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婚約シリーズ(仮)

そんな婚約者捨てちゃえば?

作者: あかね


 たとえば、貴族のお嬢様が平民をいじめたり。

 たとえば、婚約者を取ろうという娘に嫌がらせしたり。

 たとえば、意中の相手に近寄るものを排除したり。


 というのが悪役令嬢の立ち位置らしい。どこの少女漫画の悪役だと思う僕はちょっと古い人間なのかもしれない。原典のゲームとはなんなのだろう。

 まあ、それはさておき。


「君が彼女に嫌がらせをしたのだろう」


「そのようなことはございません」


「彼女もそう言っている。目撃者もいるのだ」


「わたくしを疑いますの? 婚約者たるわたくしを」


「信用出来る理由はない」


 なんというか、食堂という場所は食事をする場所であって、痴話喧嘩の場所ではないと思う。前も思ったけれどね?

 僕はカツサンドをはもった。余計なことを口出しする気はないのだ。

 しっとりとしたパンにしゃっきりとしたキャベツ、さくっとしたトンカツの一部はソースを吸ってしっとりしているけれどそれもまた良し。記録から再現してみたけれど、コレはいい。今回は出来なかったけど、次はマスタードマヨをパンに塗って貰おう。

 麦茶で喉を潤し、茶番の続きを横目で見る。

 いいよね? 僕、今はモブだし。


 あー、ご令嬢様泣きそう。かわいそうに。ちょっとばかり嫌味ではあったものの育ちの良いお嬢さんだった。婚約者へのラブだけは伝わってきてたんだけどな。ただし、本人には全く伝わってないどころか迷惑がられているという。不憫である。なんだか、かつての僕のようでちょっと落ち着かない。


 半眼でお相手を見やると、んまー、勝ち誇った顔をしてらっしゃる。イケメン滅べ。

 ……いやいや、そうじゃなくて。

 金髪碧眼で均整の取れた中肉中背という微妙に普通っぽい感じ。顔はイケメンの部類なんだと思うよ。学園の女生徒の人気を二分してるから。

 これが、王国の第二王子。不本意ながら親族なのだよな。姉が第一王子の婚約者で、来年結婚するのだけど、この影響で彼はご令嬢と婚約していた。


 僕の家というのは大陸に分布する商会で、各国に少なからず影響力をもっている。みんな何故に借金という名の弱みを持ちたがるのかと思うんだけど。

 それで、結構貢いで姉は第一王子の婚約者に。訳あって次代の王レベルじゃないといけなかったので国内の反発はしかたなく、変わりに第二王子が国内の貴族と婚約することで決着がついた。ということで、婚約解消はまずいんだけどわかってはいない。


 たったこれだけのことで国が揺らぐと思うなかれ。ご令嬢の親というのは、国内の最大派閥のトップで、国民にも人気で、三代前の国王の血筋だ。まだまだ王家の血は濃い。

 うっかり、内乱とか誘発しちゃうレベルには条件がそろっているのだ。

 それに将来的には臣籍降下した第二王子が婿入りという形になってたんだけど知らないのかな。


 まあ、僕が知っているのはある確かな情報提供者がいるからなんだけど。

 しかし、このままほっとくと確実に王宮は荒れる。第二王子の失態のせいで、愛人をつくれと第一王子に詰め寄られる事態が想像できた。

 ちなみに一般的に王妃以外は全て愛人である。そして、人妻だったりする。なんか未婚の娘さんじゃダメらしいよ。子供でも出来た場合の問題解決の都合だろうけど。

 王妃の子供以外も臣下なので越えられない壁が厚い。だけど、寵愛があれば優遇されると信じてるのでそれでもいいらしい。


 やっぱり、貴族の考えというのはよくわからない。


 薄らぼんやりと考えている間に茶番はクライマックスに!

 王子殿下はやはり考えを改めず、言っちゃいたいらしい。

 恋は盲目である。

 まあ、姉に横恋慕していたような男だから、助ける筋合いはないんだけど内乱とかなったら困るんだよね。


 はぁ。

 これもまた、神様の都合なのかもしれない。


「君などもう、こんや……」


「そんな、浮気な男、捨てちゃいなよ」


 シンと静まりかえった室内がちょっといたたまれない。

 僕はゆっくりと立ち上がるとその茶番の場所に立つ。


 ご令嬢、ローゼリア・ルース嬢は華やかな美貌の持ち主だ。銀糸のようにまっすぐな髪が縁取る顔は卵形、少しきつめの青い目に涙が盛り上がっている。小さな唇をきっと引き結んでいるところを見るとその虚勢に頭を撫でてあげたくなる。


 その彼女を囲むように野次馬が、敵対するように婚約者たる第二王子ウィード、その隣に可愛らしい少女が立っていた。コレが噂のチート娘。何とも言えない気持ちで見つめてしまう。学園始まって以来の才女、なんだけど、平民としても問題有りな感じで、はまる子ははまるみたいな。

 毛色の違うペットを愛でるように愛されてはいる。一部で。


 その一部が、そこそこ地位がある家の息子だったり、才能を認められた男性であったりするのが多少問題だ。

 でも、男も問題なんだが。それより問題なのは……。いや、これは後で何とか考えてみよう。


 そもそも王家からの婚約破棄というのはまずい。ご令嬢の父上、激怒、なフラグが大変ツライ。それなりに大事にされているお嬢様を傷つけなおかつ家をコケにされて怒らない方ではない。

 穏やかな糸目と甘く見てはいけない。


 だから、ご令嬢から捨てていただきたい。相手がこれだけの失態を重ねているのだから、王家もあっさり手を引くだろう。むしろ、次の結婚相手を探すお手伝いさえすると思う。

 なにせ、王子を振った女の子を貰ってくれる人は早々いない。だから、王子の方を臣下にさっさと落とすだろう。王子はあと下に3人いる。代わりのきく存在だ。

 ご令嬢というよりその父親は全く代わりとなる存在がいない。

 どちらが重いかなど簡単すぎる。

 ご令嬢の前に跪き、その白い手を取る。


「婚約者が定められているのに他の女の子に入れあげるような方はあなたにふさわしくありません。

 まあ、他の女の子に恋するぐらいは認めてもよいかも知れませんが。愛人にするのならば、ですけど」


「な、何を言っている」


「何って、貴族の常識でしょ? 政略結婚は政略結婚としてちゃんとしなきゃいけないし、恋しい人がいるなら愛人で。あなたの立場はそんな簡単に相手をすげ替えてもいいの?」


 振り返って言えば、さすがにちょっと王子は怯んだらしい。若干の盲目さはあるもののバカではない。良いか悪いかはさておいて。

 そして、王子の隣の少女はと言えば僕を睨んでいる。そうだねぇ。君の目的達成を邪魔したからね?


「ティアル様」


 そして、ご令嬢は困惑したように僕を呼んだ。

 彼女とは面識はある。ただ、親しくはない。婚約者のある女性に近づいて変な噂でも立ったら大変だ。なぜか、やたらと僕の取り巻きは多く、親しくなりそうな相手の排除に余念がない。……金の匂いって偉大。と遠い目をしそうになるけど。ほんと、一国の予算並みの資産持ちの家の跡取りなのでね。

 こんな僕の奥さんになってくれる人はいませんかーっ! と叫びたい気持ちになったことは数えきれず。

 リア充氏ね。


 ……いや、そういう話じゃないんだ。


「ルース様、余計なこととは思いましたが、女性に対してこのような仕打ちをされるのを見て見ぬ振りは出来ませんでした」


 余計なことしちゃったかな、怒られるかな、と言いたげな少し上目遣いがポイントである。こういう事を笑顔で言っちゃうのも胡散臭いからね。


「紳士としてあるまじき行為を行うような相手はあなたにふさわしくありません。お父上にご相談されてはいかがでしょう。きっと、良い知恵を授けてくださいます」


 と真面目な顔で言ってみる。たぶん、彼女の父親は知っていると思うけど。本人が泣き言を言うまではやせ我慢、みたいな。気の済むまでやらせておいたほうが後々引きずらないと思っているのだろう。

 最初に介入していなかったところを見れば、破談前提として考えていたのかも知れないし。


「……そうでしょうか」


 しょんぼりした彼女の顔が可愛い。ちょっとキュンとする。僕のツボはこーゆーとこなんだろうか。


「では、こちらに」


 周りが騒ぎ出す前にさっさと退場するに限る。

 彼女を連れて逃げ出した後に、黄色い悲鳴が響いたことも、よくわからない取り巻きが増えたことも僕はそのときは知らなかった。

 あと、この国には過去にバカがいて、そのバカが設定した法律に頭を悩ませることになることも。


 あ、そうそう。一応、チート娘さんには釘を刺しといたことを付け加えておく。

 いや、本当は彼女も被害者なので、優しく、己の立場というものを思い出して貰っただけだけど。


 この世界の神様というのは人を人とも思わぬひどいイキモノなのでね。彼女がチートになったのも、その後の行動も全ては神々の思いつきだったり。

 全くひどい話である。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」


 悲鳴のような声が聞こえた。僕はため息をついて振り返る。チート娘さんが睨んでいる。……僕はこれでも気が小さいので、女の人と喧嘩はしたくない。いや、姉と母と伯母がいるので女性の扱いというものをわきまえている。前世の記録を参照してもこの答えは変わらない。

 女の人とは口げんかしてはいけない。どうせ、勝っても負けてもこちらが悪いことになる。

 だから、その前に手を打つのが最適である。


「なによ、いきなり出てきてぶちこわして。私がようやく設定した通りに動かしたのに」


 僕は苦笑いするしかない。

 現在、彼女のチートな能力で僕と彼女以外は時間が停止している異常状態である。


「あなた取り替えっ子なのでしょう? このゲームのこと知ってるんでしょう?」


「知らないよ。君が思い出した記憶にしか存在しないものなんて。まあ、それは置いて置くにしても君の思う素敵ヒロインというのは人のモノを取るのが美徳なのかい?」


「私のために用意されたモノを好きにしても良いでしょう?」


 僕はため息をつく。本当にどうしようもないなぁ。ろくでもないイキモノめ。


「君が思い出した方が良いのは、今までの君だよ。ねぇ、リーナ、君はそんな事を本当に望んでいたの?」


 噂に寄れば、この一年以前の彼女は控えめで、ほどほどの学力の目立たない生徒だったという。それがある日を境に変わってしまった。取り替えっ子だったという噂もたつくらいめきめきと頭角を現していった。


 これが、本当に前世の記憶を思い出したって言うならいいんだ。

 ある神様が思いつきで、ねつ造した記憶をねじ込んだって言うんだから救われない。そう言う子結構いるらしい。

 大きな都市に結構いるとされていた取り替えっ子だけど実は本物はそんなにいなかった。

 知ったときの衝撃と来たらない。僕の記録もどうなのだと問いただしたら、一応、本物と言われた。……それを信用するかどうかはさておいてだ。


「本当の望みを思い出せたらいいね」


 と言霊を込めて伝える。ホント、ろくでなしな神に目をつけられてご愁傷様。元に戻ってもツライとは思うけど、このまま進む方がろくでもないから。


 僕は、時間の魔法を解除するとご令嬢の手を取り、食堂をたちさるのであった。


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