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俺の本音

 これ以上戦っても負けるだけなのでギルドへ戻ってきた俺達。


 ギルド内には重ただしい空気が流れ、人は沢山いるが誰も口を開こうとはしなかった。


 アリエスは余りにも強大で強い、鼻息だけで冒険者達を屈服させてしまったのだ。


 俺達は何時もの席へ座り、そのまま黙り込んでいた。

 

 普段騒がしいティナでさえ俯いて喋らない始末だ。


 「……このまま俺達、あいつに殺されるのか……」


 冒険者の誰かがそんな事を口にする。


 それに返って来る言葉はなく、氷のように冷たい沈黙だけがギルド内に響く。


 はて、どうしたものか。


 正直勝てるビジョンが浮かばないし、ギルドの士気の低さから、このまま戦って勝負は目に見えている。


 何か打開策が必要だ、いい方法を考えなくては。


 例えば、国から騎士達の援軍を待つだとか。


 いや、今から援軍を支援したところで間に合わない。


 それなら、街中の人を総動員して……。


 駄目だ、素人が戦ったところで死人が増えるだけだ。


 ちくしょう、全然いい案が浮かばねぇ……。


 せめて、あれだ、アリエスに匹敵する人物でもいればなんとかなるのだが。


 しかし、そんなご都合主義な展開など物語の中の話でしかない、現実はそう甘くない。


 ギルド内でも屈指の実力を持っていたフードルでさえ、鼻息でダウンしているのだ。


 他に頼れる人がいれば……他力本願で情けないが仕方ない、俺がなんとか出来る相手ではないのだ。


 くそっこれも引き篭もりの弊害か、他人と接していないから頼れる人がいない。


 誰か……誰かいないのか。


 必死で頭を回転させ、宛てを探す。


 誰かいないのか、例えば大聖魔法使い並の実力を持っていて……。


 あん?大聖魔法使い……?


 俺はテーブルにドンと勢いよく手をついて立ち上がる。


 その音に俯いていたティナが反応しこちらに顔を向けてきた。


 「どうしたの?」


 「ああ、浮かんだんだ、取って置きの作戦がな。ゴム娘、俺についてきてくれ。ティナとマンシーはここで待機で」


 「マスター、ついていくのはいいですが何処へ……」


 「ちょっと故郷まで帰るぞ」


 「まさかこのまま逃げるおつもりですか?それはちょっと……」


 「馬鹿っ!ちげぇよっ!人にあってくるんだよ。この戦況を変えられるくらいの人にな」



 俺とゴム娘はギルドを後にして、地元へと帰ってきた。


 その足でそのまま町付近にある森へと向かう。


 この人ならきっと助けてくれるだろう。


 森が開けてきて、その中心にある一軒の家、そこに用事があるのだ。


 俺はドアの前まで行き、コンコンと二回のノックをする。


 頼む、居てくれよ……。


 「何かね、こんな遅くに来客とは……って誰かと思えばミスト君じゃあないか、どうした?冒険者を諦めてまた引きこもりに来たのかい?」


 「師匠、急用なんだ、力を貸して欲しい」


 俺は今までしたことがない位丁寧にお辞儀をする。


 師匠の反応は……。


 「ミスト君、私は言ったよな?もう君に手を貸さないと」


 「それどころじゃないんだっ!頼むっ!この通りっ!」


 「ふむ、普段無愛想な君がここまで頼み込むとは……中に入りたまえ、話だけでも聞こうじゃないか」


 俺は師匠に招かれ、家の中に入る。


 師匠が即席で椅子とテーブルを土魔法で造り、俺達をそこに座らせた。


 相変わらず、師匠の魔法は凄いな。


 「何を驚いているのかね?これくらい土魔法使いなら出来て当然だろ?」


 この嫌味がなかったらもっと尊敬出来るんだがな。


 「それで、今日はなんの用だい?」


 「実は、今大変なんだよっ!」


 俺は今までの経緯を師匠に話した。


 十二の災厄の一匹、アリエスが復活したこと、それを冒険者総動員で戦ったが歯が立たなかったこと、このままいけばこの地方が滅びること。


 それを全て聞いた師匠はコーヒーカップに口をつけて一息ついてから。


 「ふむ、それで。私に何を頼むつもりなんだ。まさか、一緒に戦ってくれだなんて頼もうとしていたのか?」


 「そのまさかだよ。頼む師匠力を貸してくれっ!」


 俺は座ったまま再び師匠に頭を下げた。


 これだけ師匠に頭を下げるのは始めてからも知れない。


 「嫌だ、と私が言ったらどうする?」


 「そ、それは……」


 師匠の一言に言葉が詰まる。


 こんな危機的状況に断る人などいるのか。


 いや、しかし、師匠ならありえるな、だって俺が生きてきた中でダントツの変人で、何を考えているのか分からないからな。


 「師匠今はふざけている場合じゃないんだっ!まじめに答えてくれ」


 「私は、これでも大まじめに答えているつもりだが。君はあの化け物相手に本気で勝とうとしているのか?はっきり言って無理だ。もうこの地方は滅び行く運命なのさ、あきらめて逃げるなりこのまま心中するなり好きなほうを選ぶといい」


 「だけど……っ!」


 「だけどもクソもないさ。仕方ないだろう」


 俺は悔しさから歯を食いしばる、ジワリと口の中に血の鉄くさい味が広がった。


 無謀なのは分かっているし、勝ち目がないのも分かっている。


 だけど、だがしかし。


 「……それでも戦わなくちゃいけねぇんだよっ!折角俺が冒険者になって、仲間が出来て、一緒にクエストや飯食う喜びが分かって、これからって時に、十二の災厄だかしらねぇ奴に俺達の冒険を終わらせてたまるかよっ!」


 そうだ、正直、街とか地方の存亡だとかはどうでもいいのだ。


 俺達の冒険を、こんなふざけた結末で終わらせたくない、ただそれだけだった。


 師匠は一瞬驚いた表情を浮かべるも、コーヒーを啜り、にやりと笑った。


 そして。


 「やっと本音で話してくれたね。かなり自己中で我儘だ。……だがそれがいい。気に入ったよ」


 「えっ?それじゃあ……」


 「ああ、力になろう。言っておくが君を助けるのはこれっきりだからな」


 「ありがとうっ!師匠っ!」


 俺は三度頭を下げ、師匠に握手を求める無視された。


 まぁ、それはいい。


 これで、準備は出来た、後は反撃するだけだ。


 見てろ、十二の災厄、なにも取り柄のない俺が、三流魔法使いの俺がお前を倒してやるからな。


 ここからが、反撃の幕上げだっ!

評価、感想などいただけると嬉しいですっ!

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