入れた訳だが。


 「それでマスター。私はなにをしましょうか?」


 「なにって言われてもなぁ……」


 夢を叶えたのはいいが実際叶えてみると現実味が湧かないというかなにからやって貰おうか迷うな。


 家事全般をやらせてもいいのだが家にはもうかあちゃんがいるし。


 ううむ困った……師匠にアドバイスでも貰うかな。


 「おいゴム娘、ちょっと出掛けるぞ」


 「は、はぁ……」


 「ん? どうした? そんな微妙な顔して」


 「いや、出掛けるのは構いませんが私の格好が……その……」


 そういって肉づき、いや土付きか? まぁどちらでもよいがそのナイスバディな身体をくねらせてその場でモジモジし出すゴム娘。


 「どうした?もしかしてトイレ?」


 まずいなぁ、かあちゃんにまだゴム娘の事言ってないから鉢合わせたらどうしよう。


 「いえ違います。ゴーレムはトイレなんて行きません。……それに女の子にトイレとか言わないで下さい。マスターに常識はないんですか?やっぱりスケベなんですか?」


 土気色の顔をほのかに赤くして一気に捲くし立てられた。


 「ああ悪い悪いそんなつもりじゃあなかったんだ。……じゃあなんだよ。マスターに隠し事は無しだぞ」


 「あの……服を着させて貰えないでしょうか。サラシ一枚で町を歩くのは恥ずかしいので。それでもマスターのご命令ならばこの格好でもよろしいのですが」


 「ああ服ね、服かぁ……」


 はてどうしてものか。


 俺の服なんて数着しかないしサイズも合わないだろう、その、バスト的にね?


 かあちゃんのを着せるのもなんだかゴム娘に申し訳ない気がするし。


 困り事というのは尽きないな。


 つかゴーレムでも恥ずかしいのな。


 先程のトイレの件もそうだったようにどうやらゴーレムにも感情があるらしい。


 俺はゴーレムの召喚方法を知ってはいるもののゴーレム自体には詳しくはない寧ろ何も知らないまである。


 そんな中で感情があることを知れたのは大きな収穫だったかも知れない。


 感情があると知ったら余り酷い命令は出来ないのだがするつもりもなかったしな。


 「じゃあ俺のローブを貸すから羽織ってくれ。これなら大丈夫だろう」


 床に無造作に置いてある魔法使いの証であるローブを拾い上げてゴム娘に渡した。


 彼女は渋々だがそれを羽織る。


 「どうでしょうか?変な所はないでしょうか?」


 俺のローブは彼女には少し大きかったようで袖からちょこんと出る手やフードから見え隠れする顔が可愛らしい。


 世の中『彼シャツ』なるものが一時期流行(はや)ったがそれに近いようなものだろうか。


 「じゃあ早速出掛けるか」


 「はい、マスター」



 時刻は夕暮れ、昼間あれだけ我が物顔で日光を振りましていた太陽はすっかり暮れ落ちて柔らかく暖かい夕日が当たりに満ちている。


 俺達は町外れの森に再び足を赴き師匠の魔法で造られた土のドアを叩いた。


 「だから牛乳は郵便受けの下に……」


 「牛乳の宅配じゃねーよっ!つかこれ二回目っ!」


 「なんだまた君か、君も暇人だな。まぁ引きニートなら暇を持て余して当然だが」


 「ふん、今回は違うんだなぁ。師匠っ!この娘を見てくれっ!」


 「どうも。初めまして」


 俺の紹介と共にゴム娘が一歩前に出てぺこりと頭を下げた。


 「おやぁ?この可愛らしいお嬢さんは誰かな?もしかして誘拐してきたんじゃあ……」


 「だから違うってっ!ゴーレムだよっ!俺が召喚したゴーレムっ!」


 俺の言い返しに一瞬呆気に取られたのか目を丸くする師匠。


 そしてゴム娘をじっくり観察するようにジーっと眺めてから。


 「ふむ、どうやら本当にゴーレムのようだね。まぁ立ち話もなんだ、中に入って話そうか」



 家へ招かれた俺達は師匠が土魔法で即席に造った椅子に座らされた。


 「ふむ、ふむふむ。素晴らしい。よく出来たゴーレムじゃないか」


 師匠が座っているゴム娘の周りをちょこまかしながらあらゆる角度で見定めでもしているかのように眺めている。


 「ちょっと……鬱陶しいです」


 「おや、これは失敬、君が余りにも綺麗なものでつい、な」


 「はぁ……」


 「どうだ師匠、上手く召喚出来ただろう?」


 「ああ、これは傑作だな。とても君が召喚したとは思えない程だ」


 「……それ褒めてんのかよ」


 「これでも褒めているつもりだぞ? よくやったな。ミスト」


 師匠に褒められて胸の奥がじんわりと熱くなるのを覚えた。


 これまでの人生を振り返って決して人に褒められることがなかった俺にとってこの言葉は素直に嬉しかった。


 ましてや土魔法のエキスパートである師匠に褒められるなんて。


 なんだかこれだけで目頭が熱くなる。


 俺がこっそり感動していると師匠はコーヒーカップを口に運んでから。


 「で、君は何をしに訪ねてきたんだ?この美少女を自慢しに来たのではないのだろう?」


 「実は……」


 俺は師匠に包み隠さず全て話した。


 俺がゴーレムに全く持って無知なことやこれからどうすればいいのか等々。


 それを全て聞いた師匠は……。


 「はぁ……君って奴は直感的に生き過ぎているというか、後先考えない馬鹿というか……」


 肩をすくめて大きくため息を吐いた。


 その呆れた表情から放たれる視線はまるで道端を這う虫でも見ているようだ。


 くそ、さっきの感動を返せ。


 「いいかミスト君、まずゴーレムというのは永久的に動く人形ではないのだよ」


 「えっ?そうなんですか?」


 「そんなことも知らずに召喚したのか、君って奴はつくづく馬鹿だな。……世の中永久なんてものはないのさ。資源も命も限りがあるだろう。それと同じなんだよ。ゴーレムだっていつかは朽ちる。形態を保つには同じ素材を使えばいいのだがこの娘の場合レアアイテムを使用しているからな。維持には難しいだろう」


 「なっ!?じゃあなんで師匠はそんな難しいアイテムを俺によこしたんだよ」


 「それは君が成功すると思っていなかったからだよ。まさか本当に召喚出来るなんていやぁ関心だね、流石私の弟子といったところかな」


 俺は衝撃の事実に開いた口が塞がらなかった。


 師匠の話はつまり、ゴム娘とこれから一緒に暮らすには希少な星屑の砂がないと駄目ってことで三流魔法使いの俺には難易度が高すぎるミッションだ。


 「じゃあ師匠、他に維持できる方法はないのかよ」


 「ないね。こればかりは仕方のないことだ」


 そ、そんな折角召喚できたのに。


 これじゃあ俺が夢見ていたメイドご奉仕快適生活が水の泡になってしまう。


 「ゴム娘、どうしよう……」


 「元々ゴーレムは戦闘用で長生きできませんし、仕方がない事ですね。限られた命、しっかりご奉仕させていただきます」


 現実を受け止めているのかキリッとした態度ではっきりと答えるゴム娘。


 元々命は有限だ、ゴーレムなんて人間の寿命よりもっと少ない筈なのに何故こうも凛として答えられるのだろうか。


 「師匠、俺どうすれば……」


 最早藁にもすがる思いで師匠に泣きついてみた、こうなればプライド等どうでもいいのだ。


 「……一つだけ方法がある」


 「えぇっ!マジですかっ!教えてくださいっ!」


 「まぁそうがっつくな君の悪い癖だぞ。……いいか、この方法は全ての問題の解決法だが君にもリスクが掛かることだ。いいのか?」


 リスク、と言う言葉に多少違和感を覚えるがそれでも俺が召喚したゴム娘の為だ、身体を張っても致し方ないだろう。


 「師匠、教えてください。この問題を打開する方法を……」


 「本当に聴くのか?後悔するぞ?」


 「いや、構わない。教えてくれっ!」


 「ふむ、では教えてやろう。この問題を解決するたった一つの方法それは……」


 師匠が意味ありげに間を一つ空ける。


 辺りには緊張感が走り、俺もゴム娘も師匠の一言に息を飲んだ。


 そして。



 「ミスト君、君が冒険者になればいいんだよ」


 

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