初めましてマスター
俺は大急ぎで家へと帰り、早速ゴーレム召喚の儀式へと入った。
「さぁーて、まずは魔方陣を敷いてっと」
大きさ1平方メートルの正方形の布を絨毯に敷いた。
ゴーレムの召喚するに当たって必要なものが二つ。
まずは魔方陣、ゴーレム召喚専用の魔法陣を描く必要がある。
一流の土魔法使いならば地面に描いただけでささっと召喚できるらしいが俺は三流、ちゃんとした魔法具であるこの魔法布が必要である。
次に必要なものがゴーレムの身体となる砂や土。
勿論これも一流ならそこらへんの砂や土もしくは自分で生成した物で召喚できるが俺は無理だった。
しかし今回は違う、何故なら師匠から貰ったこの星屑の砂があるからなっ!
これさえあれば俺だって美少女ゴーレムが召喚可能な筈だ……多分。
早速魔法の布に砂を置いてセット完了。
後は召喚用の呪文を唱えるだけだ。
呪文というのは魔法を使う際に身体から消費される魔力を最小限に且つ最大限に発揮出来る為に唱えるものだがこれも一流魔法使いならばetc……。
とにかく魔法を使う上で大事な事なのだ。
「さーて、いよいよおっぱじめますか」
手を擦り合わせ魔法布の前に胡坐の姿勢をとる。
そして目を閉じて息を大きく吐きリラックス。
瞼の裏でイメージするのは魔力が身体全体をゆっくり流れている感じで、これが魔法を使う上で重要になってくる。
イメージすることでより簡単に魔法が出せるようになるのだ。
ゆっくりとイメージを膨らませ、気が十分に高まった今、呪文の詠唱に入った。
「土の精霊達よ。我が呼びかけに答えよ。汝その……」
「ちょっとミストっ!昼間から変な声だして何してるのっ!」
「げっ!かあちゃん……」
「なんだい部屋もこんなに散らかして訳のわからない物置いて……そんな事してる暇があるなら仕事の一つや二つ探してきたらどうだい」
「もう、うるさいなっ!こっちは今真剣なのっ!邪魔しないでよっ!」
「ふんっ!たくもうこの子は昔から口の多い子なんだから全くもう……」
ぶつぶつ文句を言いながらかあちゃんもとい母親は俺の部屋を後にした。
……ったくとんだ邪魔が入ったな。
口うるさいだと、かあちゃんの方がうるさいんだよいっつも。
しかしゴーレムを召喚すればこっちのものだ、今すぐにこんな家から出てやるからな。
召喚できたらまずこの町を出て俺の事など誰も知らない町へ引っ越す。
そこで土魔法を生かして自給自足の生活を送るのだ。
師匠やどこかの魔法学校の先生に言われたとおりになるのは癪だがまぁいいだろう。
そして美少女ゴーレムといちゃらぶ生活を楽しんで余生を過ごす。
ううむ、我ながら最高のプランじゃないか。
ゴーレムには色々な世話をさせよう、掃除や炊事だけではなく俺の相手とかな。
ほら俺だって男の子だしさ。
ああ、楽しみだ、なんて楽しみなんだろうか。
「ふひひ」
おっとまた気持ちが悪い声が漏れた。
さて、気を取り直して詠唱の再開だ。
喉の調子を整えて、再度集中、そして気が熟した所で詠唱へと移る。
「土の精霊達よ。我が呼びかけに答えよ。汝その魂を傀儡に宿して我の命令に従えよ……ゴーレム召喚っ!!!」
両手を広げて魔法布に向け魔力を注入する。
すると魔法布が青白い光を発し始めた。
それは段々と大きくなっていき、部屋全体に広がっていく。
「こいつはすげぇぞ……っ!」
今まで行なってきた召喚時よりもより一層激しい反応に期待が高鳴る。
そしてその激しい光に耐え切れなくなって瞳を閉じた。
これはもしかして本当に成功したかもしれねぇ……っ!
発光が終わったのを何となくだが感覚的に覚えた。
召喚が成功していれば今頃魔方陣の上には飛びきりの美少女が佇んでいるのだが。
「成功しててくれよぉ……」
大きな期待と若干の不安を持ちつつも、俺は恐る恐るゆっくりと瞼を開けた。
するとそこには……。
人間、美しすぎる光景に心を奪われると時が止まったような錯覚に陥ることがある。
冬の雪原や、匠の技で描かれた絵画を見たときなんかそうだ。
そんな錯覚を俺は今実感した。
眼前にいる少女はそれだけ美しかったのだ。
「…………っ」
少女が何か言いたげな表情をしてこちらを見つめている。
何か言わなければと思い声を出そうとするが緊張からか、はたまたまだ錯覚に陥っているのが喉が膠着してしまい金魚が酸素を求めて水槽の中で口をパクパクしているようになってしまう。
すると少女がその血の通っていない土気色をしながらも美しく整った唇を動かして。
「貴方が私を召喚したマスターですか?」
「あ、ああ。そうだけど……」
「初めましてマスター。私はミスト・アルケージュ様より召喚されたゴーレムです。以後よろしくお願いいたします」
そういってぺこりと頭を下げた。
なんて礼儀正しい娘なんだ……。
そして、なによりもだ。
可愛い、すげぇ可愛い。
流石ゴーレムといった具合の褐色の肌に漆黒の艶がある黒髪が肩にかかる位のショートヘアー。
しなやかに伸びた睫毛をしていて吸い込まれそうなルビー色の瞳。
完璧すぎる造詣な顔立ち。
そしてなんといってもボディラインだ。
サラシからはみ出そうなほどの二つの果実とショートパンツ越しからでも判る柔らかそうな桃がたわわと実っている。
最高だ、最&高。
「あの……先程からなにやらイヤラシイ視線を感じるのですが」
「あっいや、なんでもないんだ。うんなんでも……」
危ない危ない、女性というのは視線に敏感だと聞いたことがあるがゴーレムでも例外ではないらしい。
「先に言っておきますが私はゴーレムな為性感帯がありません。ですからマスターが想像しているようなイヤラシイもできません」
「ちょっ!急に何を言い出すんだよっ!俺は別に君に対してえっちなことをする為に召喚した訳じゃないんだぞっ!」
そりゃあほんのちょっぴりは考えたけども、だって仕方ないじゃん? 男の子なんだもん。
「すると他の考えがあると、聞かせていただくと参考になるのですが……」
「え、えーと……」
いざ言い出すとなると中々言い出しにくいことではある。
俺が切り出せないでいると彼女は大きな果実を支えるように腕を組みジーっとこちらの答えを待っている。
ぐっ!そんな綺麗な瞳で見つめられると引きこもりの弊害の圧倒的コミュニケーション不足が発揮するじゃないか。
しかし、言うんだ、そう俺はこの娘のマスター堂々としていればいい。
言うぞ、言ってやるっ!
「これから君はメイドとして俺に使えてもらうからな。掃除、炊事、家事全般の全てだっ!」
威厳が立つように腰に手を当てて偉そうにそう宣言してやった。
これを受けた彼女の様子はというと……。
「はっ?」
まるで鳩が豆鉄砲を喰らったような表情をしている。
そして大きくため息をついてから。
「ゴーレムというのは本来戦闘や護衛の為に召喚されるもの。そんな私にマスターはメイドをやらせようと」
「はい……」
「本気なのですか?」
「はい……」
俺の返答に頭を抱える彼女。
なんだかこちらが申し訳なってきた。
「まぁ召喚された身としてご命令とあればどんなことでも引き受けますが。」
「そ、そうだよな。そうだ俺がマスターなんだ。俺がなにを命令しようとも別にいいことなんだっ!」
「はい、契約上それは正しいことです」
「ははっそうだよな。……よぉーし。これからしっかり働いてもらうからなっ!よろしくっ!」
「承知いたしました。……ところでマスター。私はこれからなんと名乗ればよいのでしょうか?名前がないとこの先不便ですので」
名前ね、確かに必要だ。
名前を付けるというのはなにかとセンスが問われるからな、大事なことだ何か素敵な名前をつけなくては。
「えっと……ええっと、うーむむ」
しかし付けるとなると中々思いつかないものである。
ここは直感に任せるのも良いかもしれない。
「じゃ、じゃあ『ゴム娘』で。ほらゴーレムだからね?」
しまった……思いつきで変な名前を言ってしまった。
やはり直感と言うのは頼りにならないな。
またしても彼女からジィーッと見つめられる羽目になった。
すると彼女は大きなため息をついてから。
「わかりました。このゴム娘、マスターの為に尽くしましょう」
「へっ? いいのそんな変な名前で」
「変な名前って貴方が名づけたんでしょう」
「まぁそうなんだけどさぁ。……なにはともあれこれから宜しくなゴム娘っ!」
こうして念願だった美少女ゴーレムの召喚に成功することが出来た。
性格は少々キツめだがそこは目を瞑ろう。
これから俺に待っているのは夢の快適生活だっ!