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魔女は暗がりで悲痛に叫ぶ

「ぅ゛う゛……」


 アンデット達が声にならない呻りを上げてそれが暗闇に反響する。


 辺りが暗いので数が分からないが声と気配から数十体はいるだろう。


 くそ、この女、やってくれたな。


 こんなことなら口を塞いどけばよかった。


 「私を外に出そうだなんてそうはいかない……さぁアンデットちゃん達っ!私を守ってっ!そしてこの人間達に報いをっ!」


 マンシーの一声でアンデット達のボルテージは上がり一斉に雄叫びをあげる。


 「お前らっ!走れっ!早くここから逃げるぞっ!」


 俺は二人に声をかけ、全速力で出口を目指す。


 「ふひひっさぁーて。逃げ切れるかなぁ?」


 ゴム娘に担がれたマンシーがそんな不気味は一言を呟いていたがそんなことは関係なしに俺達は走った。


 アンデットに追われ、走り続けること幾分、前方から薄っすらとだが日差しが差し込む。


 やっと見えた出口に心が少しだが安心感から和らいだ。


 幸い、アンデット達は足が遅い、先程までの呻き声は遠くから聞こえる程距離を稼いだようだ。


 「ここまできたらもう大丈夫だろう」


 俺は走る足を止めてその場で少し休憩をとる。


 普段走らない所為で膝がガクガクで足がプルプルだ、これも引き篭もり生活の弊害だろうか。


 冒険者になったんだからもう少し鍛えないとな、などと考えていると。


 「ふひっこれで逃げたつもりか?……ふひひっ……ふっげぷっ」


 ゴム娘が走りながら担いでいた所為か、完全に酔った様子のマンシー。


 黒いローブから青白い小さな手をひょっこりだして口を押さえながら。


 「うっ……うぅ……前をよぉーく見るといい、あんたらは絶対にここからは出られないからなっ!」


 「あんっ?」


 俺はマンシーが言った通り前方の出口を見てみる。


 するとそこに広がっていた景色というのは。


 「うがぁ………う゛ぅ゛……」


 「げっ!?アンデットがバリケードをっ!?」


 そう、アンデットが隊列を組み、組み体操の要領で自らをバリケード化し出口を塞いでいた。


 「ふっふっふ、ふへへ、アンデットちゃんは複雑な命令は出来ないがこのように守れだとか塞げだとか単純な動きなら可能なのだ……」


 「マスター、どうしましょう?」


 どうすると言われても出口はここだけだし、なんとかしてここを突破するしかない。


 モタモタやっていると後ろのアンデット達に追いつかれちまうし。


 しかし、このバリケード、結構なアンデットの数だ、ゴム娘一人ではなんとかならないだろう。


 真っ先にゴム娘になんとかしてもらう思考が情けないが仕方のないことだ、俺が行った所でアンデット達の遅めのランチになるだけだからな。


 なにかこいつらを一掃出来る策はないだろうか。


 「そうだっ!ティナっ!今こそお前の出番だっ!お前の魔法をぶちかましてやれっ!」


 ティナならこの状況を打破出来るかもしれない。


 何せ、魔法なら右に出る物はいない程の魔力の持ち主だ。


 「でもここで魔法使ったら駄目っだってさっきミストが」


 「あんっ?今は非常事態だ関係ねぇっ!」


 「でも、でも外にはいっぱいアンデットが……あ、ああ……」


 出口にいるアンデットを見ながらどんどん顔が青ざめていくティナ。


 「おい?ティナ?」


 駄目だ、完全に森での出来事がトラウマになってやがる。


 これじゃあ魔法は使えそうにない。


 「ちくしょう……どうすれば……」


 「マスター、どうしますか?」


 「うるさいなっ!今考えてるから少しだまってろ」


 焦りから少しゴム娘に対して強く言ってしまう。


 それを面白がってかマンシーはまた気味の悪い笑い声をあげて。


 「ふひひっ仲間同士でいがみ合う姿は滑稽だなぁ、そのまま皆アンデットちゃんの餌になるといい……」


 マンシーの笑い声、更にアンデット達の呻き声が遺跡に響き、俺の思考を遮る。


 くそ、何か、いい考えはないのか、考えろ、考えるんだ。


 このまま正攻法にいっても駄目だ、もっと別の思考をしなくては。


 腕を組み、暫く考えているとマンシーと目が合う、彼女は合った途端に逸らしてしまったが。


 ん?待てよ、そういえばこいつがアンデットを召喚したんだよな?


 じゃあ直接こいつに攻撃すればいいんじゃないか?


 そうと決まれば早速。


 「ゴム娘、ちょっとジャンプしてみろ」


 「マスター?急になにを?」


 「いいから、ジャンプしてみろって」


 「は、はぁ。分かりました」


 俺の意図が伝わっていないのかゴム娘は渋い顔をするが指示に従いその場で軽くジャンプをする。


 「ふひひっ何をやってももう無駄だ。大人しく……ってうぷっ!」


 ゴム娘がジャンプする度に気持ちが悪そうに口を押さえるマンシー。


 「あっ?何だって?良く聞こえねぇな」


 「だからなにをやっても無駄……うぷぷっ!気持ち悪っ!」


 ゴム娘がジャンプする度に青白い顔を更に青くするマンシー。


 ゴム娘も俺の考えを理解したのか一瞬悪い顔をして。


 「それでは次に少し揺れてみます」


 そう言って左右に揺れる。


 「ちょっやめっ吐くからっそれ以上は吐くからっ!」


 「ふふっふひひ、ふはははははっ!何とでも言えこの野郎っ!おらっ!ゲロ女になりたくなかったらアンデットをなんとかしろっ!」


 「なんて卑劣な……私はそんな手には屈したりしな」


 「横へ参ります」


 今度は横へと大きく揺れるゴム娘。


 これは流石のマンシーでも堪えたようで。


 「うわぁああっ!もうギブっ!許してっ!」


 「あぁん?聞こえねぇなっ?」


 「お願い止めてっ!許してっ!」


 「……じゃあアンデットを止めろ。そうしたら許してやる」


 「ひぃ……分かりました。止めますっ!止めますからっ!」


 マンシーが吐き気と戦いながら何かを呟くと出口を守っていたアンデット達は隊列を止めて、次々と土へ還っていく。


 「こ、これで満足だなっ!もう許してっ!」


 その目に涙を溜めて懇願してくるマンシー。


 そんなマンシーに対しての俺のアンサーは……。


 「いいや、駄目だね。ゴム娘、フィニッシュだ」


 「分かりました」


 「この悪魔ぁーーーーっ!!!!」


 遺跡にはマンシーの悲痛な叫びと吐瀉物の臭いが充満した。

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