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最悪の事態

「今日からおまえのコードネームは『リッパー』だ」


 作戦会議の直前、レイバルン将軍が俺にそう告げた。


「リッパー、ですか」

「それと、これがおまえに特別支給される装備だ」


 女将軍は黒い手袋とブーツを俺に渡した。手の甲のところと、ブーツの側面に何か機械がくっついている。S級戦闘員は特別なコードネームがあてがわれ、新しい装備が支給されることになっていると、ゲズ将軍から聞いてはいた。


「なんすか、これ」

「ヘルクライマーと呼ばれている。重力変換装置の試作品を搭載したグローブとブーツだ。壁にくっついたり、天井に張り付いたりできるのではないか。私も詳しくは聞いてない、というかテストがまだらしく実証データが存在しない」


 また適当な……。


「おまえはパンチやキックだけで破壊力が十分だからな。すばやく自在に移動できる装備の方が良さそうというゲズ将軍の判断だろう」

「まあ、もらえるものはもらっておきます」

「扱いには注意しろ。テストできなかったのは使いこなせそうな戦闘員がいなかったからだ。データをとる為の記録装置がついている」


 俺は実験台か……。



――――



会議室に入ると、三名のS級戦闘員、上位の怪人が十体ほど並んでいた。


「おまえがリッパーかい?」

 S級戦闘員らしきひとりが、俺に声をかけてきた。

「テンヒーローズの三人を倒したそうだな。そんなヤバイやつは今までいなかったぜ」

 見た目二十歳ぐらいの若い男だ。

 茶髪の無造作ヘアで、ちょいとチャラそうな兄ちゃんという印象。

「運が良かっただけさ。あんたは?」

「俺はスピーダ。名前の通り、足の速さだけが自慢さ」

「まあ俺も腕力だけが自慢みたいなもんだ。よろしくな、スピーダ」


「僕はレイザーです、はじめまして」

 次は眼鏡をかけて七三分けの髪型の、生真面目そうな男。

「主に狙撃を担当しています」

「へえ、銃を使うのか」

「クレー射撃が趣味でして……クズラーにスカウトされました」


「私はミッソー。武器なら何でも扱う……」

 そう言ったのは、ショートの髪に鋭い目をした女だった。

「女の戦闘員は初めて見たな」

「そう……私だけじゃなかったと思うけど」

「武器は何でも使えるのか?」

「爆弾、バズーカ、戦車、航空機、潜水艇……」

「す、すごいな」

「陸海空を問わず、何でも……」

 冷やかな態度だが、嫌いなタイプじゃない。

 見た目もなかなかの美人だ。

 レイバルン将軍ほどの悩殺ボディじゃないが。


 自己紹介が終わったあたりで、クズラーの幹部四人が会議室に入ってきた。

 三人のS級戦闘員の端にさっと並んで整列する。


「全員揃っているな」

 ゲズ将軍が会議室を見回す。


 ゲズ将軍――作戦考案と怪人製造を担当する幹部。地底人メナグスの生き残りらしい。実年齢は不明だが百歳以上と言われている。銀色の仮面の下は鉄のような肉体を持っており、最強のヒーローと言われているレオ&ドーラと交戦したこともあるという。戦闘能力は幹部の中で最も高いのではと俺は見ている。性格は意外と優しい、部下思いの上司って感じだ。


「リッパー、自己紹介は済ませたか?」

 レイバルン将軍が豊満な胸を揺らしながら近付いてくる。

「はっ、済んであります!」

「次の作戦は、S級戦闘員チームの動きが重要となる。各自の役割をよく把握しておくのだ」


 レイバルン将軍――主に戦闘員の指揮を担当する美女幹部。地底人メナグスと日本人のハーフらしい。外見的には二十代半ばくらいに見えるが年齢不明。胸元の大きく開いた赤いハイレグのレオタードという煽情的なコスチュームを着ている……戦意高揚のためというゲズ将軍の指示だそうだ。部下を悦ばせる為に女王様を演じることもあるが、本来は恥ずかしがり屋でSな性格ではないっぽい。戦闘能力は高く、鞭の威力はユーファのマージナルバリアを破壊するほど。両親はハイマスター・ドーラに殺されたらしい。


「ヒーロー三人を倒すとは、稀に見る逸材だな。リッパー君、次の活躍も期待しているッ!」

 白い軍服に眼帯をつけた男が、指揮棒を揺らしながら言った。


 アッカン大佐――主に情報収集や秘密工作を統率する幹部。実戦の場に出てくることはほとんどない。眼帯はただのお洒落らしく、気分によって右目につけたり左目につけてたりする。肉体的には普通の人間だが射撃の腕前はすごいらしい。


「ティーガは俺が倒したかったんだがナァ……」

 2メートルを超える巨体の蜂男はギラリと目を光らせた。


 ドンパチキ中佐――怪人たちの首領である。回避不能な毒針弾幕で攻撃する。切り札として温存されているが、寒さと殺虫剤には弱い。頭もあんまり賢くないらしい。


 ちなみに将軍とか中佐とか階級は適当にかっこつけるための飾りで、戦闘員や怪人より偉いのは当然だが、四幹部の上下関係はないに等しいとのこと。

 クズラーって……。


「次の作戦を説明する前に、現在の状況を整理しておく」

 ゲズ将軍が言うと、アッカン大佐がモニターのスイッチを入れた。

 液晶画面に十人のヒーローの名前が映し出される。


 ハイマスター・ドーラ

 ハイランダー・レオ

×ミストライダー

×リーマンマスク

 古羽黒治郎刑事

 機動教師ケンハシ

×対怪忍ツムカリ

×ドラゴン梶原

×マジカル・ユーファ

×グリズリー・ティーガ


 既に倒されているヒーローの隣にはバツ印が付いていた。ヒーロー協会に登録されているヒーローの上位十名は『テンヒーローズ』と呼ばれている。他に二流以下のヒーローが百名ほどいるらしい。


「今年度はすばらしいことに、テンヒーローズの一人を殺害、五人の捕獲に成功した。ドラゴン梶原はS級戦闘員チームによって暗殺、対怪忍ツムカリはドンパチキ中佐とイカ怪人が捕獲。ミストライダー、リーマンマスク、ティーガは戦闘員サンマルサン……先日S級に昇格したリッパーにより倒された。マジカル・ユーファ捕獲もリッパーの活躍によるものが大きい」


 ドラゴン梶原――某有名映画スターに憧れてヒーローになったというクンフー使い。強さは並だが怪人撃破数は健闘、日々の努力が認められてテン入りを果たす。人間的な愛嬌が一番感じられるヒーローとして男女問わず人気があった。しかし人気アイドルと密な関係であることがマスコミにすっぱ抜かれ、所属事務所が火消しに追われている中、愛人宅で死亡しているのが発見された。

 死因は不明と報道されていたが、S級戦闘員チームが暗殺したのか……。


 対怪忍ツムカリ――現代に生きる女忍者、クノイチ。むちむちの肉体を薄い忍者装束で包んでおり、戦っている時は巨乳巨尻が揺れまくり、男性のヒーローファンから圧倒的な人気を集めていたが……先月、イカ怪人に敗れてクズラーに捕えられた。コスチュームはボロボロに破かれてイカの触手で縛り上げられてる姿が放送され、最後までとてもエロかった。


「残るテンヒーローズは四名だが……最悪の事態が近づいている」


 ……最悪の事態? 


 画面が切り替わり、太平洋の地図が映し出された。

 そして大小の赤い円が次々とあらわれる。


「ここ半年の間、原因不明の海底の震動が多数、観測された。

 大怪獣ギュラゴが、目覚めたのだ――」


 大怪獣ギュラゴ――米軍の核実験による影響で突然変異的に生まれたと言われている、身長五十メートルを超える巨大怪獣だ。原理不明の破壊光線を口から吐き出し、過去に何度か上陸し都市を破壊した。かつては人類の敵だったが……自衛隊とヒーロー部隊に敗れて以来、おとなしく従っていた。最近は動きがなく、海底で長い眠りについたのではと報道されていた。


「ギュラゴは過去に、クズラーの海上部隊及び本土の前線基地に甚大な被害を与えた。再び動き出せば最大の脅威となるだろう。

 次の作戦は、大怪獣ギュラゴ鎮圧だ。クズラー総力で挑む!」

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