新たな仲間
「ほんと勘弁してくださいっ!お願いしますっ!」
遺跡内で見事にゲロを吐いたマンシーがゴム娘に担がれて懇願する。
俺達は遺跡を抜け出し、冒険者ギルドに戻ってくることが出来た。
ティナが放った炎魔法で燃えた場所は運よく燃え広がることはなく、大災害にはならずに済んでいた。
ギルド内で何時もの席に陣取り、マンシーの今後の処遇について考えているところだ。
「いや、でもお前が今回のクエストの主犯だし、黒魔法使いだしなぁ」
そう、彼女が原因でアンデットが遺跡や森で大量発生した事実は消えないし、なによりマンシーは国が禁止している黒魔法を使っている。
これは冒険者である俺にとって見過ごすわけにはいかないのだ。
「でも、他人に迷惑かけてないし、それに黒魔法っていっても国家転覆とか狙ってるようなヤバイ輩じゃないから……」
「……お前、俺達に散々迷惑かけたろ」
「ふ、ふへへ……それは……その、あ、あんた達が悪いんでしょうがっ!私を勝手にこんなクソみたいな外の世界にひきずりだそうとするからっ!」
「はい、言質とった。じゃあ受付嬢に引き渡すから」
「待ってってっ!この悪魔っ!甲斐性なしっ!」
はいはい、何とでも言えばいい、俺はその手の罵詈雑言は言われ慣れているからな。
とはいえ、本当にこいつどうしよう、このまま受付嬢に引き渡して警察に連行させるべきなのか。
でもこいつ、悪い奴じゃあなさそうなんだよなぁ……何と言うか雰囲気的にだが。
しかもどことなく誰かに似ていて、このまま引き渡すのも可哀想だし。
かといってこのまま放って置くのも何処か危なっかしいしな。
はて、どうしたものか。
「ねぇねぇミスト、あたしお腹空いちゃったー。ご飯にしよっ?」
空気の読めない呑気なティナがお腹を押さえながら俺に訴えかける。
そうだな、丁度夕食時だし、俺も言われみれば腹が減っていた気がする。
「んじゃ、飯にするか、マンシーの件は取りあえず食い終わってからで」
一旦マンシーの件は後にして、俺達は夕食を取る事にする。
今日のメニューは豚肉のステーキに野菜炒め、なんだが昼の火災を思い出す献立だが気にしない。
俺はステーキをナイフとフォークで食事のマナーなど知らないがそれっぽく切り出し、食べる。
豚の脂身が口の中でほどよくとろけて、それでいて肉の味はがつんと舌に伝わる、相変わらずギルドの飯は美味い。
ゴム娘が丁寧に行儀よく、料理を口にし、ティナが例の如く口いっぱいに頬張り、各々が食事を楽しむ中、マンシーは一人ぽつりと動かない。
「どうした?食わないのか?」
「こんな知らない人が作った料理なんてとても食べる気にはならない……」
口ではそう言いながらも目は料理に釘付けで涎が垂れている。
「無理すんなって、美味いぞ?なぁティナ?」
「うんっ!すっごく美味しいよっ!」
「おい頬っぺたにソースが付いてるぞ」
俺はナフキンでティナの頬に付いているソースの汚れを拭き取る。
ティナの頬に触れるとそのモチモチの感覚が心地よくて癖になりそうだ。
おっと、これ以上やるとまた変態だと思われるからこれくらいにしておこう。
そのやり取りを何だか羨ましそうな眼差しで眺めるマンシー。
「ん?どうした?何か可笑しかったか?あ、一応言っておくが俺はロリコンだとかそんなんじゃないからな」
「いや、どうして皆そう仲がいいのかと……冒険者なんて括りだけど、赤の他人だし……」
マンシーのそんな疑問に俺は少し驚いた。
そういえばそうだ、俺達は赤の他人、しかも数日一緒に居ただけでまだお互いの事なんか完全に知り合った訳ではないだろう。
だけど、確かに、言える事が一つある、それは。
「俺達は他人だけど、一緒にクエスト行ったりこうして同じ飯も食ってる。それだけでもう仲間だろ?」
「そうそう、皆といると楽しいよねぇ。それに同じ宿にも泊まってるし」
「おい、ティナ最後のは余計だ。変な誤解を生むだろうが」
俺のツッコミに対してたははと笑うティナ。
それに吊られて俺も自然と笑みが零れた。
先程から静かに食事をしていたゴム娘も同じだ。
マンシーは何処か納得のいかない顔をしていたが、目の前にある料理にちょこんと口をつけた。
食事もあらかた食べ終わり、話の本題を再びマンシーの処遇に移した。
が、イマイチいい案が浮かばず、難航している中、ティナが俺の服の裾を引っ張る。
「ねぇねぇ、マンシーちゃんも仲間に入れてあげようよ」
「はぁっ?」
仲間、か、その考えはなかったな。
マンシーは腕の立つ魔法使いではあるが、その魔法が国によって禁止されている黒魔法。
しかも本人が人間嫌いで極度のコミュ症持ちだ。
正直これ以上パーティに問題児を抱えたくないのだが。
「どうだ?マンシー?よかったら俺達の仲間にならないか?」
それでも俺は彼女を仲間にすることに決めた。
彼女をこのまま放って置く訳にもいかない。
何より、マンシーは俺に似ているのだ、冒険者になる前の俺に。
この優劣がある理不尽な世界を嫌い、その理不尽を当たり前のような顔で生活している人間を嫌い、自分の殻に閉じ篭もる。
本当の意味で世界を知らない昔の俺に。
でも世界はそんなちっぽけではなかった、冒険者になって初めてわかった。
優しい態度で接してくれる受付嬢に美味しい料理を作ってくれるここの料理人。
魔法が上手く扱えず、コンプレックスを持っているのにそれでも明るく、楽しく、元気なティナ。
何時もは毒づき、塩対応ながらも俺や仲間を守ってくれるゴム娘。
人間と言うのは誰かに支えられて、それで生きていることを俺は冒険者になって知ることが出来た。
だから、マンシーにも自分の殻を破って欲しい、そして、改めて世界はこんなにも美しいんだと思って欲しい。
なので俺は彼女を仲間に誘うことにした。
「でも……私なんて陰キャだし……冒険者なんて華のあること無理……」
「大丈夫ですよ、ほら、マスターだってモブ顔なのに冒険者やっているじゃないですか」
「誰がモブ顔だっ!……まぁそこはいいとして、あれだ。何事もやってみなくちゃ分からねぇしな。どうだ?」
師匠の言葉を借りて説得に入る。
すると、マンシーは青白い顔を少しだけ紅潮させて下を俯きながら。
「じゃ、じゃあ仲間になろうかな……豚箱行きなんて御免だし……」
「ようしっ!それじゃ改めて、よろしくなマンシーっ!」
こうして新たに一人、仲間が加わった。
これからの旅がまた一層騒がしくなりそうだが、それも旅の醍醐味だろう。
「そんじゃあマンシーが仲間になった記念に、今日は食うぞっ!」
俺の一声にティナも歓声を上げる、そこ声は雑多の中にすぐ紛れるが俺達の冒険記はまだ始まったばかりだ。
一方その頃、アリエスの遺跡では。
「……誰だ……我の神聖な寝床を汚す輩は……」
暗闇の中、その声だけが遺跡内に響き渡る。
暗闇になぎ倒されているのはアンデット達が再び死体となった残骸、残骸、残骸。
「必ず、見つけ出して、然るべき天誅を下してやろう……」
声の主は暗闇に息を潜める。
遺跡の中は再び黒く染まり、何色でもない闇がただ広がるだけだった。
今回のエンディングは少し不気味な雰囲気の終わり方でしたね、今後段々とこの意味が分かってきますよっ!お楽しみにっ!
そしてよければブックマーク、感想評価等つけて頂くと今後の創作意欲に繋がって来るのでよろしくお願いしますっ!