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Uuijbhfkcjtjvcjk  作者: いくおみ
第2章
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ジョージ過去編④

ジョージ過去編④

強襲




ジョージは、暗い地下鉄駅のホームを歩いていた。

目の前にはジョーがいてジョージを先導し、二人を囲むように、ライフルを持ったジョーの部下8人が二人を護衛する。


ジメジメとした暗い地下鉄駅内は、さながらスラム街と言ったところだ。

周りを見渡すと、あちこちに闇市が軒を連ね、食事をする人々で溢れかえっていた。

部下達が銃をチラつかせるので、人の群れが二つに割れ、ジョージ達の道をつくる。


反政府勢力『青い星』は貧民街で最も支持を集める組織であり、その本部があるここ地下鉄駅内では絶対的な存在なのだ。



「ボス…何もあなたまで来られなくてもよろしいんじゃ…?」


護衛の一人がジョーと話し始めた。


「行く先は危険極まりないですよ?」


「自分の息子を、そこよりも更に危険な場所に放とうというんだ。親として見届ける義務がある。それに、ライフルを構えた屈強な男が8人もいれば安心だろう?」


ジョーは朗らかに言い、背後のジョージに尋ねた。


「覚悟はいいな、ジョージ?」


ジョージはゆっくりとうなずいた。

「それなら良し」とジョーが言う。



一行は地下鉄駅のホームから線路上に降り、真っ暗なトンネルの中へと進む。すると、遠くに松明の灯りが見えた。


そこは検問だった。

バリケードで塞がれており先へ進めないが、中央に扉が作られていた。扉の両脇に、これまたライフルを持った監視二人が立っている。


「『旧自衛隊基地』まで行く」


「わかりましたボス」


そう言って、監視の一人が扉を開けた。

扉の向こうには真っ暗闇が広がり、一切の光源がない。

まず8人の護衛が、その扉の向こう側へと進み、一斉に銃を構える。ジョーとジョージが護衛達の後に続いた。

ジョージは息を飲んだ。護衛達は何かを警戒している。

一行は、真っ暗なトンネルの中を進んだ。




「あなたが俺の父親⁉︎」


一時間ほど前、ジョージはジョーの部屋でこう叫んでいた。


「冗談はよして下さい…そんな話聞いた事が…」


「あるはずないさ。君が幼い頃、エマと一緒に私の弟…つまり君が、今まで血の繋がった父親だと思っていた男の元へやったんだ。物心つく前の事だから、覚えていなくても無理はない」


ジョージは尋ねた。


「だとしても…あの家柄を気にする父が、反政府勢力の人間の子どもを快く迎え入れるとは思えません」


「…そう、私は『青い星』の指導者だ。ゆえに命を狙われる危険性もあり、出来れば自分の子どもは安全な場所においておきたかった。そして弟は長い間、自分の子どもができなくて困っていた。だから君達を引き渡したんだ」


ジョージは腑に落ちなかった。

しかし、ジョーの言う事を裏付ける証拠が一つだけあった。家の倉庫で見つけた古い写真だ。あの写真に写っていた男性とジョーは見まごうほど似ている。


丸メガネを掛け、旧日本自衛隊のものと思わしき軍服を身につけ、ベレー帽を被った長身の男性。そして何より、ジョージがあと数年したらこんな感じになりそうだ、という顔をしている。


本当の父親であるかどうかはともかく、ジョーがジョージと血縁関係があるという事は本当だろう。

ジョーが腕組みをしながら聞いた。


「…私が信用できないか?」


「……そりゃぁ…突然『本当の父親だ』なんて言われても…」


「ハッハ、まぁそうだろうな」


ジョーはそう言って、部屋の奥にある机の方に踵を返した。机の後ろの壁には、星の旗が飾られている。


「まぁ、私の言うことを信じるかどうかは今はどちらでもいい…それより、君に会わせたい人物がいる、私に着いてきなさい」


そう言ってジョーは、机の上に置いてあった服一式をジョージに手渡した。

ジョージは渡された服を広げて見た。小麦色の野戦服のようだ。


「君の服は濡れてしまっていたのでね…そんな古いのしかなかったが、我慢してほしい」



ジョージは服を着て、ジョーと共に部屋を出た。廊下を通り、階段を降りて一階の医務室へ向かう。途中すれ違う人達は皆、せわしく書類を運んだり誰かと電話したりと忙しくしていた。

皆、『青い星』のメンバーだ。


医務室は学校の教室くらいの広さで、大勢の人でごった返していた。その一番奥のベッドに、見覚えのある人物が横たわっていた。

ジョージは驚愕した。


「先…生……?」


そこに横になっていたのは、ジョージに昔から勉強を教えてくれていた、あの親しみやすい家庭教師だった。眠っているのか、ジョージの存在に気づかない。


「ジョージ、君はこの人をよく知ってるだろう?彼は家庭教師として君の家に潜入し、君とエマを監視するよう私に命じられていたんだ」


ジョージは驚いてジョーの顔を見た。


「俺を監視⁉︎」


「そう。思い当たるフシはないかね?」


ジョージは少し考えてみた。そして一つ思い当たるフシがあった。


「そういえば…やたら俺の近況を聞いてきたような…」


「彼は君に、腕の『青い星』のマークを見られたと言っていた。君はそれが何なのか、気づいてないようだったから幸いだったが」


ジョージはその事を思い出した。家庭教師は常に右腕の一部に包帯を巻いていた。しかし、一時それが緩んでいた事を指摘したら、えらく焦っていた。


「この人は…何かの病気なんですか?」


ジョージは眠っている家庭教師を見ながら言った。ジョーは無言のまま、家庭教師に被さる布団をめくった。

直後、ジョージは絶句した。


「…⁉︎」


「数日前、地下鉄の廃線を通っている時、何者かに襲われたらしい。命からがら逃げ帰ってきたよ。一緒にいた仲間2人は死んだ」


家庭教師の右腕が、肩からごっそりと無くなっていた。

ジョージは微かに震える声で聞いた。


「何でまた…廃線なんかに?」


「…ここから離れた所に、今は使われていない古い自衛隊の基地がある。地下鉄を通ってそこへ行こうとしたのさ。あそこにはまだ、強力な武器や使える乗り物が残ってるからね。それに…君を海外へ送る為でもある」


ジョージは言葉を失った。


「俺を…海外に⁉︎え、どういう事です⁉︎」


「外の世界へ行く事が、君の長年の夢だったんだろう?眠っている彼から聞いたよ。それに、小説を書くなら外の世界を旅してみるのは、いい経験になるんじゃないかな?」


ジョージは訝しんだ。

仮にジョーが、本当に自分の父親であるとしても、一端の組織のリーダーが自分のような子ども一人の為に、仲間の命を危険に晒すとは考えにくい。

何か明確な目的があるはず。


「何で…俺の為にそこまで…?」


ジョージは疑うように尋ねた。


「…君を海外へ送る利点はいくつかあるが、まぁ1番の理由は私が君の父親だからだと思ってくれ。可愛い子には旅をさせよ〜とかあるだろう?君は外の世界へ行きたい。私は君を海外へ送り出したい。目標は一致している」


「でも…海外は危険なんでしょう?俺一人じゃ…」


「そこは安心してもらっていい」


ジョージの顔に疑問符が浮かぶ。ジョーは付け加えた。


「君は自動操縦のヘリに乗って海を越える事になるが…目的地に着いたら『ジョン・アーウィング』という男を探すんだ。むこうでは『カーネル』と呼ばれているらしいが、彼が君を護ってくれる」


「そう…ですか」


ジョージの中で思いが交錯した。

ジョーの狙いが何にせよ、念願の海外へ行けるなんて願ってもない話だ。しかし、まだこの丸メガネの男を信用できたわけではなかった。それに、海外という未知の世界へ飛び出す事への恐怖も、好奇心と同じくらい残っていた。

しばらくしてジョーが聞いた。


「まぁ…さすがに急な話だよな。いきなり海外へ行けだのなんだの言われても、二つ返事で『はいわかりました』とは言えないよな」


ジョージは唇を結んだ。


「…出発はいつなんです?」


ジョーが「ほぉ」と驚いた顔をして答えた。


「出発するなら、今日だ」


「え…今日?」


「ハッハ、丁度今日、旧自衛隊基地の方に用事があるんでね。ヘリは基地にあるからついでにそこまで連れていくよ…やっぱやめにしとくか?」


ジョージはためらった。基地へ行くには、目の前に横たわる家庭教師が、何者かに襲われた暗い廃線トンネルを通る必要がある。普通なら躊躇してやめるところだ。

しかし、今のジョージの心情は常人のそれとは違った。


「行きます…!」


自分はこれから、何があるかわからない海外へ行こうと言うのだ。こんな事で躊躇してはいられない。

大体、これ以上嫌なことから逃れてどうする。やっと新しい世界へ出るチャンスが来たんだ。ここで何もしなかったら、自分は一生半端な人生を送ることになるだろう。

そんな切迫感が、ジョージが覚悟を後押しした。


「どうせ帰る場所はないんだ。『逃げ』と言われようが何だろうが、俺は外の世界へ行きます」


これ以上悩む前に、そう宣言した。



『周りと違う道を進むのは難しいぞ。悪いが俺には、お前にそんな特別な力があるようには見えない』



そんな父の言葉が脳裏をよぎった事に、気づかないフリをして。





ジョージ達一行は暗いトンネルの中を進んでいた。

ジョーが持つランタンが、所々剥がれ落ちたタイル張りの壁や、足元の錆び付いたレールと水溜りを照らし出す。

一寸先は闇、その闇の中へと伸びる線路に沿ってジョージ達は進んだ。


「…おかしいな」


30分ほど歩いた頃、ジョーが唐突に呟いた。

ジョージはだいぶ疲れてきていた。背中に担いだ重いリュックのせいだ。

中には地図やライト、「万能翻訳機(ピースメーカー)」など、旅に必要な道具が沢山詰まっていた。

息切れた声でジョージは尋ねる。


「…何が…おかしいんです?」


「すぐ先に開けた場所があって、そこから地上へ出るんだ。そこには目印として、ドラム缶に焚き火がしてあるんだが…その灯りが一向に見えないんだ。そろそろ見えるハズなんだが…」


警戒するジョーに、ジョージは言った。


「…この雨漏れで消えたんじゃないですか?」


「…だといいんだけどな」


「?」


ジョーは明らかに何かを警戒していた。


「全員ライトを消して、暗視ゴーグルに切り替えろ。電池がもったいないが…ここから先、灯りは使わない方がいい」


ジョーはそう言って、自身も暗視ゴーグルを着け、手に持っていたランタンを消した。


ジョージは渡された暗視ゴーグルを着けながら、なぜ灯りを使わないのか聞こうとしたが、先頭にいた護衛の声に遮られた。


「見えました!」


少し先に、開けた空間が見えた。

ジョージは、目前に迫った海外に、心臓の鼓動がはやくなった。




そこの開けた空間は、隣駅のホームだった。

昔はここにも人が住んでいたのか、周囲にはテントやバラック小屋がそのまま残されていた。


ジョージ達は線路上からホームへとよじ登り、辺りを警戒する。


ホームに上がって左に通路が伸びており、その奥には改札口、そしてさらに奥には階段が見えた。地上への出口だ。

ジョージは、心臓の鼓動がいっそう早くなった。


ホームの中央に、ボロボロのドラム缶が転がっていた。

中に入っていた薪が飛び散らかり、水たまりに浸かって使い物にならなくなっていた。火は明らかに、意図的に消されていた。


「気をつけろ!以前仲間が襲われたのもこの辺りだ、犯人がいるかもしれん」


ジョーの指示に護衛達8人がより警戒を硬くする。



バ ッ ‼︎



その時、四方からのサーチライトがジョージ達を照らした。

ジョージは思わず目を覆ったが、直後の大声で何が起きているのか察しがついた。


「全員銃を捨て、手を挙げろ!」


ライフルを構えた警察隊がジョージ達を囲んでいた。物陰に潜んでいたのだ。


「我々は国立警察隊。少しでも反抗するそぶりを見せたら全員即射殺する!こちらは武装した警察隊30人だ、賢い選択を期待する」


ジョージは混乱してジョーの顔を見た。ジョーも、まさかこんな所にまで警察隊が現れるとは思っていなかったらしく、焦った表情をしている。


「…お前らか、数日前ここで仲間を襲ったのは。人間の腕を切り落とすなんて人のやることじゃないな」


ジョーが何かを確かめるように聞いた。


「…何の事だかわからないな。手を挙げろと言っている‼︎!」


ジョーは、護衛達にライフルを置くよう指示した。その時、警察隊の一人の背後から、男が場の優勢を確認して出てきた。


「お前たちがここに来ることは知っていた。ジョージは返してもらう、お前ら反政府ゲリラの好き勝手にはさせん」


男は蔑むように言った。ジョージはその顔を見て唖然とした。


「父…さん……?」


ジョージの父、正確には本当の父の弟がそこにいた。

ジョーが父に聞いた。


「何の用だ?ここは別に、立ち入り禁止区域でもなんでもないぞ?『名古屋から出てはいけない』なんて法律もない」


「だが『国内から出てはいけない』という法律ならあるぞ兄さん。国立警察の捜査網を甘くみないで欲しいな、ジョージを海外へ送り出そうとしている事くらい、調査済みだ」


「…なぜそれが?」


「ジョージがいなくなったんで、部下たちに探させていたら、地下鉄駅に担ぎ込まれるのを見たという情報が入った。おかげで『青い星』の本部が突き止められたよ」


父は、勝ち誇ったように言った。ジョーは父に追及する。


「我々の本部にスパイでも潜り込ませていたのか?」


「…そうだな、だがまだ調べ不足だ。近々警察をガサ入れにでも送り込むよ。そうなれば反政府勢力『青い星』はお終いだ。本気で政府に楯突くような連中は、もういなくなるだろう。…まぁ、兄さん達はここで捕まってお終いだが」


ジョージはそれを聞いて、そんなこと御免だと思った。またあの生活に戻されるなんて真っ平だった。不安げにジョーの顔を見る。

すると、なぜかジョーは自信に満ち溢れた様な表情をしていた。


「そうか…まぁ本当に〝捕まえられたら〟の話だがな。とにかく、ベラベラと内部情報を教えてくれて感謝する」


そんな事を口走る。ジョージの額に汗が流れた。ジョーには、この絶望的状況を切り抜ける策でもあるのだろうか。


「内部情報もなにも…兄さんはここで捕まってお終いさ。どうやってここを切り抜け…」


「感謝ついでに、お返しと言ってはなんだが警告しとこう。そのサーチライト、消した方がいい」


ジョーは食い気味に言った。

父は呆然とした顔をし、フッと鼻で笑った。


「フッフ、何を意味のわからんことを。そんな事しても兄さん達に逃げる隙を与えるだけじゃないか。もういい、お前達ひっ捕らえろ!」


そう父が警察隊に指示を出した時だった。




ブ オ ォ ォ ォ ォ . . . .




どこからか奇妙な音が聞こえた。

その場にいた全員が静止し、沈黙と緊張した空気が流れる。


「なんだ?今の妙な音は⁉︎」


父が慌てふためいた声を出す。警察隊が警戒して、ライフルのライトで辺りを照らし出すが、何も見当たらない。


「…今の音なんなんです?」


ジョージは思わず、小声でジョーに聞いた。ジョーは静かに、そして微かに震える声で話した。


「…さっきこいつらに囲まれた時、ドラム缶の火は、こいつらが身を隠す為に消したのかと思った。だが違う。火を消したのも、数日前仲間を襲ったのも、おそらくこいつらじゃない」


ジョージはなんだか身震いがした。

ジョーは付け加えた。


「ずっと疑問に思ってたよ。仮に仲間を襲ったのが、こいつら政府の人間だとして…何のために人間の腕を切ったりなんかしたのか?ってね。捕まえようとしたり、襲ったりするなら普通銃を使うはずだって…」


ジョージは何となく事を察した。


「そして案の定…犯人は人間じゃなかった…?」


「お前達、なにをヒソヒソ話してる!おとなしくし…ーーー」




ガ ア ア ア ァ ァ ァ ァ ァ ン ! ! ! !




警察隊の一人が、ジョージ達に忠告したその時だった。

天井のダクトを突き破り『何か』が飛び出した。

その『何か』は目にも留まらぬ速さで、金属音のような音を発しながら、ジョージ達を囲むサーチライトの一つに突進した。

サーチライトの近くにいた警官一人が巻き添えをくらい、吹き飛ばされる。


「走れ!」


ジョーの掛け声と共に、ジョージと護衛達は一斉に地上へと続く階段へと走り出した。




~To be continued~


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