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三流扱いされたからの俺は。

それから数年後、今現在の俺はというと……。


 「ああ、くそ。世界が憎い。何もかもが憎い」


 俺は自分の部屋に引き篭もり、ニート生活を送っていた。


 妥当といえば妥当で当然の結果と言えば当然だろう。


 なにせ俺の適正は役立たずの土魔法なのだから、しかも才能無し。


 俺が適正無しと診断されてからも数週間は頑張って学校に通い、必死になって魔法の勉強をした。


 しかし周りがどんどん火を出せるようになったり水をだせるようになったりと魔法を使えるようになる間、俺が出来るようになったことといえば手に一握りの砂を蓄えられるようになっただけ。


 これでどうモンスターと戦えと、どうやって冒険をすればいいんだと。


 全く、天は二物を与えずと言うが俺には何も与えてくれなかったらしい。


 神様なんてクソ喰らえだ。


 「ああくそ、神様なんて死んじまえばいいんだ。ついでに太陽も死ね」


 明るく、神々しく、全ての生き物に平等な光を照らす太陽を睨みつけ町を歩く。


 引き篭もりといってもただ部屋に篭もって非生産的な日々を送っている訳ではない。


 俺にはある目的があるのだ。


 今日はその目的を達成する為にある場所へ向かっている。


 木造建築と石畳の町並みを抜けて広い草原にでる、そこから幾分あるけば森に入る。


 少し前まではこの森にも多数のモンスターが生息しており装備無しでは危険な地帯であったが今はある人物のせいでめっきり平和で穏やかな森になってしまった。


 木が生い茂り、少しの木漏れ日が差す森の中を歩く、すると開けた場所に出ることができ、そこにポツンと建っている土で造られた小さな家が目的地だ。


 ドアの前に立ち、ノックを二回した後に部屋へ入った。


 ドアを開けると微かなコーヒーの匂いが立ちこめ鼻腔に充満している。


 「おーい、師匠。邪魔するぜ」


 「なんだ、宅配か? 牛乳なら郵便受けの下に置いておいてくれ」


 「いや、牛乳屋さんじゃねーよ。俺だよ。ミストだよ」


 「なんだ誰かと思えば……甲斐性無しのミスト君じゃあないか」


 「甲斐性無しは余計だ」


 「ふふっ良く言うよ」


 部屋の置くから現れたのは濃い目の茶色いフードを被った女がコーヒーカップを片手に持ってやってきた。


 この人はエイブ・クロミクル、魔法がろくに使えない俺を最低限使えるように育ててくれた師匠であり土魔法使い唯一の大聖魔法使いでもある。


 ボサボサの長い赤茶色の髪に赤メガネと風貌からは黒魔法を使う魔女の様だがとにかく凄い人なのだ。


 この人が町に来てから僅か数ヶ月で森のモンスターは師匠の魔力を恐れてどこかへいなくなる程凄い。


 「で、今日はなんのようだ? また何時ものあれの相談か?」


 「ま、まぁそういうことになりますね」


 歯切れ悪くそう答えると師匠はワザとらしく大きなため息をついた。


 「もう辞めておいたほうがいいんじゃあないか。君がやろうとしていることに意味なんかないだろうし。ましてや魔法の才能なんてないんだから」


 「いや、そうなんですけどね。俺はどうしてもやりたいんですよ」


 「そうか。……熱意だけは一丁前だな」


 師匠はまた大げさなため息をついてコーヒーを啜った。


 俺がやりたいこと、今目的にしているのは地味で取り得のない土魔法使いしかできない唯一の魔法。


 そう、土人形(ゴーレム)の召喚だ。


 ゴーレムとは召喚者の言うとおりに行動する操り人形のようなもので土魔法使いの攻撃手段の一つ。


 これを使えるようになれば俺も冒険者の仲間入りが出来る訳だ。


 と、言っても俺がゴーレムを召喚して冒険者になろうとなんて考えてもいないが。


 ゴーレムは先程も言ったように召喚者の命令に従って行動する。


 つまり、その気になれば炊事、洗濯、掃除など家事全般もこなしてくれるのだ。


 これは是非とも一家に一台は欲しい品物だろう。


 俺がゴーレムを召喚する理由もそこにある。


 考えても見て欲しい、俺は土魔法使いでそれも魔法の才能がないド三流魔法使いだ。


 そんな奴が冒険に出たってどうせ弱小モンスターにぼこぼこにされて負けるに決まっている。


 そうでなくても俺なんか他の冒険者パーティーに加えて貰えるはずがない。


 ならばなんでもこなせるメイドゴーレムを召喚して今後の人生を楽に過ごすのが吉というものだ。


 ゴーレムの形はある程度召喚者の自由にメイキング出来る為とびきりの美少女ゴーレムを召喚するつもりだ。


 考えただけで胸が熱くなるじゃないか。


 「ふひひ」


 いかんいかん、また気持ちが悪い笑い声が漏れた。


 俺が加速していく妄想に期待を膨らませている中、師匠は俺を見つめながらコーヒーカップに口を付ける。


 そして飲み干したカップを師匠が自分の魔法で編み出した机に置いてから。


 「言っておくが私が君に魔法を教えたのは君が面白いぐらいに絶望した顔で川を眺めていたから土魔法に愛され、才能が有り余っている私が慈悲と面白半分に教えただけだからな、基礎は教えたのだからもう私は関係ないだろ」


 「いや、分かってるよ。……分かってなかったわっ!面白半分だったのかよっ!」


 「ああ、そうだが何か不満でもあるのか?」


 「不満は大有りだけど……それで俺も魔法が使えるようになったからなぁ」


 「使えるといっても学校では三ヶ月で使えるようになれるレベルのものだがな」


 「そ、そうなんすか……」

 

 俺が夢のゴーレム生活を送る上で一つの問題がある。


 それは俺が余りにも魔法の才能がない事だ。


 一応召喚までは出来るようになったがその精度が低く、泥が蠢くだけだったり、手足の生えた人参のようだったりと美少女には程遠いのだ。


 なので師匠からなにかアドバイスとか貰えればと来てみたのだが……。


 「もういっそうのこと魔法なんか辞めて普通の職に就いたほうがいいんじゃあないか。その方が両親だって喜ぶぞ」


 「ぐぬぬ……」


 そんなことは分かっている、何時までも親に迷惑をかける訳にもいかない。


 だがしかし、だけどもだ。


 「けど、俺だって諦めたくないんだっ!師匠に教わった魔法を無駄にはしたくないし、何より俺のために諦めたくないんだっ!」


 真剣な表情を作り、熱い視線で俺は師匠を見つめた。


 そう、諦めるわけにはいかないんだ。


 夢の美少女メイドゴーレムとの快適ニート生活、諦めるわけにはいかない。


 伝われこの思い、届けこの熱意っ!


 普段腐った魚の目のようだと定評がある両目をらんらんと輝かせて師匠に猛アピールをした。


 すると俺の思いが伝わったのか師匠はやれやれといった顔で肩を透かすとコーヒーカップを置いて部屋の奥へと向かっていく。


 そして帰ってきた時、手には麻でできた小袋を持っていた。


 「師匠、これは?」


 「……これは星屑の砂(スターダストサンド)といって大いなる砂漠(グランドデザート)の更に辺境の地でしか採取できない貴重な砂だ。これを使えば恐らく君のような三流土魔法使いでも立派なゴーレムが召喚出来るだろう」


 「さっすがお師匠っ!」


 すげーレアアイテムじゃあないかっ! 三流は余計だがこれなら俺でも召喚できそうだ。


 早速その砂を手に取ろうと手を伸ばすが。


 「おっと」


 師匠がサっと砂を持った手を逸らす。


 「ふげっ!」


 その所為で勢い余った俺は体勢を崩し床に叩きつけられた。


 「いいか、これはいわば最終手段だ。この砂で成功できなかったら本当に諦めるんだぞ」


 「……言われなくてもやってやらぁ」


 狙いを定めて今度こそ師匠から砂を取り上げて俺は玄関へ向かった。


 「師匠あんがとよっ!俺、絶対成功させてみせますっ!」


 「うむ、余りというかこれっぽちも期待はしていないが……まぁ精々頑張ることだな」


 俺はそのまま玄関を飛び出し大急ぎで家へと向かった。


 

 絶対成功させてみせるぞっ!


 そして夢だった快適生活だっ!

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