決戦
同刻の夜、俺達パーティーと師匠は再びオルアレンの森にやって来た。
俺が師匠を連れてギルドまで帰り、皆に作戦を伝えてアリエス討伐に向かっている。
他の冒険者はいない、俺達だけで片をつけるためだ。
「マスター、本当に大丈夫なんでしょうか」
ゴム娘が珍しく、不安がって聞いてくる。
そりゃあ昼間、大多数で挑んで負けた相手に俺達五人で挑むのは無謀だと思っているのだろう。
しかし、もう冒険者達の士気は完全に底辺、そんなんで挑んでもアリエスにとっていい的が増えるだけだ。
それなら、俺達だけで戦ったほうがいい。
それに何故か今までとは違い、俺は不思議と勝機が見えていた。
どこからその自信が湧いて来るのかは分からないが勝ち目はあると確かに思っている俺がいる。
「大丈夫だ、俺を信じろ」
俺が考えた作戦はこうだ。
まず、ティナが魔法で先制攻撃、そして、マンシーと師匠で動きを封じ、ゴム娘がとどめをさす。
上手くいくかはやってみなくては分からない、が必ず成功させてみせる。
「ミスト君、どうやら相手も私達を歓迎しているらしい」
師匠がそういって指を指した。
指されなくても俺だって気づいている、アリエスがじっと俺達を見据えているのを。
「ふん、また性懲りもなく挑んでくるのか、人間よ」
威厳のある、重低音の声が夜の森に響く。
「ああ、やってやるよっ!十二の災厄さんよぉっ!……ティナ、準備はいいか?」
「う、うんっ!」
ティナは緊張しているのか、声を上ずらせながらも呪文の詠唱に入った。
「聖者を照らし、業人を燃やす、深淵より燃え盛りし炎よ、我が呼びかけに応え、下界を灰塵とかせっ!」
ティナの周りに赤い光が充満していく、それがどんどんと大きくなり、闇夜を照らす。
これがどれだけの大魔法かは一目瞭然だ。
「デ・エル・ジャーマっ!!!」
ティナの両手から発せられたのは紅蓮に燃える、炎。
それが螺旋を描き、まるで炎の大蛇のように太く、大きく、アリエスに向かって牙を突きたてた。
「ぐ、これは……っ!」
大海の炎がアリエスを包み、彼の神聖な白い体毛を燃やしていく。
アリエス自身が火柱となり、辺りを明るく照らした。
「よしっ!効いてるみたいだな、マンシー、師匠、次を頼むっ!」
「わかった……」
「可愛い弟子の為だ。やってやろうじゃないか」
マンシーと師匠はその場から一歩足を踏み出して、お互い詠唱に入る。
「……生の業を全うし、土深くで横たわっている屍よ。我の呼び声に応えよ」
「リザレクションっ!」
「うぅ……うがあああああああっ!!!!」
マンシーが詠唱を終えると周りの地面からアンデットがぼこぼこ湧き出てきて、アリエスへと向かう。
そしてアンデット達はアリエスの大木を思わせる四本の足にがっしりとしがみつく。
「この死人風情がっ!」
アリエスが身体が燃え盛る中、必死でアンデットを振り払うが、数が違う。
アンデット達は次々と湧き出てきて、アリエスの足に噛み付き、絡み付き、離さない。
よし、ここまでは予定通りだ。
「師匠っ!頼みましたよっ!」
「ああ、任せろ。……母なる大地よ、汝に永劫の繁栄がならんことを……」
「デ・エル・ウォールっ!」
師匠が詠唱の後、アリエスの周りの地面が一気に膨張し、その地面たちは彼の身体を覆い隠すように固まる。
「が、……あぁ……」
これでアリエスが自由に動かせるのは顔だけになった。
後は、ゴム娘が一撃をぶち込むだけだ。
「ゴム娘、後は頼んだぞ。これが終わったら皆で飯でも食おう」
「分かりました。……マスター」
「んっ?なんだ?」
「いえ、ただ今日のマスターはちょーっぴりだけ、立派でしたよ」
そう、言い残し、彼女はアリエスに向かって走り出す。
ゴム娘の一撃が俺達の冒険譚を左右している。
俺達の冒険を続ける為に、頼んだぞ、ゴム娘。
ゴム娘はアリエスの前で両足に力を込めて一気に上空へと跳んだ。
そして、拳を突き出して、そのままアリエスの頭へと突っ込む。
「……矮小でチンケな人間が……我に勝てると思うなっ!!!」
アリエスが大きな口を開けて、何かを発射する構えをとった。
彼の口には光が集まり段々と大きくなっている。
「ジェネレートサンドっ!」
俺は手に砂を溜めて、それをアリエスの目に目掛けて発射する。
「がっ!」
それが見事命中、一瞬だが気を逸らすことに成功した。
「いっけえええええっ!!!ゴム娘っ!!!!」
「承知しました。マスターっ!はぁああああああああっ!!!!」
ゴム娘の拳がアリエスの額にクリーンヒットし、アリエスが口の中で溜め込んでいた光が行き場をなくして暴発する。
辺りには眩い光が発せられ、俺は目を瞑った。
次回で完結します