俺はそんなに顔が死んでいるのだろうか
初めてのクエストをクリアしてから翌日、俺達は再び冒険者ギルドに来ていた。
昨日の寝床は勿論、普通の宿屋だ。
いつまでもティナの脛を齧って(齧る程の太さはないがこれは比喩表現だから問題はない)甘える訳にもいかないしな、自分の事は自分でやらないと駄目な人間になるから。
あ、もう既に駄目人間だってことは置いといて、だ。
ティナはホテル以外の宿は初めてだったのかすごーいっ!とか小さくてかわいいーっ!とか一人で興奮していた。
全く、これだからボンボンの子は、もっと社会って物を学んだ方がいいぞ。
あ、引き篭もってろくに社会を知らないとかは置いといて、だ。
冒険者ギルドは今日も今日とて冒険者とは名ばかりの荒くれ者や、ガチガチに鎧で身を固めた人達で賑わっている。
俺達はそんな中を、暗い巣穴を這う鼠のように縫っていき、クエストボードへとたどり着いた。
「さぁーて、今日はどれにしようかな」
一枚一枚、商品の良し悪しを見定めるようにクエスト内容を確認していく。
先日、初クエストをクリアしたことで俺には少しだが自信がついたところだ。
今日は少し難しそうなクエストを選んでもいいかもしれない。
となると、討伐クエストだろうか。
とは言え、どれも金額的に微妙な物ばかりだし、昨日初心者最大の試練ともいえる難敵、脳筋グリズリーを倒したので歯ごたえがなさそうというか。
まぁ俺は別に何もしていないのだが。
「二人とも、何かいいクエストあったか?」
特にいいクエストを見つける事が出来なかったので別々に探していた二人に聞いてみることにした。
まずはティナの方だが……。
「うーん、人がいっぱいで見えないよぉ」
ティナはクエストボードに並ぶ人達の後方でぴょこぴょこジャンプしながら一生懸命覗こうとしていた。
これじゃあ聞いても意味無いな。
「ゴム娘、お前はどうだ?」
「マスター、こんなのはいかかでしょうか?」
ゴム娘が手にしていた依頼書を手にとってみる。
「『森にある遺跡の調査』か……」
この地域にはある有名な遺跡がある。
その名も『アリエスの遺跡』だ。
なんでもこの世界を破滅においやるほどの力を持つモンスター『十二の災厄』である一匹を封印する為に当時の魔法使い達が総動員で造ったのだとか。
そもそも十二の災厄というのはそのモンスターが一歩足を踏み出せば大地は裂け、咆哮一つで空が荒れるなど文字とおり天災を巻き起こすモンスターとして伝承やおとぎ話などで有名なモンスターだ。
俺はそんな伝承などは信じない部類なのでそこまで興味もないし、詳しい訳でもないのだが。
そもそもそんなヤバいモンスターを人がどうこう出来るとはにわかに信じがたいしな。
きっと伝承なんかも昔の暇人が適当に作った話だろう。
しかし、遺跡調査とは十二の災厄の話より面白そうだ。
こう、なんというか冒険者というより考古学者のような内容だが遺跡というワードに男の子心がくすぐられる。
取りあえず詳しい話でも聞いてみるか。
俺はゴム娘から依頼書を受け取り、そのまま受付嬢の方まで向かう。
「あの、すいません。このクエストの詳しい話を聞きたいのですが」
「はい、分かりました。少々お待ちください」
受付嬢は訓練された完璧な営業スマイルを俺に見せてくる。
……営業スマイルでもお姉さんににっこり笑われたら照れるな。
こんなくだらない事を考えているうちに受付嬢が資料を持って戻ってきた。
「ええっとですね。このアリエスの遺跡なんですが近頃何故かアンデットモンスターが出現するようになって立ち寄れず、研究出来ないとのことで今回のクリア条件はこのアンデットモンスターの討伐と原因の調査とのことです」
ほうほう、遺跡にアンデットモンスターか。
なんか、こうわくわくするワードですなぁ。
「アンデットモンスターですか……」
そういって何故か俺の方を見てくるゴム娘。
「おい、なんだ?どうせまたマスターのお仲間ですね、とか言うんだろ?」
「どうして分かったんですか?」
「……分かりたくても分かっちゃったよ」
なんだよ、俺そんな顔腐ってるか?
性根は腐っているとよくかあちゃんに言われていたがそこまで酷いか?
腐臭とかしてないよな?大丈夫だよな?
念の為脇とかチェックしとこ。
俺が脇に鼻を近づけてくんくんと匂いを確認しているとそれを不思議そうに眺めるゴム娘とティナ。
おっと、また変な事しちゃった。
「ねぇゴム娘ちゃん、ミストは何やってんの?」
「気にしないで下さい。あれも若気の至りでしょう。そしてそれもいつかはトラウマに……」
「お前の所為でたった今トラウマになったよ」
今日の枕は湿ってるんだろうなぁ。
俺はこの変な空気を終わらせる為にワザとらしく大きな咳払いを一つしてから。
「お前ら、今日はこのクエストを受けるつもりだがいいか?」
「はい、私は構いません」
「あたしもいいよっ!遺跡探検なんてわくわくするねっ!」
「よし、異論はないな?……あ、じゃあこれでお願いします」
俺は改めて受付嬢に依頼書を渡した。
「わかりました。では冒険者ミスト・アルケージュさんとそのご一行様に幸あれ」
受付嬢が最初に出会った時と同じ星型に手を動かし、神に祈りを捧げた。
「じゃあ行くぞっ!準備はいいか?」
「おおーっ!」
俺の掛け声と共にティナが拳を突き上げる。
こうして俺達の二回目のクエストが始まった。