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Gを狙撃せよ

 クズラーの沿岸基地『アルバストラ』は四方を山に囲まれた小さな砂浜にある。上空から見ると、学校の体育館程度の大きさの建物にヘリポートがくっついているだけなのだが……。地上の建物から地下へと降りるエレベーターがあり、砂浜の地底から山地へと通路が伸びており、広大な地下施設が存在する。山の高所にはミサイル発射台がカモフラージュされており、沿岸に面している地下道には潜水艇の発着する港もある。


 自然を利用した堅固な要塞、クズラー屈指の秘密基地――


 と言いたいところだが、ヒーロー協会には既に所在が知られてしまっているらしい。大怪獣ギュラゴが目覚めたならアルバストラは真っ先に狙われるだろうと、ゲズ将軍は言っていた。


 ここでギュラゴを待ち伏せし、撃退するのが今回の作戦というわけだ。


「戦闘ヘリ五機に、ミサイル発射台が三か所、稼働可能な潜水艇が二艇、配備人員約五十名か……すげえ基地だな」


「規模の割には常駐の人員が少ない気もしますけどね」

 レイザーは狙撃銃の手入れをしながら言った。


「人件費、維持費……悪の組織とは言え予算は限りがあるもんな」


 俺とレイザーは山の頂上にいた。

 ここからレイザーがギュラゴの弱点を狙い撃つことになっている。


 大怪獣ギュラゴの全身は鋼鉄のような硬い鱗に守られており、ロケット弾も機関砲も通用しない。過去に自衛隊と交戦した時、戦車や戦闘ヘリではほとんどダメージを与えられなかったらしい。


 ギュラゴは怪光線を発射する際に大きく口を開ける。そこが唯一のウィークポイントだ。口内粘膜まで鉄のように硬いということはないだろう。しかしその口元も鋭い牙に守られているため、精密な射撃の腕が要求される。


 そして、俺の任務はレイザーの護衛だ――。


 ゲズ将軍の推測ではギュラゴはハイマスター・ドーラに操られているという。ギュラゴと共にドーラが現れるかもしれない。また混乱に紛れてヒーローの誰かが潜入する可能性も高い。


 ギュラゴに致命傷を与えられるレイザーは敵に存在が知れたら真っ先に狙われる。レイザーは狙撃銃の他には護身用の拳銃しか持ってないし格闘戦も苦手だ。狙撃を終えた後は確実に位置がバレてしまう。


「頼りにしていますよ、リッパー」

「任せておけ。あんたの腕も頼りにしてるぜ。ここからならギュラゴがどこから現れても良く狙えそうだな」 

「ええ、でも、狙撃にはあまり適した場所ではないんですよ」

「そうなのか? とても見晴らしのいい山頂だと思うんだが」

「海が近いのが問題なんです。風に巻き上げられた細かい砂粒がスコープや銃の隙間に入り込んでしまう。アサルトライフルで中距離以内の敵を撃つならさして影響はありませんが……複雑な構造の狙撃銃で精密射撃を行う場合、些細な不備が大きな誤差に繋がります」

「へえ……」

「太陽光が海面に反射して、照準の妨げとなることもありますね」

「難しいな」

「まあ、すべて計算済みです。それが僕の仕事ですからね」

「その重そうなポンプも狙撃に必要なのか?」

「圧縮空気が入っています。精密な銃の手入れには必要不可欠です」

「狙撃ってのも大変なんだな。俺は細かい作業は苦手だから、殴る蹴るに専念するよ」


 俺は自嘲気味に笑うと、双眼鏡で大海原を見る。

 ギュラゴの姿はまだ見えない――。

 観測班によると、ギュラゴは既に動き出しており、もうすぐ沿岸に姿を見せるという。


「はやく生で大怪獣を見たいぜ。まだテレビでしか見たことがないんだ……ん?」


 ヘルメット内のイヤーホンに声が入ってくる。


「こちらスピーダ、応答せよ!」

「リッパーだ。何かあったのか?」

「侵入者だ! 山頂に向かっている!」

「侵入者?」

「戦闘員の数名と連絡が取れない。おそらくヒーローだ!」

「こっちに向かってるのか? どうすればいい?」

「もうすぐギュラゴはあらわれる。今から狙撃位置を変更するのは無理だろ」

「無理だな」

「こっちはオトリの陸上部隊の護衛についてるから動けねえ」

「俺がやるしかないってか……」

「すまねえな、リッパー、頼んだぜ」


 胸元のポケットに入れていた携帯端末を見ると、警戒装置から割り出された侵入者の位置情報が送信されていた。


「確かにこちらに向かっているようだ」

「何故、ここがわかったんでしょう?」


 狙撃銃の準備をしていたレイザーが不安そうに俺を見る。


「敵にも頭のキレるのがいるのか……今まで戦ったヒーロー連中は脳筋ばっかだったけどな」

「少々、想定外ですね」

「かもな……。レイザーは狙撃に集中してくれ。相手がどんなマヌケか知らないが、指一本触れさせやしないさ」


 ヘルメットとマスクを付け、グローブをはめ直して、敵を待つ。


 このグローブとブーツに仕込んであるヘルクライマーとかいう特別装備はまだ実戦で使用してない。壁や天井に張り付けるらしいが……ここは山の頂。張り付けそうなものは、大地に深々と根を下ろして生い茂っている大木ぐらいだ。果たして使い道はあるのか。まあ無理に使う必要はないんだが。


 そんなことを考えていると、茂みをかき分けて山を登ってくる男の姿が見えた。


「ンッンー! やはりいましたねえ、クズラーの狙撃兵!」


 ジャージ姿で竹刀を携えた、黒髪ロンゲの中年男。


「ギュラゴの弱点は口! そこを突くには、見晴らしの良い場所からの遠距離狙撃しかありませんからねぇ~。そんな重要ポジションに少数の戦闘員しか配してないとは、ンッンー! いけませんねぇ~、大減点ですよぉ」


「こいつは……」


 機動教師ケンハシ――テンヒーローズのひとりだ。現役教師でありながらクズラーの悪行を見かねて、ヒーローへの改造手術を受けたらしい。三年間無敗であり、その強さはテンヒーローズでも上位と言われている。


「おや? てっきり怪人がいるものかと思ってましたが、戦闘員しかいないのですか?」


 ケンハシは怪訝そうに周囲を見回す。


「舐めるなよ、先公。俺たちはSクラスだ」

「ほう! 噂には聞いていましたが、怪人に勝る強さを持つというクズラーのS級戦闘員ッ! それはそれは、しばき甲斐がありそうですねぇ~」

「ビビッて帰るなら今のうちだぜ。こっちは忙しいんだ。おまえの教師ごっこに付き合ってる時間はない」

「ンンッ? ごっこではありませんッ! 私の教育的指導は本物ですよッ!」


 ジャージ男は竹刀を構えると、間髪を入れずに突撃してくる。


「悪い子に手加減はしませんッ! オメーンッ!!」

「――ッ!?」


 俺は素早く横に飛んで竹刀の振りを回避した。一瞬、手で受け止めようか、ギリギリでかわして反撃するか迷ったが、嫌な予感がして距離を優先した。その判断は正しかった。

 ケンハシの竹刀が勢い良く振り下ろされると、ドンッ! と轟音を立てて風圧が広がり、一気に草地がめくり上がって消し飛んだ。


「ウホッ! なかなかの瞬発力ですねぇ! S級戦闘員クン!」

「リッパーだ」

「リッパ君ですね、覚えておきましょう!」


 ケンハシの立っている場所の地面だけ僅かに陥没して草花が消滅している。地割れのようなヒビも入っていた。それを見た俺は、間違いなくユーファのパラパラヒット以上の威力を持った一撃だと理解する。


 テレビで見た時も、何の変哲もない竹刀と剣道の技で、クズラーの戦闘員と怪人をあっさりと撃破していた。なんでそんなに強いのか、原理がさっぱりわからなかった。まあそれを言ったら他のヒーローも大概だが……。


「なるほど……見た目はふざけてるが、強さは本物のようだな」

「ンッンー! 人を見た目で判断してはいけませんねぇ」

「まったくだ。可愛い魔法少女かと思ったら、男って事もあるからな」

「ンン? もしやぁ、マジカル・ユーファを倒したのはあなたなのですかぁ?」

「いや、俺はお供のクマを気絶させただけさ」

「ほう、あのティーガを……これはますますシバキ甲斐がありますねぇ」


 そう言いながら、ケンハシは既に構えに入っていた。この男……立ち回りに隙がない。言葉を交わしてる間も殺気を周囲に張り巡らせており、背後から襲いかかったとしてもすぐ反応されるだろう。


 強敵だ――しかし、この程度の敵も倒せないようでは、俺の目的は果たせない。


「ンッンー! では教育的三連撃……いきますよっ!」

「こい――」

「サイン! コサイン! タンジェントゥハ!」


 間合いに入った瞬間、鋭い振りが三連続で襲いかかった。体感0.5秒ほど。並の人間であれば竹刀を3回振ったようには見えないだろう。

 俺は精神を集中させ、三連を紙一重で上体を反らして回避しつつ、懐へと回り込んだ。


「ウホッ!」


 死角に飛び込まれたのに、やつの顔は冷静だった。

 このまま一撃を繰り出してもかわされると確信。

 なら――。


「最初はグー!」

「ンンッ?」

「と見せかけて、リッパー・キーック!!」


 あざといフェイントだったが、それがむしろ意表をついたのか、俺の蹴りはあっさり命中した。脇腹にめり込んだ足裏がジャージ男の身体を強烈に吹き飛ばす。


「ファッ!? ンンンンンンンンンーーーーッ!?!」


 顔を歪めて呻きながらも、ケンハシは咄嗟に受け身をとって着地した。華麗な身のこなしで立ち上がり、竹刀をピシッと横に構えて再び対峙の姿勢をとる。


「ウホッ、なかなかエキセントリック! ですねぇ~。それでいて蹴りの精度はクリーン、あーんど、エクセレント!」


 俺に視線を向けてニヤリと笑みを浮かべている。

 手足の震えも、呼吸の乱れもない。

 まったくダメージを受けてないようだ――。


「やるな、ケンハシ」

「あなたもいい仕事しますねぇ~、まさにグッドジョブです、リッパ君! ではではぁ、本気で教育的指導といくしかありませんねぇ~、腕が鳴りますよぉ! ンッンー!」

「舐めるなと言っただろ、先公」

「ンンッ?」

「俺も本気で――行くとするか――」

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