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プロローグ
ドキドキするのは、恋のせいじゃない。
ただ、裏切られただけのこと。
信じて裏切られて、また信じて裏切られたときの、肌の泡立つような髪が逆立つような
怒りとも悲しみとも落胆とも
どれに当てはまるのかわからないような感情。
涙が勝手に溢れ出て、止めたいのに止まらない。
ここが公共の場で、バスの中だなんてことは、頭でとっくにわかってる。
なのに我慢できないほど心が揺さぶられていた。
心臓の音がバクバクと飛び出さんばかりに身体を打ち、耳の奥からもそれは感じられる。
叫び出したい衝動を必死に抑えながら、持っていたハンカチで押し付けるように涙を拭った。
どうして?という思いが胸を圧迫して息苦しい。
もう何度目かの裏切りは、私の心を砕くのに充分な破壊力を持っていた。